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ジョンソン英首相、EU離脱の大幅遅延阻止狙って解散総選挙実施へ―11月28日投票案が浮上(2/4)

増谷栄一The US-Euro Economic File代表

 

ジョンソン首相は22日の下院本会議で解散総選挙によるEU離脱の大幅延期阻止を目指す考えを示した=英紙ガーディアンのビデオから
ジョンソン首相は22日の下院本会議で解散総選挙によるEU離脱の大幅延期阻止を目指す考えを示した=英紙ガーディアンのビデオから

話は前後するが、10月19日の下院本会議で新離脱協定に対する「意味ある投票」(政府合意案に対する議会の最終承認の投票)が実施されなかったのは、その日、ノーディール・ブレグジット(合意なしのEU離脱)の回避を目指す最大野党の労働党や自民党、SNP(スコットランド国民党)などの野党各党や保守党造反グループの一部が超党派で提出した離脱日延期動議(レットウィン動議とも呼ばれ、政府の新離脱協定批准動議に対する修正動議)が322票対306票の賛成多数で可決されたためだ。ノーディール回避を目指す野党各党がEUと合意したディールを批准しないというのは奇妙に感じるかもしれないが、背景には政府が最終的にノーディールで10月31日にEUから離脱することが起こりうるとの読みがある。

 レットウィン動議とは、新離脱協定に関するすべての法案が議会で可決するまで、議会はジョンソン首相のディールを批准しないというもので、これは9月に成立したベン法に従って、政府に離脱日を来年1月末まで延期させるのが狙いとなっている。ベン法は9月6日に議会で可決した離脱日延期法でノーディール阻止法ともいわれ、10月19日午後11時までにノーディールか、ディールでも議会が批准しない場合、EUに離脱日を来年1月末まで延期要請することを政府に義務付けている。

 言い換えれば、レットウィン動議が可決されたことで、新離脱協定がたとえ19日に議会の意味ある投票で可決され、批准されたとしても、すべての離脱関連法案がベン法発動のデッドラインである19日午後11時までに可決することは困難なことから、結局、批准されずノーディールになったとみなされる。このため、政府は19日夜、EUに離脱日の延期を要請せざるを得なくなったのだ。

 レットウィン動議の可決直後、ジョンソン首相は議会で、この動議には法的拘束力がないとして、一度は「EUとは期日延期の交渉をしない」と突っぱねた。しかし、首相は以前、9月中旬にスコットランド高裁でベン法に従って離脱延期を行うと証言しているため、期日延期に従わない場合、法廷侮辱罪に問われる恐れがある。このため、ジョンソン首相はやむなく19日夜、ベン法に従って離脱日の延期を要請する書簡をEUに送付した。

 しかし、ジョンソン首相はEUに3通の書簡を送付し、最後まで抵抗姿勢を示した。1通目は型通りの離脱延期の要請だが、首相の署名はない。2通目で首相は「離脱日延期を認めることは間違いだ」とくぎを刺し、本心は延期反対という内容になっている。3通目は延期に反対する理由を説明するものだ。これらの書簡はEUとは延期交渉をしないという意思表示だ。もしEUが延期を拒否すれば10月末の離脱が確定する。ジョンソン首相はEUに送付した書簡で「10月末までに新離脱協定の批准と関連法案の議会通過に自信がある」とし、ノーディールによる離脱は避けるべきだと警告している。

 ただ、EUはノーディールを回避するため、延期を容認する方向だ。英紙ガーディアンは19日、「EU関係者は17日のEUサミットで、フランスを除いたEU加盟国の首脳は延期要請があれば承認することで合意ができていたと語った」と報じ、延期の可能性が高いとしている。また、同紙はドナルド・トゥスク欧州理事会議長もすでに英国のEU離脱日を来年1月末まで延期する方向で検討を開始する考えを示した、と伝えている。

 EUが離脱日を延期に同意した場合、11月14日に欧州議会が開かれる予定のため、英国議会が新離脱協定の批准を受けて11月14日に欧州議会も批准することが可能になる。その場合、11月30日が新しい離脱日となる。10月末から1カ月遅れで離脱できるとなれば、ジョンソン首相も延期に応じる可能性がある。

 しかし、英国議会の希望通り来年1月末までの延期となった場合には、ジョンソン首相は19日の議会でも「離脱日の延期は英国のEU残留に伴うコストが増加し、また、英国とEUの双方にとっても利益にならない」と述べ、強く反発しているため、事態の打開のため、ジョンソン首相は総選挙を実施して仕切り直す以外に選択肢がなくなっている。また、最大野党の労働党の幹部であるリチャード・バーゴン議員(影の国務長官)は23日、英放送局スカイニュースに対し、「EU離脱日の延期が確定すれば、クリスマス前に総選挙を実施すべきだ」と述べ、労働党がジョンソン首相の解散総選挙を支持する考えを示している。

 もともと、レットウィン動議は政府が10月末にノーディールでEUから離脱することを阻止する狙いがあった。ジョンソン首相は21日からの週前半で新離脱協定の批准と関連法案の議会通過に自信があると豪語したが、野党は離脱日までわずか10日しか残っていないため、10月末までに関連法案がすべて議会を通過できないとみていた。このため、レットウィン動議は、結局、政府が時間切れを理由にノーディールで離脱するのを防ぐ安全装置として、十分効果を発揮したといえる。(続く)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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