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南北首脳会談はいつ?どうやって?…韓国の「次」を読み解く

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
10日、青瓦台で会談する北朝鮮の金与正特使(左)と韓国の文大統領。青瓦台提供。

10日、北朝鮮の最高指導者・金正恩氏は、「特使」を名乗る実妹・金与正氏を通じ、文在寅大統領に南北首脳会談を提案した。韓国は今後どんな対応を取るのだろうか。

金与正氏は「特使」

2月10日午前11時、北朝鮮代表団の金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長、金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党中央位委員会第一副部長など北朝鮮代表団は、青瓦台(韓国大統領府)入りし、文在寅大統領など韓国政府要人と会談ならびに午餐会を行った。

任鍾○(○=析の下に日、イム・ジョンソク)大統領秘書室長、趙明均(チョ・ミョンギュン)統一部長官や、徐薫(ソ・フン)国家情報院長などが参席し行われた会談では、金与正氏が自らをはじめて「特使」と名乗り、金正恩氏からの親書を文大統領に手渡した。

10日午前、青瓦台で会談場に向かう韓国の文在寅大統領(中央)と北朝鮮代表団の金永南常任委員長(左)、金与正特使(右)。写真は青瓦台提供。
10日午前、青瓦台で会談場に向かう韓国の文在寅大統領(中央)と北朝鮮代表団の金永南常任委員長(左)、金与正特使(右)。写真は青瓦台提供。

会談の結果を説明した青瓦台の金宜謙(キム・ウィギョム)報道官によると、金与正氏は口頭で「文在寅大統領と早い内に会う用意がある。都合のいい時に北を訪問してくれることを要請する」と金正恩氏による招待の意志を伝えた。

これに対し文大統領は「今後、要件(条件)を整え、実現させよう」と答えた。なお、親書の内容については文大統領が読み、任秘書室長に渡したとのことだ。国家機密なので詳細な内容についてはまだ明らかになっていない。

金報道官はまた、北朝鮮代表団長の金永南常任委員長が「平昌(ピョンチャン)冬季五輪開幕式が成功裏に行われたことを、南北が共に祝おう」と語るなど、会談は友好的な雰囲気で行われたとした。

南北関係全般に対し議論がされる中、文大統領は特に「南北関係の発展のためにも、米朝間での早期対話が必ず必要だ」と米国との対話に北側がより積極的に臨んでくれるよう」要請したという。

文大統領はさらに「北朝鮮代表団の訪韓により。平昌五輪が平和のオリンピックになり、朝鮮半島の緊張緩和と平和定着および南北関係を改善させていく契機となった」と語ったと、金報道官は明かした。

金与正特使により手渡された親書を読む文在寅大統領(右)。写真は青瓦台提供。
金与正特使により手渡された親書を読む文在寅大統領(右)。写真は青瓦台提供。

韓国の複数のメディアが報じた内容によると、この日の会談で「北朝鮮の核問題」、「南北離散家族再会」に関する直接の言及は無かったという。また、4月1日に再開が予定されている米韓合同軍事訓練についての言及はあったが、北朝鮮が一般的に行う主張(北を狙っている)以上の特別な内容は無かったようだ。

なお、会談後に行われた昼食の様子は和気あいあいとしたものだったようだ。だが、記事の本質とは余り関係が無いので、本記事の最後に内容を整理しておくにとどめる。

専門家はどう見るか

米国の反応はどうか。韓国の聯合ニュースは「ホワイトハウス関係者に公式の立場を尋ねた」としながら、「我々(米国)は北朝鮮に対する統一した対応に関し、韓国側と緊密に連絡している」との答えを得たと報じた。

気になるのは今後の展開だ。韓国の北朝鮮専門家3人の見解を載せる。

まず、統一部や青瓦台で諮問委員を務める慶南大極東問題研究所の林乙出(イム・ウルチュル)教授は筆者の電話インタビューに対し「文大統領の言う『要件』は米朝対話以外には存在しない」としながら、「韓国としては『米国の支持を得ながら南北関係の改善をしていきたい』ということだ」と説明した。

林教授はまた、「米朝対話に何かしらの結論が出た後に、南北首脳会談を行うのか」という筆者の質問に「米国の立場は変わらないため、南北・米朝の関係改善をそれぞれ並行させていく方法を執っていくだろう」との見通しを示した。

