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「犯罪のような罪悪感」 クリスマス商戦の「フードロス」でアルバイトが精神的苦痛

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
画像はイメージです。(写真:アフロ)

 今年も街中にイルミネーションが輝き、クリスマスの季節がやってきた。

 クリスマスのシーズンは、街やお店の華やかさと対照的に、それを支える労働現場からは様々な悲痛な声が寄せられる時期でもある。クリスマスケーキの「買い取り強要」や「シフト強要」の問題だ。これらの点について、筆者はこれまでも多くの問題提起を行ってきた。

参考:ブラックバイトに支えられる日本のクリスマス 消費者が理解すべき実情

参考:クリスマスケーキの自腹購入 店長も「被害者」

 また、クリスマスケーキに関しては、イベント期間終了後に大量に廃棄されることがたびたびメディアで取り上げられ、食品ロスの問題として扱われることも多い。筆者が代表を務めるNPO法人POSSEがオンラインアンケートを取ったところ、年々食品ロスに対する社会の目線が厳しくなる中で、現場で働く社員やアルバイトたちは精神的苦痛を感じている実態も浮かび上がってきた。

 そこで今回は、クリスマスの労働問題と食品ロスとの関係をあらためて問い直し、その解決策を考えていきたい。

クリスマスの労働問題と食品ロス

 クリスマスの時期になると、色々と話題になる「シフト強要」と「買い取り強要」、食品ロス問題だが、それらはどのような関係にあり、なぜ起きてくるのだろうか。

 クリスマスは、大手コンビニ各社が力を入れてケーキやチキンなどを販売する商戦期だ。人の入り具合も普段よりも多くなるため、慢性的な人手不足のコンビニ業界では、人手の確保がカギとなる。そこで起きてくるのがアルバイトの事情を考慮せず、時には「脅迫」をもちいて無理やりシフトに入れさせようとする「シフト強要」だ。

 さらに、コンビニ本部は、クリスマスケーキの売上を増やすために、ケーキを大量に各店舗に仕入れるよう加盟店のオーナーに対して事実上「強要」することがある。大量のケーキが搬入される各店舗では、「シフト強要」などを用いて確保したアルバイトに対して、販売ノルマを課し、売れ残れば自腹で買い取るように「強要」するケースが相次ぐのだ。

 また、販売ノルマが課されていない場合でも、最低ひとり一個クリスマスケーキを予約・購入するように「強要」されることもある。そのような手段を用いても、売り切れなかったケーキは廃棄となり、例え、コンビニで働く人たちに自腹で買い取りさせても、それぞれの自宅ですべてを消費できるわけもなく結局、食品ロスが生まれる。

 このような「買い取り強要」は、日本の学生アルバイトや「主婦」パートに限らず「外国人」労働者に対しても行われている。今年の8月には、クリスマスケーキや恵方巻などの季節商品の購入を強要された「外国人」労働者たちが、労働組合・東京ユニオンに加入し、コンビニ本社に対して団体交渉を申し入れた。彼ら彼女らは、宗教上食べることができない商品も購入させられており、組合員のバングラデシュ出身の労働者は「買わされたものはほとんど捨てていた」そうだ。

参考:ローソンに団体交渉申し入れ 外国人従業員が改善要求

参考:無理やり恵方巻を…ローソンで働く外国人ら待遇改善を申し入れ「宗教上食べられないのに強制」

食品ロスと労働者の精神的負担ー職場の食品廃棄がストレスで退職が約4割ー

 このような形で毎年大量のクリスマスケーキが廃棄され、大きな社会問題となっている。そして、食品ロスの問題は、食べ物を無駄にしており環境に悪いということだけでなく、実は、アルバイトへの心理的な負担も大きい。この点はまだあまり知られていない。

 今年に入り、筆者が代表を務めるNPO法人POSSEには、「食品廃棄作業が苦痛で退職した」という学生バイトからの相談が寄せられるようになった。そこで、冒頭で述べたように、今年の秋から職場の食品廃棄の実態を明らかにするために、オンラインでアンケート調査を始めた。

 この調査で明らかになったのが、職場の食品廃棄がストレスで退職した人が約4割にも上ることだ。(有効回答者61人中24人が「食品を廃棄するさいのストレスが要因で退職したことはありますか」という設問に対して「はい」と回答)。調査の回答者の中には鬱状態になっている人もいた。

