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【解説】宗教虐待、児相保護・警察告発も躊躇なく―子ども・若者に届け!厚労省ガイドライン7つのポイント

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
団作さん(宗教2世当事者)の名刺の裏より ※ご本人の承諾を得て掲載しております。

旧統一教会、エホバの証人を中心としたカルト宗教2世の当事者が求めてきた、宗教虐待について、厚生労働省のガイドライン(宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&A)が12月27日に通知されました。

概要版詳細版

この記事では、厚生労働省ガイドラインの要点を解説していきます。

1.児童に対して宗教等行為を強制すること、恐怖・不安を刷り込むことは虐待

恋愛・交友・進学や子どもの娯楽を禁止することも、虐待

―これまで判断基準がなかった宗教虐待についても、児童虐待と位置付け

厚生労働省ガイドラインの概要は以下の図にまとめられています(概要版,p.2)。

前提として、保護者(里親を含む)→子ども・若者への虐待認定の基準が示されています。

厚生労働省ガイドラインより
厚生労働省ガイドラインより

画期的なのは、殴る蹴る、食事をさせない、子どもの世話をしない等以外の、児童虐待にあたるかどうか、これまで判断基準がなかった行為についても、児童虐待と位置付けられたことです。

厚生労働省では画像行為が明らかな児童虐待としてガイドラインに位置付けられました。

私が大きく7つのポイントで、ガイドラインの主な内容を、なるべくわかりやすい言葉で整理していきます。

できるだけ子ども・若者にも伝わるようにという考えからです。

正確な内容については必ず厚生労働省のガイドラインをご確認ください。

概要版  ※詳細版

(1)児童に対して宗教等行為を強制することは虐待

 ネグレクトやいやがらせで宗教活動を強制することも虐待

厚労省ガイドラインには「児童に対して宗教等行為を強制することは心理虐待に該当」とはっきり述べられています。

たとえば宗教活動を嫌がる子どもに対し、親や家族が暴力や暴言、無理やり連れだすなどの行為もですが、無視や嫌がらせなどで宗教活動への参加を強制することなども児童虐待となります。

暴力や断食、性虐待など以外にも、子どもに言動や態度で恐怖や不安、心理的圧迫を与えることが分かっている宗教行事に、保護者が子どもを参加させることも虐待になります。

また保護者自身が宗教活動や行事で、子どもの衣食住の世話をしない、勝手に家に置いて出かける場合も、虐待(ネグレクト)です。

・児童を無視する・嫌がらせをする等拒否的な態度を、日ごろから家族がすることにより、宗教活動等への参加を強制すること(心理的虐待又はネグレクト)

・宗教行事で長時間、同じ姿勢をさせたり、同じ動作(たとえば五体投地など)を繰り返させること(身体的虐待)

・深夜まで宗教活動等への参加を強制する行為(ネグレクト)

・児童本人が宗教を信仰していないにもかかわらず信仰してないのに信仰していると言わせる行為(心理的虐待)

・児童本人の意思に反して、他人に信仰する宗教等を言わせる行為(心理的虐待)

・特定の宗教を信仰していること衣服やアクセサリー(たとえば数珠やペンダント等)を身につけることを強制する行為(心理的虐待)

・宗教の布教活動に参加させるために、脅迫又は暴行を用いた場合(刑法の強要罪に該当する可能性)

(2)恐怖・不安の刷り込みは虐待

・「~をしなければ/すれば地獄に落ちる」、「滅ぼされる」などの言葉や恐怖をあおる映像・資料を用いて児童をおどすこと(心理的虐待又はネグレクト)

・恐怖のすりこみを行うこと(心理的虐待又はネグレクト)

これらのことを、子どもの交友・恋愛や進路など、自由意思に基づく自己決定をブロックするために親が行った場合にも、やはり虐待となります。

ここで、普通の大人なら「鬼が来る」などで子どもをおどかしたこと(おどかされたこと)があるけれど、あれは虐待なのでは、と心配になる方もおられるかもしれません。

そのような一時的な行為ではなく、もっと根深い恐怖を、家族や教団で繰り返し教え込む実態が当事者から厚労省に伝えられ、それに対応しているのです。

「この現実の世の中が、まもなく滅びて消えて、無くなる」と絵や講義で繰り返し教え込まれたり、学校の先生も教室のみんなも、近所の人もスーパーの人も、明日にでも「死ぬ」と何度も教えられる。

