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クリスマスケーキの自腹購入 店長も「被害者」

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

今年も相次ぐアルバイトの自腹購入の相談

 12月も終盤となり、コンビニやスーパーなどでは、クリスマスケーキや正月のおせち料理の予約が締め切りを迎える頃だろう。このシーズンに毎年問題になるのが、アルバイトに対するノルマや自腹購入の強制である。

 ノルマを達成するために、自腹で購入を余儀なくされるという事例が今年も相次いでいる。学生たちがつくる「ブラックバイトユニオン」に今年寄せられた労働相談を一部紹介しよう。

「お中元やお歳暮、恵方巻やクリスマスケーキなど行事毎に最低ノルマに達さなければ次の行事にその分もプラスして買わなければならないというノルマがあります。」(高校生)

「クリスマスのケーキ、まずは1人1つ予約をお願いします」と言われました。」(大学生)

「私のバイト先ではたとえ大学生であろうと「ケーキを一人一個は必ず自費で予約すること」が決められています。私も予約をしました。ケーキは最低でも1500円くらいはするので、学生で、一人暮らしの私にとってはきついです。また「おせちは高いから無理だろうけど、冬ギフトは親にでも送れるよね?」と言われます。」(大学生)

 これらの相談はごく一部だが、このような買取が「強制的」に行われている場合、違法行為になる可能性が高い。

 労基法によって給与からの天引きは原則禁止されているため、給与から引かれていれば一発でアウト。商品買取の「勧誘」は許されるが、しつこく勧誘したり、「強制」だと受け止められる発言がある場合は、これも違法である。場合によっては強要罪などに該当し得る。そうした要求を録音したり、上司からのメールやラインの指示を残しておけば、後からでも返金を求めることができる。

 筆者は過去にも以下の記事を書いているので、自腹で購入をさせられそう、購入させられたアルバイトの人たちはぜひ読んでみてほしい。

 クリスマスケーキの強制買い取りは違法?

 一方で、買取やノルマの問題は、アルバイトだけではなく、正社員の店長の問題でもある。いわゆる「自爆営業」だ。店長がアルバイトだけに負担を負わせきれず、自身が自腹で商品を購入するという相談も多いのだ。

 そこで、本記事では、店長による自腹購入の実態と、その解決策を紹介していきたい。

「加害者」であり「被害者」でもある店長

 まず最初に、ブラックバイトを強いる店長自身の労働問題を確認しておこう。象徴的なのは、筆者の記事でも度々紹介してきた「しゃぶしゃぶ温野菜事件」だろう。大学2年生(当時)に対して122日間の連続勤務、1日12時間の超時間労働、包丁で刺すなどの暴力、そして20万円の自腹購入の強制などがあったブラックバイトの象徴的事件だ。

「しゃぶしゃぶ温野菜」で大学生刺傷事件 なぜブラックバイトは暴力的になるのか

 (なお本件は、今年11月に会社が解決金を払い、被害学生側の勝利的内容で無事解決に至っている)。

 甚大な被害を学生にもたらした店長だったが、実は、この店長についても「被害者」の側面があった。加害者である店長も被害学生の倍の8か月間もの間、休みなく働き続けていたという。自分自身が追い詰められていたために、学生アルバイトを暴力で駆り立てずにいられなかったものと推察できるのだ。

 アルバイトに対する職場の暴力や長時間労働の強制の背景には、長時間労働で疲弊する店長の労働問題があったわけだ。

 店長自身が「被害者」と「加害者」の両面性をもつ事例は実に多い。典型的な事例は、ある大手個別指導塾チェーンの教室長のケースである。

 

 この教室長は、オーナーから教室ごとの売り上げに対するアルバイトの人件費の割合の上限が決められていた。そのうえで、教室長は教室の運営を任されるにあたり、この上限を超えないように指示されていた。しかし、業務量が多いため、労働時間を減らすことはできない。人件費を抑えるために、やむなく学生アルバイト講師にサービス残業をさせるか、自分自身がサービス残業をするかの二者択一を迫られていた。

 この教室長は「学生アルバイトには申し訳ないが、全部の仕事に給料をつけてあげることはできない」と吐露していた。罪悪感を覚えながらも、オーナーやフランチャイズ本部が決めたルールに従うため、賃金未払いが常態化してしまっていた。

 そして、このような相談は、クリスマス・お正月に問題が多発する飲食店や小売業でも同じなのである。

 例えば、あるコンビニの正社員の男性は、ノルマを達成しないことはアルバイトの士気にもかかわると考えて、季節商品が紹介されるたびにいくつも買っていた。おでんや唐揚げから、土用の丑の日のうな重、お中元、ケーキ、お歳暮まで買わされていた。

 ただ、1人で消費するには限界がある。そこで彼は祖母にまでおせちを買うように頼むようになった。祖母は自分でおせちを作りたかったが、孫の頼みを断り切れず、毎年3万円近くを支払っていたという。

 以上のように、アルバイトに「買取の強制」をしてしまう側の店長もまた、「被害者」であるというケースは少なくない。

社員自身の自腹購入をどうやって止められるのか?