 アンケートに寄せられた声を一部紹介しよう。

大学生・結婚式場に勤務

 ストレスで過食になったり、顔面半分がかるいマヒ状態になりました。披露宴では、1回に50~120人くらい、1日2回、炊き込みご飯やケーキ、パン、肉料理、ドリンク等を捨てていました。まったく手を付けられていないものも多くありました。上司は「食べきれないほど提供するのが披露宴でのおもてなしだ」と正当化し、過密スケジュールのため余った食品を慌ただしくゴミ箱に突っ込まないと次のグループのための準備が進まない状況で、廃棄を強制されていました。

正社員・道の駅の食堂に勤務

 まだ食べられる物を次々捨てていくのは本当にストレスだった。残飯として、ご飯にドレッシングを浴びせ、揚げ物が次に来るご飯の食べ残しに埋もれていき、どんどんゲロみたいになっていく。食べられない人もいるのにと思うと素直に心が痛い。

 その他にも、「廃棄する食品を中身が出るまで踏んづけて原型がなくなるぐらいぐちゃぐちゃにしてから廃棄しないといけない」(アルバイト・コンビニ)、「食べ物をバケツに投げ入れるのは普段の生活とかけ離れた作業。仕事の為に「もったいない」と感じる気持ちを押し殺すのはとても辛い」(アルバイト・ホテル)、「犯罪を犯すような罪悪感だった」(アルバイト・コンビニ)などの声が寄せられた。

 食品ロスの問題は、一般的には、「毎年〇トンの廃棄がでています」というような廃棄量ばかりが注目されがちだが、そこには廃棄作業を担っている労働者たちがおり、彼ら彼女らは大きな精神的ストレスを抱えているのだ。

有効な解決方法とは?

 これまでみてきたような「シフト強要」や「買い取り強要」、職場の食品ロスの問題に対して、私たちはどのように対応すべきだろうか。いくつか考えられる対応方法を列挙してみよう。

コンビニ本部へ相談

 「シフト強要」や「買い取り強要」については、コンビニ本部は容認していない。食品ロスについても大手コンビニ各社が問題視している。そのため、まずはコンビニ本部への相談という手段が考えられるだろう。しかし、本記事でも紹介したとおり、クリスマスの労働問題と食品ロスの背景には本部からの加盟店への圧力がある。どこまで誠実に対応してくれるかは未知数だ。

労働基準監督署へ相談

 次に、労働問題を監督する行政機関である労働基準監督署はどうだろうか。労働基準監督署とは、労働基準法違反等の取り締まりや行政指導を行う機関である。「シフト強要」や「買い取り強要」については、罰金などが設定されている場合には労働基準法で一部対応できるが、多くは民事的な問題であり、基本的には労働基準監督署の管轄外となってしまう。また、職場の食品ロスについては労働基準法とは関係ないため、対応できない。

ユニオン(個人加盟の労働組合)へ相談

 シフト問題や買取強要、食品ロスといった職場内の運営に関係する問題の改善を目指すのであれば、ユニオンに相談することが有効であると考えられる。ユニオンが会社に話し合い(団体交渉)を申し込んだ場合、会社は拒否することはできず、誠実に応じなければならない。

 そして、ユニオンが扱えることは職場に関することであれば基本的に何でもOKだ。賃金や労働時間だけでなく、パワハラやセクハラ、仕事の内容についてまで幅広く対応できる。

 例えば、エステ業界で働く労働者による労働組合「エステ・ユニオン」は、設定することじたいは「違法」ではない販売ノルマとその販売ノルマ達成のために生じる自腹買い取りを防ぐためのルール(労働協約)を企業との間に結んだ。また、最近では私学の教員たちによる労働組合「私学教員ユニオン」では、教員の長時間労働を助長させている部活動の顧問を「拒否」できる画期的なルール(労働協約)を学校との間で取り結んだ。

 このように必ずしも「違法」行為ではない事柄に関しても幅広く交渉・解決できるのがユニオンの強みである。「シフト強要」や「買い取り強要」といった労働問題だけでなく、職場の食品ロスを防ぐためのルールの設定や働き方の改善を、ユニオンという手段を活用すれば、食品廃棄作業を担っているパート・アルバイトや社員などの労働者の視点から主張していくことができる。

おわりに

 クリスマスやお正月のアルバイト問題は毎年繰り返されている。食品ロスが叫ばれる中で、私たちの「ライフスタイル」も見直しを迫られているのかもしれない。

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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