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シリアのアル=カーイダはイドリブでの停戦を非難しつつトルコに謝意、北東部では米軍が抗議デモ弾圧に荷担

青山弘之東京外国語大学 教授
Ebaa News、2020年2月1日

停戦発効から3日、爆撃は確認されず

英国を拠点に活動する反体制系NGOのシリア人権監視団は8日、ロシアのヴラジミール・プーチン大統領とトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領のモスクワでの会談で合意した停戦が発効(5日深夜)して以降、イドリブ県を中心とする反体制派支配地では、3日間にわたってシリア・ロシア軍、トルコ軍による爆撃は確認されていないと発表した。

しかし、シリア軍と「決戦」作戦司令室による若干の停戦違反は確認されている。

「決戦」作戦司令室は、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構とトルコの庇護を受ける国民解放戦線(国民軍)などからなる武装連合体。

イドリブ県では、シリア軍が7日、カフルナブル市近郊のマアーッラト・ムーハス村、ブライジュ村に進軍した。同地には、シリア軍も「決戦」作戦司令室も展開しておらず、戦闘も発生しなかった。

これに対して「決戦」作戦司令室は8日、2カ村を砲撃し、シリア軍を撤退させた。

また、ハマー県では、「信者を煽れ」作戦司令室が声明を出し、ガーブ平原の反体制派支配地域に潜入しようとしたシリア軍部隊と交戦し、兵士多数を殺傷したと発表した。

「信者を煽れ」作戦司令室は、新興のアル=カーイダ系組織フッラース・ディーン機構、アンサール・ディーン戦線、アンサール・タウヒード、アンサール・イスラーム集団からなる武装連合体。

なお、ロシア国防省の発表によると、7日の停戦違反は19件、8日は8件だった。

これに対して、トルコ側の監視チームによると、7日の停戦違反は1件。、8日は0件だった。

トルコ軍と国民軍はラッカ県のシリア軍拠点複数カ所を砲撃

クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)に近いANHAによると、トルコ軍とその支援を受ける国民軍は7日、ラッカ県アイン・イーサー市近郊のM4高速道路沿線に設置されているシリア軍拠点複数カ所を砲撃した。

また8日には、ル・アブヤド市近郊のカズアリー村、スライブ村、クーバルラク村を砲撃し、シリア軍兵士1人が負傷した。

シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構は声明で停戦を非難しつつも、トルコに謝意

シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構は7日声明を出し、ロシア・トルコが交わした停戦合意を批判しつつも、トルコの軍事介入に謝意を示した。声明の主な内容は以下の通り:

停戦はこれまでの合意と同じで何ら新しいものではなく、「革命」が裏切られるまでそう日はかからないだろう。

犯罪者体制がこの地域を再び占領し、住民を強制排除し、インフラと教育機関を破壊できるようにするために、占領者ロシアが政治的・軍事的努力を行っているのが、その主な理由だ。

この合意は、曖昧さと浮いた言葉で彩られており、占領者ロシアが再びこれに乗じて攻撃することを許すものだ。またそこには純然と実行できない文言が含まれているだけでなく、殉教者が流した血、10年におよぶ犠牲への侮辱だ。

我々はトルコ政府が「シリア革命」に明確な支持の姿勢を示し、最近の戦闘で民間人の防衛と保護に参加してくれたことに感謝する。しかし、最大の支援と救援は、焦土政策によって強制移住を余儀なくされた民間人を帰還させることだ。

アサドの民兵は、死者の墓と同じ場所にいることに満足しないというのに、彼らの支配が復活したとして、どのように生き残った人々の命が保証されるというのか。

米軍はユーフラテス川東岸でのデモ拡大を阻止するため町を包囲

シリア人権監視団や国営のシリア・アラブ通信(SANA)によると、北・東シリア自治局の支配下にあるダイル・ザウル県ユーフラテス川東岸のムハイミーダ村では8日、住民がシリア民主軍の活動や基本サービスの不足に抗議するデモを行った。

北・東シリア自治局はPYDが主導する自治政体、シリア民主軍は人民防衛隊(YPG)を主体とする同自治局支配地の武装部隊。

シリア民主軍はデモを強制排除するために実弾を発砲、これにより住民1人が死亡、2人が負傷した。

また、デモ弾圧にあたった治安部隊(アサーイシュ)の隊員1人が、参加者にナイフで刺されて死亡した。

住民に犠牲者が出たことを受けて、ムハイミーダ村に近いサフィーラ村でも住民による抗議デモが発生、参加者はダイル・ザウル市とラッカ市を結ぶ街道をタイヤを燃やすなどして封鎖した。

これに対して、ユーフラテス川東岸各所に違法に駐留を続ける米軍部隊はシリア民主軍とともに、ユーフラテス川東岸の拠点都市の一つブサイラ市へのデモ波及を阻止するため、同市を包囲し、住民の外出を禁止した。

SANA、2020年3月8日
SANA、2020年3月8日
SANA、2020年3月8日
SANA、2020年3月8日
SANA、2020年3月8日
SANA、2020年3月8日

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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