再び世界一を目指すなでしこジャパン。新監督にU-20W杯優勝を導いた“熱男”を迎え、新時代へ
【U-19/U-20女子代表で、たしかな実績】
なでしこジャパンの新監督に、高倉麻子前監督の後を引き継ぐ形で、池田太(いけだ・ふとし)監督が就任した。池田監督は今季、U-19日本女子代表を率いており、兼任となる。契約期間は3年で、2023年にオーストラリアとニュージーランドで共催されるW杯、2024年のパリ五輪で指揮を執ることが濃厚だ。
池田監督は、2017年から女子のU-19、U-20の監督として、同年と2019年のAFC U-19女子選手権でタイトルを獲得。そして、2018年のU-20フランスW杯では日本を世界一に導いた実績を持つ。
なでしこジャパンは2011年のドイツW杯で優勝し、FIFAランキングは3位まで上がったが、現在は13位。成長著しい欧米の強豪国に追いつき、再び世界一に返り咲くことを目標に掲げている。
10月1日(金)、オンラインで新監督就任会見が行われた。池田太氏を新監督に推薦した女子委員会の今井純子委員長は、新監督の要件として次の4つを挙げた。
①「23年W杯、24年五輪で世界一奪還を目指せること」
②「日本サッカーの強みを最大限に引き出せること」
③「若手の登用・融合を果たせること」
④「女子サッカーの発展に情熱を持てること」
池田監督については、「連動性や細部を詰めるところなど、チームビルディングが長けていて、ダイナミックなサッカーで、日本の良さを(高倉監督とは)違う方法で引き出すことができる」(今井委員長)点が決め手になったという。②については、技術や連動性などを徹底して高めていく方向性は高倉監督体制時からのテーマでもあり、「継続性」を重視したことを明かした。
そんな中、オンライン会見が異様に感じられたのは、東京五輪の検証については、女子委員会からこれまで何の発表もないまま、新監督の発表に至ったことだ。メダル獲得を掲げた自国開催の五輪で、日本は何ができて、何ができずに敗れたのかーー。その緻密な分析や検証を公にすることなく、また2016年以降の高倉ジャパンについての総括なくして「継続路線」を打ち出したことには違和感があった。
「代表チームのサポートは、(女子委員会が)経験の面で不十分だったと思っていて、今後はもっと経験豊かな人を配置してサポートしていく必要があります。世界一奪還を目指す中で、アシスタントコーチやコーチングスタッフやテクニカルスタッフも、必要な体制を立てて委員会としてしっかりバックアップしていく必要があると(委員会で)議論しました」
会見で、今井委員長はこう語った。
次のW杯のアジア予選にあたるAFC 女子アジアカップが来年1月に迫っており、新監督の選考は五輪の検証と並行して行われてきたそうだが、検証のその後については次の発表を待ちたい。
【新生なでしこの未来図】
池田監督は、日本人の強みである俊敏性や器用さ、勤勉性、連動性などを最大限に生かしながら、再び世界一を目指すことを力強く掲げた。また、選手に求める要素について、こう語っている。
「まず、私が一番に考えるのは、自分の持っているパフォーマンスやポテンシャルを出し切れる選手、つまり全力でプレーできる選手です。それにプラスして、仲間を助けたり、その選手がいることで相乗効果が生まれるような、化学反応を起こせる選手であることも大事なポイントになると思っています」
現役時代に選手としてプレーしたポジションは、指導者自身が目指すサッカーに影響することが多い。高倉前監督は攻撃的MF、池田監督はサイドバックやセンターバックを主戦場とするDFだった。年代別代表での池田監督の采配や、同氏への取材を振り返り、新生チームの未来図をイメージしてみたい。
池田監督は選手の個性を最大限に生かしながら、チームの一体感や連動性を引き出すチームビルディングに長けている。粘り強い守備でチームを安定させ、徐々にギアを上げながら先手を取る。そのため、国際試合では、前半の終盤から動きが活発になり、後半に得点が多くなる傾向があった。攻撃では、ピッチを広く使い、思い切りの良いコンビネーションプレーやミドルシュートなど、ダイナミックなゴールが少なくなかった。
アジア予選と世界大会を2年間で戦う短期サイクルだったので、選手選考は早い段階でDF、MF、FWの主軸となる選手を固めていたが、なでしこジャパンではどうなるだろうか。
池田監督は、なでしこジャパンを再び強くすることができるか?