 それでは、店長とアルバイトでは、「対応方法」に違いが出てくるのだろうか。 「雇われ店長」と「オーナー店長」によって、対応は大きく変わってくるのだが、まず、「雇われ店長」である場合を中心に解説しよう。

 大前提として、社員であろうとも、もし自腹購入を明らさまに強制されているのであれば、従う必要はない。強要や強迫にあたる。これはアルバイトの場合と同じだ。労働法は正社員とアルバイトに平等に適用される。

 だから、給与からの天引きは労基法違反となる。もし罰金を課されるのだとすれば、就業規則に定めたうえで罰金が「合理的」である必要があるのだが、自腹購入しないことによる罰金は「合理的」とは認められないだろう。

 ただ、アルバイトと異なる点として、社員の場合は、ノルマ未達成を理由として、手当の額や昇給・昇級などの査定に影響が出てしまう可能性が高い。このため、直接の強制を受けずとも、評価を上げるために、社員自身がより「自発的」に自腹購入をしてしまう可能性がある。

 自腹購入問題の起きる季節商品の販売のノルマに関しては、全国の店舗における売り上げ上位がランキングでチェーン全体に公表されたり、学生アルバイトや主婦のパートタイム労働者をいかにノルマ達成に組み込んでいくかを啓発するための指導をフランチャイズ本部が行っていたりというケースもある。

 このような状況では、「自発的」に自腹購入に入らざるを得ないことも出てきてしまうだろう。

 だが、「成果を評価する」という人事制度自体は買取の「強制」とは言えず、違法ではない。ここが難しいところだ。

 ノルマによる「自発的な買取」の状況を防止するには、ノルマそのものを廃止・軽減するか、ノルマを査定に入れないように会社の規則そのものを変えなければならなくなる。

ノルマ撤廃の事例

 社員の自腹購入について、団体交渉で解決した具体的な例を紹介しよう。ノルマや「自発的」な購入に関しては、それ自体が「違法」ではないため、労働基準監督署の摘発の対象とはならない。そのため、労働組合(ユニオン)に加入して「交渉」することが、ルールを変えさせる唯一の方法となる。

 

 実例を初回しよう。「エステ・ユニオン」が大手エステ企業との間で結んだ労働協約だ。エステ・ユニオンとの団体交渉の結果、同社では美容商品・ジュエリーなどの自腹購入を未然に防ぐことを目的とした労働協約を締結している。具体的には以下のような内容だ。

「意に反する自社商品の購入を防ぐための労働協約」として、社員が意に反する自社商品の購入をすることがないよう、次の取り組みを行います。

(1)会社は、従業員に対しては、自社の取り扱う美容商品、ジュエリーを店舗では販売しません。ただし、会社は通信販売によって、従業員に美容商品を販売することができます。

(2)会社は、従業員が通信販売により美容商品を購入した際の売り上げについては、本社で一括して計上し、個別の店舗の売り上げには含めません。

 自分の店舗で商品を購入できてしまうと、売り上げに計上されてしまうため、売り上げのために「自発的」に自腹購入してしまう可能性がある。こうなると「強制」か「自発的」かを判断することは難しい。そこで、社員がみずから店舗で商品を購入すること自体を一律に禁止することで、自腹購入を禁止したのである。

 コンビニの自腹購入で全く同じ内容の協約をつくることは容易ではないだろうが、こうした労働協約による規制は大きなヒントになるはずだ。

 さらに、店長自身がフランチャイズのオーナーである場合でも、ノルマを事実上強制してくるフランチャイズ本部と交渉することができる。

 オーナー店長とフランチャイザーとの間では、雇用関係は存在していないが、労働組合法は適用される。すでにコンビニオーナーによる労働組合・コンビニ加盟店ユニオンが結成されており、団体交渉の権利をめぐって争っている最中だ。こうしたユニオンに相談してみるというのも一つだろう。

「社員だから」「店長だから」とあきらめない

 コンビニや飲食店の正社員には「自腹購入」だけではなく、残業代の不払いなど違法行為が蔓延している。

 例えば、店長を労働基準法の例外である「管理・監督者」であるとして残業代を払わなかったり、「労働者」ではないかのように扱う会社も多いのが実情だ。

 しかし、コンビニや飲食店などの店長は労働基準法が適用される労働者であり、残業代も支払われなければならない。

 ノルマの是正には労働組合の交渉が必要だが、上記の違法行為や、買取の「強制」がはっきりしている場合には労働基準監督署への申告などで状況を是正できる。

 心当たりのある方は、ぜひ専門の窓口に相談してみてほしい。

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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