C・ロナウドに続き、デ・リフトがユヴェントスに加入。「新たなベッカム法」と変革期を迎えるセリエA。
2019年夏の移籍市場が活発化している。
ストップ・ザ・プレミアーー。プレミアリーグを止めろ。2018-19シーズン、チャンピオンズリーグとヨーロッパリーグのファイナリストを独占したイングランド勢に対抗しようと、各国のクラブが積極的に動いている印象だ。
なかでも、注目はイタリアのセリエAだろう。あの「ベッカム法」を想起させる法律が制定されたのである。
■ベッカム法
2004年にスペインで税金に関する法律変更が検討され、2005年から施行された。それは2003年夏にマンチェスター・ユナイテッドからレアル・マドリーに移籍したディビッド・ベッカムに最初に適用された事実によって「ベッカム法」と呼ばれている。
その法律では、高年俸の外国人選手に対する最高税率が24%に引き下げられた。その頃、スペイン人選手の最高税率は43%だった。外国人選手が受けた恩恵は計り知れない。
2010年に変更が加えられ、年俸60万ユーロ(約7200万円)未満の選手に対してのみ適用されるようになった。ただ、その変更以前に移籍した選手に関しては移籍後6年間は所得税率を24%にするという「応急処置」が取られた。
■イタリアの新たな法案
そして、この夏、イタリアで新たな法案が可決された。2020年1月から適用される見通しのその法律は、スペインのベッカム法に非常に似ている。
2年の居住歴がない者、また、移籍してから2年間はイタリアに住むというのを条件に、最高税率が引き下げられる。イタリア北部で30%に、イタリア南部で10%になる。
北部のクラブで、年俸1000万ユーロ(約12億円)の外国人選手は、手取りで700万ユーロ(約8億円)を受け取る。南部のクラブにおいては、年俸1000万ユーロ(約12億円)で手取り900万ユーロ(約10億円)だ。
イタリア北部のトリノに拠点を置くユヴェントスは今夏、マタイス・デ・リフトを獲得した。デ・リフトに対して、年俸総額1200万ユーロ(約14億円)を準備した。デ・リフトの手取り額は840万ユーロ(約10億円)になる。
また、この夏、アドリアン・ラビオ、アーロン・ラムジーがフリートランスファーでユヴェントスに移籍している。ユヴェントスとしては移籍金ゼロによる補強が可能で、選手としては手取り分が多い、まさに「Win-Win」の取引だ。
イタリア南部に拠点を置くナポリはハメス・ロドリゲス獲得に向けて動いている。レアル・マドリーとの交渉は難航しているようだが、ハメスにとって、収める所得税が10%というのは魅力的なオファーだろう。
■肖像権と隆盛を誇った時代
昨年夏、クリスティアーノ・ロナウドがレアル・マドリーからユヴェントスに移籍した。その移籍を決定付けたひとつの要因が肖像権の問題だ。
現在、イタリアでは、国外で得た収入において年間最大10万ユーロ(約1200万円)の税金を納めればいい。これには肖像権も含まれる。C・ロナウドのようなスター選手にとっては、得でしかない。
1990年代に遡れば、隆盛を誇ったのはセリエAだった。
衛星放送の普及、大手企業参入の影響で資金は潤い、ボスマン判決による外国人選手の流入でセリエAの国際化が進んだ。ミラン、ユヴェントス、インテルのビッグ3に加えて、ローマ、ラツィオ、フィオレンティーナ、パルマが台頭した。
だがバブル崩壊と各企業の経営破綻で競争力が維持できなくなった。近年、セリエAは8年連続で王者に輝いているユヴェントスの「一強時代」となっている。
新法案により、イタリアのクラブは、国内だけではなく他国のメガクラブや国家クラブと競えるようになるはずだ。黎明期を超えて、イタリアが失われた力を取り戻そうとしている。