青瓦台の芳名録に記帳する金与正特使。写真は青瓦台提供。
青瓦台の芳名録に記帳する金与正特使。写真は青瓦台提供。

次に、南北関係専門家である世宗研究所の鄭成長(チョン・ソンジャン)統一戦略研究室長は、10日発表したコメントの中で「北朝鮮は深刻な国際的孤立から抜け出そうとしている」としながら、「韓国は無条件的な米韓協調のために北朝鮮との対話を拒否し、制裁だけに頼るのは賢明ではない。誤判断と敵対感の中、朝鮮半島で武力衝突が起きる場合、最大の被害者は韓国にならざるを得ない」と前提を置いた。

その上で韓国の対応として「平昌冬季五輪終了後に高位級代表団を北朝鮮に送り、五輪参加への感謝を伝えると共に、南北首脳会談開催に向け、より具体的な合意を導く必要がある」とした。

さらに南北首脳会談の時期については「8月15日の光復節を前後し開催するのが望ましい」とした。また、韓国政府に対しては「北側に先に譲歩を要求するのではなく、金正恩委員長にまず会って、腹を割って話す必要がある」と主張した。

一方、韓国屈指の保守派の北朝鮮専門家である金英秀(キム・ヨンス)西江大学政治外交学部教授は、「南北首脳会談の要件とは何か」を尋ねる筆者の書面インタビューに、「米韓の間での調整、国内世論の支持確保」という異なる見方を示した。

またこれに対し「韓国政府は形だけ整えるジェスチャーを行った上で、(南北首脳会談を)強行するものと予想する」と見立てた。

韓国では今後、百家争鳴の予感

11年ぶりの南北首脳会談の提案は今後、韓国社会を大きく揺さぶることになると筆者は見る。

同じ民族であり、分断の苦しみを最小化していくパートナーである一方、国民の自由を著しく制限する独裁国家である北朝鮮と、どこでどう折り合いをつけていくのか。長く厳しいプロセスが本格化していくことになるだろう。

そして、様々な立場、歴史を持つ人々の間で激論が交わされることは間違いない。旧正月を来週に控え、分断70年の今年が激動の1年になる雰囲気が色濃くなってきた。

金永南(左)、金与正両氏の記帳内容。金与正特使は「平壌とソウルがわが同胞の心の中でより近づき、統一繁栄の未来が早まることを期待します」と記帳した。独特の字体は韓国で大きな話題となっている。青瓦台提供。
金永南(左)、金与正両氏の記帳内容。金与正特使は「平壌とソウルがわが同胞の心の中でより近づき、統一繁栄の未来が早まることを期待します」と記帳した。独特の字体は韓国で大きな話題となっている。青瓦台提供。

付録:2月10日の午餐会議における、尹永燦国民疎通首席によるスケッチ

読者の皆さんに南北対話の雰囲気を知ってもらおうと、資料を一つ翻訳する。青瓦台(韓国大統領府)で国民とのコミュニケーションを担当する尹永燦(ユン・ヨンチャン)国民疎通首席のメモだ。10日、メディア向けに書面で配られたものを筆者が訳した。

文在寅大統領は乾杯の辞を「今日この席に全世界の耳目が集中し、南北にかける期待が大きい。肩が重いが、意味のある場所になって欲しい。乾杯の辞をしたい。『南北平和は共同繁栄のために』」と述べた。

金永南常任委員長

「私たちを暖かく、親切に歓待してくれ、同胞としての情を感じる。わずか40余日前では、こんなにも激動的で感動的な雰囲気になると誰も思っていなかったのに、開幕式の時に北南が共にする姿を見ながら、私たちはやはり同じ血筋なのだと喜びを感じた。今年が北南関係改善の画期的な転換点になると期待している」

文大統領

「金剛山(クムガンサン)と開城(ケソン)だけ行ったことがあり、平壌には行けていない。金剛山での離散家族再会行事の時に、母を連れておばに会いにいったことがある。開城工業団地にも行ってみた。(07年の)10.4首脳会談の時に、盧武鉉大統領の秘書室長として、総括の責任を負っていた。白頭山観光も合意文に入っていたが、実現しなかった。今日の対話で、平壌と白頭山に対する期待がつながることを期待する」