世の中の仕組み全てが明日にでも神により崩壊させられる、など、極端な価値観にもとづく恐怖や不安を、カルト教団が子どもに刷り込む実態があります。

このように「現実社会の破滅を繰り返しイメージさせ」子どもたちを不安や恐怖の中に置き続けることは、明らかに虐待にあたりますね。

もちろん異なる極端な価値観の教え込みもありえます。

(3)交友・恋愛の制限は虐待

交友(友達を作ったり、友達と遊ぶこと)・恋愛などを一律に制限し、児童の社会性を損なうような場合(ネグレクト)に該当すると規定されました。

・交友や結婚を制限するための手段として、おどかしたり、無視するような態度を日常から示したり、同級生、友達や彼氏彼女、学校の先生などを「敵」、「サタン」などと呼んで、子どもに不安や恐怖を与える行為(心理的虐待)

(4)子どもとして当たり前の娯楽の禁止も虐待

 (ただし教育上の配慮等に基づく合理的な制限を除く)

 学校行事等への参加制限・禁止も虐待

厚生労働省ガイドラインでは子どもとして当たり前の娯楽(テレビやゲーム、本やコミックを読むこと等)を禁止することもネグレクトとされています。

テレビも教団作成番組ばかりを見せることなども、虐待に相当します。

ただし、たとえばゲームの時間を1日の〇時間と上限を決めてする、などの教育上の配慮等に基づく合理的な制限は、虐待ではありません。

また、子ども本人が学校行事や部活や体育(武道等)に参加することを希望しているにもかかわらず、参加を制限したり禁止することも心理的虐待又はネグレクトと明記されました。

学校関係者も、子ども本人が希望する場合には、学校行事、部活・体育(武道等)に参加することに積極的に取り組む必要があります。そうでないと児童虐待に加担してしまうことになるのです。

児童相談所や自治体の担当部局と相談しながら、学校・園も子どもが安心して参加できる条件を整える必要が出てきます。

(5)進路や就労の禁止・制限も虐待

 アルバイト収入・奨学金の使い込み、勝手に献金も虐待

今回、厚労省ガイドラインの後半部分が、進路や就労の禁止・制限を虐待と位置付けることに割り当てられています。

また子どものアルバイト収入の使い込みや、勝手に献金すること(恐怖や不安や、無視などによって献金させることも含む)も虐待になります。

先の国会で成立した大人の被害者救済法(法人等による寄付の不当な勧誘の防止等に関する法律)により、信仰していない親や代理人がそのお金を取り戻せることも明記されています。

・進路や就労先等に関する子ども本人の自由な決定を邪魔すること(保護者の同意が必要な書類への署名や緊急連絡先の記入の拒否等を含む。)(心理的虐待又はネグレクト)

・ネグレクトなどを利用して義務教育である小学校・中学校への就学、登校、進学を困難とさせること(ネグレクト)。

・高等学校への就学・進学のときに、子ども本人が就学・進学を希望しており、信仰する宗教等の教義を理由として就学・進学を認めない行為(心理的虐待・ネグレクト)

・子どもがアルバイト等により得た収入や奨学金を取り上げ、使い込んだり勝手に献金すること(心理的虐待)

(6)中絶させない、輸血を拒否することも虐待

信仰や教義により子どもに中絶させない、子どもへの輸血を拒否することも虐待になります。

すでに輸血拒否については、日本輸血・細胞治療学会などによって構成される「宗教的輸血拒否に関する合同委員会報告」で必要な場合には親権を停止して子どもの治療を優先できることが2008年に公表されています。

厚生労働省ガイドラインでも、子どもへの輸血拒否など必要な治療を宗教的理由で行わせない場合にはネグレクトであると明記されました。

信仰や教義により子どもに中絶をさせない場合にも、子どもの意思が明確であることを前提として、保護者が中絶に同意しないことをネグレクトと位置付け、輸血の場合と同様に子どもが必要な処置を受けられることがガイドラインに明記されました。

親権停止等も含めて児童相談所等の関係機関が対応する方針も記載されました。

カルト教団内では性暴力が行われている実態もあるのです。

以下の事例も性的虐待として厚労省ガイドラインに明記されました。

・子どもに対し性器や性交を見せる行為や、子どもの年齢を考えない性的な表現(セックス、マスターベーション、淫乱といった文言やイラスト等)を含んだ資料・映像を見せたり、伝えること(性的虐待)

・子どもに自分の性に関する経験を話すことを強制する行為、家族に対してだけでなく教団関係者に対しても強制したり、止めないこと(性的虐待又はネグレクト)

 (7) 無理やり布教活動に子どもを動員することも虐待

不安や恐怖を与えたり、無視などの拒否的な態度を使って、子どもに対して宗教の布教活動等を強いるような行為についても心理的虐待に該当することが明記されました。

2.子どもの児相保護・保護者・教団関係者の警察告発も躊躇(ちゅうちょ)なく

―18才以上の自立を希望する当事者の相談にも児童相談所で対応する

厚生労働省ガイドラインには、教団関係者が保護者に指示や思い込みを与えることで、子どもに暴言・暴力や不安・恐怖を与える言動などを行った場合には、教団関係者にも、刑法犯罪が成立することから、児童相談所等が警察と連携して告発することも、躊躇(ちゅうちょ)なく=ためらいなく行うべきと明記されました。

