選手は含まず前監督と前コーチを告訴:指示命令と服従の心理学
■選手は告訴せず
通常は、実行した人を告訴せずに、指示命令を出したとされる人だけを告訴するのは難しいそうですが、今回はそうなったようです。
■洗脳、マインドコントロール
たとえば、オウム真理教事件では、実行犯達は洗脳、マインドコントロールされていたと、弁護側は主張しました。
しかし、裁判所はそれを認めず、実行犯は有罪判決を受けています。世間でも、実行犯達に厳しい意見が目立ったかと思います。実行犯達が、涙を流し反省し、あのときは騙されコントロールされていたと語っても、心理学者が説明してもです。
心理学的には、マインドコントロールの力は大きいと言いたいのですが、殺人のような重い罪を簡単には許せないと感じるのは当然ですし、また簡単にコントロールされていたことを認めてしまうと、社会秩序の維持が難しくなることもあるでしょう。
■服従の心理
洗脳やマインドコントロールのような特別なことではなく、もっとごく普通に指示命令されるだけでも、人はその言葉に服従してしまうことが、社会心理学から証明されています。
ミルグラムの「服従実験」(アイヒマン実験)が有名ですが、社会心理学は、性格が良い悪い強い弱いというような、そんな個性を超えた環境の力を考えます。
■人は個人のせいにしたがる
社会心理学の研究によれば、人は誰かの行動を見たときに、実際以上にその人自身のせいだと感じます。自分が遅刻したときには、「道が混んでいた」などと言いたくなりますが、誰かが遅刻してきたら「いいかげんな人だ」などと思いがちです。
実際には、人は環境の影響から離れ、自由な意思の力だけで行動できるわけではないのですが、私達はしばしばその人自身の責任を必要以上に追及したくなるのです。
■個人の責任と服従
もちろん、個人の責任がないわけではありません。むしろ、その個人が「自分は悪くない、社会が悪い、私に指示命令した人が悪い」と簡単に考えすぎることは、大問題です。そのような心理が、指示命令への服従を作り出します。ただ、指示命令に従ってしまうのは、決して弱い人や悪い人だけではないというのが、心理学者の考えです。
ユダヤ人から恐れられたナチスのアイヒマンも、「みんなが思っていたような『残酷・冷淡な異常人格者』などではなく『職務命令に忠実なだけの平凡で生真面目な人物』であることが明らかになっています」(指示命令と服従の心理学:アメフト危険タックル問題から:Y!ニュース個人有料)
■今回の出来事から
今回は、実際にタックルした選手の潔い謝罪の仕方等から、同情論も出ていますし、減刑を求める嘆願書も提出されています。しかし感情的な問題だけではなく、指示命令と服従に関する人間の心理と行動について、考えるきっかけにもしたいと思います。
今回の事実解明はまだ先ですが、前監督コーチの心理、動機も考えたいと思います。昨年度は、他大学と比べてとても反則が少ないチームだったそうです。また、もしもひどいプレーをさせる指示を出したとしたら、なぜもっと下の選手を使わずに、今回のようなトップ選手を使ったのか、よくわかりません。
今回の問題は、人の基本的な心理として指示命令に従ってしまう服従の心理、スポーツ集団における文化や上下関係の心理、コミュニケーションの問題など、多くの事柄が絡んでいるでしょう。
連日の大報道の中ですが、一個人や一組織を責めて終わるのではなく、より良いスポーツのあり方を考え、健全な人間関係やコミュニケーションのあり方を探っていきたいと思います。