そう期待させる要素は、少なくない。
同氏は26歳で現役引退後、浦和レッズとアビスパ福岡でユース監督やコーチなどを歴任。浦和では数々のタイトルを獲得した黄金期を支えた経験から、「そういう(勝つチームの)匂いというか、雰囲気を嗅ぎ分けられるようになりました」と、就任会見の場で語っている。女子ではU-17(2018年U-17W杯で代行監督を務めた)、U-19、U-20などで4年半の指導歴があり、性別や年齢別のフィジカル差などを踏まえ、日本人選手の良さを最大限に生かす強化策が期待できる。
練習では、論理的に組み立てられたトレーニングと、細やかな声かけでチーム力を向上させる。
攻守の切り替えを早くし、集中力を維持するための工夫を施し、流れの中でプレーを止めることは少なかった。選手に絶えず声をかけてプレーの選択肢を示し、チャレンジを促す。トレーニングや試合でも、ゴールから遠い位置からでも積極的にシュートを狙うことや、セカンドボールへの反応を強く求める。それらの積み重ねが、90分間の粘り強いハードワークやダイナミックなプレーにつながっていた。
また、モチベーターとしての力量も大きなポイントだ。池田監督は、グラウンドでの熱い語り口やそのキャラクターがトレードマークでもある。
選手たちからの愛称は、「太(ふとし)さん」で、2018年のU-20フランスW杯の時には、「熱男(あつお)」の異名も。また、10代後半から20歳までの選手たちのノリを明るく受け止め、時に自ら場を盛り上げる。家族に同年代の娘がいることも、コミュニケーションを取る上で助けになっていると以前、話していた。
監督が見せるその「熱さ」と、選手たちの「明るさ」や「情熱」が融合したエネルギーが、池田ジャパンの一つのカラーになるだろう。
「選手がピッチの上で自信を持って、サッカーをする喜びやエネルギーなど、生で見てもテレビで見ていても、そういう“熱”を伝えられる選手と一緒に戦っていきたいですし、それは自分がチームを作る上で軸になっていくと思います」
U-20フランスW杯で世界一になった池田監督のチームは、粘り強い守備、多彩な攻撃、最後まで諦めないひたむきな姿勢で、地元の観客や他国の関係者を魅了し、熱狂させた。大会期間中の約3週間、プレッシャーがかかる状況でも選手たちは笑顔を絶やすことなく、コミュニケーションは日に日に緊密さを増し、1試合ごとに、見違えるように強くなっていった。グループステージでは、優勝候補のスペインに0-1で敗れたが、決勝戦では同じ相手を3-1で鮮やかに撃破。当時の選手たちの技術、チームとして組織力の高さを見せつけた。
また、ゴール後の華やかなダンスパフォーマンスでも観客を沸かせている。当時のFIFAの公式サイト評では、「彼女たち(U-20日本女子代表)は、フランス人のハートを奪った」、「衝撃的なパフォーマンス」、「たゆまぬ走り、縦横無尽に繋がるパス、緻密な連係、素晴らしいドリブルとすごいゴール」などと絶賛されていた。
翌2019年のAFC U-19女子選手権を戦ったチームも同じように、明るいチームだった。1試合ごとに自信をつけて強くなり、アジア王者に上り詰めた。コロナ禍の影響により、昨年8月に予定されていたU-20コスタリカW杯は中止となったが、今後に期待を抱かせるタレントが競うように輝きを見せていた。
とはいえ、年代別代表での成功体験は、A代表での成功を保証するものではない。高倉前監督は、U-17W杯優勝、U-20W杯優勝などの実績があったが、A代表では苦労した。年齢制限のない代表チームに招集される強豪国の選手たちは、国内外のハイレベルなリーグで腕を磨き、技術、戦術、フィジカル面のすべてにおいて成熟度を高めてくる。その中で、日本が相手を上回るために、戦略や戦術の引き出しをどれだけ持つことができるか。それは、池田監督の腕の見せどころでもある。
国内リーグの様々な現場で、池田監督が各チームの監督やスタッフと言葉を交わし、マメに会話を重ねる姿を見てきた。同氏が代表監督就任会見の場で語った第一声は、選手の家族や、地域の学校・クラブの指導者たちをはじめ、選手の成長を支えてきた人々への感謝だった。
代表チームには、選手とその家族、スタッフ、学校をはじめとする育成関係者、クラブ関係者、メディアなど、大勢の人々が関わる。そうした人々を巻き込みながら、池田ジャパンが上昇気流に乗り、W杯や五輪での好成績につながることを望む。そして、国内の女子サッカーの盛り上がりを醸成し、社会が女子サッカーに対してさらなる関心を持つようになり、結果的に草の根的な競技人口の増加に直結することを期待せずにはいられない。
池田ジャパンの初の活動は、10月18日から予定されている国内キャンプ。その後、11月末の海外遠征で初陣を戦い、12月の国内キャンプを経て、来年1月にインドで開催予定のアジアカップ(2023年ワールドカップ・アジア予選)に臨む。
日本女子サッカーの新たな夜明けを印象付けるような、力強い船出を見せてほしい。まずは、10月中旬に発表される池田ジャパン初招集メンバーに注目が集まる。
*文中の写真は筆者撮影