また、明確な児童虐待でなくても、保護者の信仰を子どもが不安に思ったり、親から離れたいと思ったときは児童相談所は子どもに丁寧に寄り添うとともに、必要な場合に一時保護も行うことが明記されました。

18才以上であっても家族からの自立を希望する場合には、児童相談所が対応することが明記されました。

私の関わってきたケースでも17才くらいから児童相談所は子どもたちを切り捨てようとする場合が少なくないので、これは画期的な方針と言えます。

18歳以上の若者にも自立援助ホームという、若者期(おおむね15-20歳、22歳までの利用も可能)を対象とし、専門性の高い団体が運営するシェアハウスのような場で暮らしながら自立を支えていく制度があります。

3.厚生労働省ガイドラインでできなかったこと

―宗教2世支援立法がやはり必要

今回のガイドラインは、宗教2世が受けてきた被害を厚生労働省の官僚が丁寧に聴きながら、迅速に完成させたものです。

加藤勝信厚生労働大臣はじめ厚生労働省の子ども・若者の被害者や宗教虐待防止への対応には、当事者も私も感謝しています。

誰よりも、カルト教団から個人特定されるリスクにさらされながら、勇気をもって宗教2世への相談支援体制の拡充を、求めてこられた当事者のみなさんに敬意を表します。

学校、児童相談所、警察、あらゆる行政機関で宗教虐待は相談すら受け付けてもらえませんでした。

その状況がようやく変わっていくのです。

そのうえで、厚生労働省ガイドラインでできなかったことを簡単にまとめておきます。

・教団や教団関係者への児童虐待に対する調査、改善勧告、ペナルティは現行児童虐待防止法ではできせん。

・教育を受けさせない、学校行事に参加させない子どもの進学の妨害などは、憲法第26条・教育基本法に定める教育を受ける義務にも違反します。

 また学校教育法に定める保護者の就学義務違反に相当するケースも含まれること、子ども自身の自由意思を親がつぶしたり、子どもの自立を妨害する行為ともなり、単なる児童虐待以上の深刻な子どもの権利侵害として、より明確な法的定義や対応ガイドラインが必要ではないかということ。

・あわせて、宗教虐待の場合には、虐待対応に関わる児童相談所や学校・園の関係者もカルト教団の攻撃対象になることが懸念されます。子どもを守る関係者も、また守られる必要があります。

 これらのことは、厚生労働省ガイドラインだけでは対応できません。

これらの課題を克服していくためにも、児童虐待防止法、児童福祉法やその他教育関連法制を含め、改正や法制の整備が必要になります。

厚生労働省ガイドラインが、ここまでしっかりと宗教虐待への対応方針を明記したからこそ、これらの課題が見えてきたのです。

おわりに.とにかくまずは児童相談所(189)に相談を、法テラスは子ども・若者からの相談にも対応

最後に、子どもや若者のみなさん、学校などで宗教2世の当事者に関わられる大人、教員やスクールソーシャルワーカー、スクールカウンセラーなどのみなさんにお願いがあります。

これは宗教虐待では?

少しでも疑問を感じたときは、とにかくまずは相談してください。

児童相談所(電話番号、189)に連絡することをおすすめします。

このガイドラインは、全国の児童相談所にすでに通知されています。

児童相談所のみなさん、いつも子どもたちのためにありがとうございます。

お忙しいのは承知しておりますが、宗教2世の子どもたちのためにもどうかご対応をお願いいたします。

法テラスは、子ども・若者からの相談にも対応しています。

ひとりでも多くの子ども・若者や大人のみなさんの状況の改善につながりますように。

【総合的対応窓口(相談先が分からない場合)】

○ 法テラス「霊感商法等対応ダイヤル」

「旧統一教会」問題やこれと同種の問題でお悩みの方(こども本人を含む)を対象に、相経済的にお困りで法的トラブルを抱えた方は、法テラスによる無料法律相談や弁護士費用等の立替えを利用できることがある。

(電話番号:0120―005931(フリーダイヤル))

(メール問合せ)

https://www.houterasu.or.jp/houterasu_news/reikandaiyarumail.html

【金銭・法的トラブルを抱えている方への支援】

○弁護士会の子どもの人権に関する相談窓口

家庭内トラブルや児童虐待などこどもに関する問題について、多くの地域の弁護士会が電話や面接で無料の法律相談を行っている。保護者の協力なくこども本人が相談できるほか、児童相談所等からの相談も受け付けている相談窓口もあり、相談方法などの詳細は以下参照。

※相談窓口一覧

https://www.nichibenren.or.jp/legal_advice/search/other/child.html

※このほかの相談先は、厚生労働省ガイドライン(詳細版)をご確認ください。

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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