プレミアの乱。到来した栄光の時と、「血の入れ替え」による必然。
イングランドはフットボール発祥の地だといわれている。かつて、そこではキック&ラッシュと呼ばれるスタイルが常だった。
ボールが宙を舞っている時間の方が長い。そんな批判さえ、あったのだ。それと一線を画していたのはマンチェスター・ユナイテッド、リヴァプール、アーセナルくらいであった。
故ヨハン・クライフは、こう言った。
「イングランドのフットボールは観ていて楽しい。なぜなら、ミスがたくさん起こるからだ」
ミスが多発する。攻守がめまぐるしく入れ替わる。これは似て非なる事象である。
以前、前者の位置に甘んじていたイングランドのフットボールは、時間が経つにつれて後者に移行した。そして、さらなる進化を遂げた現在、チャンピオンズリーグ決勝に進んだリヴァプールとトッテナム、ヨーロッパリーグの決勝に進んだアーセナルとチェルシー、いずれもボールを握れるチームだ。
■流入と活性化
プレミアリーグを活性化させたのは、「血の入れ替え」である。
さらに言えば、「外からの血」だ。テレビ放映権の取得と分配の成功により、プレミアリーグに外国人選手と監督が流入してきた。
昨季、プレミアリーグはテレビ放映権により27億7000万ユーロ(約3440億円)の収入を得ている。その結果、2018-19シーズンを通じてプレミアリーグのチーム全体による補強への投資額は16億5100万ユーロ(約2029億円)に上った。
ユルゲン・クロップ監督(ドイツ)、ジョゼップ・グアルディオラ監督(スペイン)、マウリシオ・ポチェッティーノ監督(アルゼンチン)、オーレ・グンナー・スールシャール監督(ノルウェー)、マウリツィオ・サッリ監督(イタリア)...。今季、トップ6の指揮官に、イングランド出身者はいない。
プレミアリーグの監督は5人のイングランド人、4人のスペイン人、2人のドイツ人、2人のポルトガル人、イタリア人、ノルウェー人、アルゼンチン人、オーストリア人、チリ人、アイルランド人、北アイルランド人から成り立っている。延べ、11国籍にのぼる。
チャンピオンズリーグとヨーロッパリーグの準決勝で、イングランドのチームは合計16得点を記録した。そのうち、15得点を外国人選手が記録している。ディヴォック・オリジ(2得点)、ジョルジニオ・ワイナルドゥム(2得点)、ルーカス・モウラ(3得点)、ピエール=エメリク・オーバメヤン(4得点)、アレクサンドル・ラカゼット(3得点)、ペドロ・ロドリゲス(1得点)がゴールで勝利に貢献した。
イングランド人選手のものはルーベン・ロフタス=チークの1得点のみだ。
■成功への解
プレミアリーグの発展。その背景にはイングランド代表の成功と若年層の強化がある。
2018年のロシア・ワールドカップで、イングランド代表はベスト4に進出した。イングランド代表がベスト4に進出したのは、1990年のイタリア・ワールドカップ以来、28年ぶりであった。
準備は強(したた)かに仕込まれていた。2017年のU-17ワールドカップで優勝したのは、イングランド代表だった。この大会で最優秀選手賞に輝いたフィル・フォデンは、現在マンチェスター・シティで順調に成長している。同年のU-20ワールドカップとU-19欧州選手権で優勝したのも、イングランド代表だ。
育成年代の強化は進んでいた。ボトムアップ式の方法論で、成功への一つの解が導き出された。
最後にイングランドのチームがチャンピオンズリーグで優勝したのは、2011-12シーズンだ。チェルシーがビッグイヤーを獲得したが、その時の監督はイタリア人のロベルト・ディ・マッテオだった。
そして、先のバルセロナ戦の大逆転で、多くのフットボール愛好家が2004-05シーズンのリヴァプールを思い起こしただろう。チャンピオンズリーグ決勝でミランと激突したリヴァプールは、3点を先行されながら追い付いてPK戦の末に優勝を飾った。
「イスタンブールの奇跡」と呼ばれる一戦で、そのリヴァプールを率いていたのはスペイン人のラファエル・ベニテス監督であった。主力にはシャビ・アロンソ、ルイス・ガルシアといったスペイン人選手がいた。
ただ、プレミアに課題がないわけではない。今年の10月に何らかの答えが示されるブレグジット(イギリスの欧州連合離脱の通称)の影響は避けられないだろう。
離脱が決まった場合、規則の変更が確実視されている。新規則に則ると、現在プレミアリーグのチームに所属している選手のうちの、およそ70%の外国人選手が撥(は)ねられる可能性さえあるという。
果たして、栄光の時は続くのかーー。今後、「ストップ・ザ・プレミア」は各国の大きなテーマになるはずだ。