金与正は金正恩国務委員長の特使だ。

「今後、早いうちに平壌で会えればよい。文大統領が金正恩国務委員長に会って、多くの問題に対する意志を交換するのならば、昨日は大昔に思えるほど、北南関係が発展するはずだ、大統領が統一の新たな章を開く主役になって、後世に長く残る足跡を打ち立てられることを望む」と語った。

金正恩委員長の親書を手渡す金与正特使(左)と、受け取る文在寅大統領。写真は青瓦台提供。
金正恩委員長の親書を手渡す金与正特使(左)と、受け取る文在寅大統領。写真は青瓦台提供。

文大統領は趙明均(チョ・ミョンギュン)統一部長官と、徐薫(ソ・フン)国家情報院長を紹介しながら「金大中、盧武鉉前大統領の時代に、北を頻繁に訪問した方たちだ。私がこの二人の力を借りていることを見ても、私が南北関係を早く活発に発展させたいという意志を感じてもらえると思う」

趙長官は金永南常任委員長に対し「金永南委員長は1928年2月4日生まれだ」と言うや、文大統領が「私の母は1927年生まれだ。大統領になったので頻繁には会えずにいる。(金永南委員長は)90歳を超えられた。遅ればせながら誕生日をお祝いする」とした。

金永南常任委員長に対し「健康管理の秘訣は何か。長く健康に生きられるように願う」とすると金永南常任委員長は「祖国が統一するその日まで健在でいたい(笑う)」とした。

文大統領

「私は登山とトレッキングが好きで、ヒマラヤの5900メートルまで登ったことがある。若い時には蓋馬(ケマ高原、北朝鮮北部にある朝鮮半島最大の高原地帯)でひと月ふた月と過ごすのが夢だった。私の家には蓋馬高原の写真も飾ってある。それがかなう日がすぐに訪れると思ったが、再び真っ暗になり遠くなった。こうして(南に)来られたのを見ると、言葉も文化も同じなので、簡単に叶うかもしれない」

金与正特使

「こんなに近い距離なのに、行くには難しく残念だ。ひと月あまりが経ったが、過去数年に比べ、北南関係が早く進んだと思わないか。北南の首脳部の意志さえあれば、分断の月日は残念ではあるが、(今後)早く進められるのではないか」

文大統領は金与正第一副部長に対し「開幕式を見た感想はどうか」

金与正特使

「全てが気に入った。特にわが単一チームが登場する時がよかった」

文大統領

「はじめて開幕式の会場に入ってきた時に握手をしたが、単一チームの共同入場の時、わたしも知らないうちに自然と再度、お祝いの握手をした」

金永南常任委員長

「体育団(南北単一チーム)が入場する時は、本当に感激した。歴史を遡ると文氏の家系は愛国者をたくさん輩出した。文益漸(ムン・イクチョム、14世紀に元から綿花の種子を持ち込んだ人物)が筆のフタに綿花の種を持ってきて人民に大きな助けとなった。文益煥(ムン・イックァン、韓国の統一運動家、1989年に北朝鮮を訪問)も同じ文氏では?」

文大統領

「そうだ。その弟のムン・ドンファン牧師と昨年会った」(天安市名物のクルミ菓子が運ばれてくるや)このクルミ菓子が天安地域の特産物だ。地方からソウルに戻る際に買っておいた」

金永南常任委員長「健康食品であり、朝鮮民族特有の味がある。昔も今も変わりがない」

任鍾○(○=析の下に日、イム・ジョンソク)大統領秘書室長

「南北間で言語の抑揚や言葉はある程度差があるものの理解はできるが、『イカ』と『タコ』の名前は南北で正反対だ」

金与正特使

「私たちと違うので、それからまず統一をしなければ(笑う)」

金永南常任委員長

「南側から来た人に会った際、お婆さんに咸興のシッケ(米で作る甘い飲み物)を作る方法を学び、たくさん飲んでいると聞いた」

文大統領

「私たちもシッケをよく作るが、私も毎日飲んでいる。咸鏡道ではキムチよりもシッケを好む」

金永南常任委員長

「南側にも、道ごとに特色のある食べ物があるだろう?」

文大統領

「そうだ。郷土ごとに多様な食べ物がある」

(了)

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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