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月曜ジャズ通信 2014年7月14日 フランス革命記念日にはフランス人のジャズを聴いてみようかな号

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家

もくじ

♪今週のスタンダード〜ブルー・イン・グリーン

♪今週のヴォーカル〜フォー・フレッシュメン

♪今週の自画自賛〜ジャズ耳養成マガジン「JAZZ100年」第8巻

♪今週の気になる2枚〜鬼武みゆき『Happiness is..』/Mizuho『ロマンティック・ガーシュイン』

♪執筆後記〜ミシェル・サルダビー

「月曜ジャズ通信」のサンプルは、無料公開の準備号(⇒月曜ジャズ通信<テスト版(無料)>2013年12月16日号)をご覧ください。

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マイルス・デイヴィス『カインド・オブ・ブルー』
マイルス・デイヴィス『カインド・オブ・ブルー』

●今週のスタンダード〜ブルー・イン・グリーン

マイルス・デイヴィスが6人編成のバンドで1959年に制作したモダン・ジャズの名盤中の名盤『カインド・オブ・ブルー』収録の珠玉のバラード。

クレジットは“マイルス・デイヴィス作曲”となっていますが、これについてはリリース当時から異論が噴出。マイルス自身は「俺が作った」と言い続けていたようですが、後にビル・エヴァンスが「私の作品」と言及していることを含めて、研究者のあいだではビル・エヴァンス作曲説が有力。

もともとミュージシャンのあいだでは、バンマス(=バンドマスター。バンドの指揮者および運営者のこと)がメンバーの作った曲を管理するという習慣があったようです。1950年代後半になってくると権利意識が確立し、こうした習慣は廃れて厳密に著作権が管理されるようになりました。

1960年代後半にマイルス・バンドに加わったジョー・ザヴィヌルは、曲の著作権についてマイルスと言い争ったことがあると自叙伝に記していますので、「ブルー・イン・グリーン」の作者の真相は“言わずもがな”かもしれません。

うがった見方をすれば、マイルスが自分のものと考えたかったのはそれだけ曲がすばらしく、エポック・メイキングであることがわかっていたから。

つまりこの「ブルー・イン・グリーン」は、最前線のトップ・アーティストが“歴史を塗り替える”であろうと認識していた曲だということなのです。

♪Blue in Green by. Miles Davis

1950年代に主流となっていたハード・バップでは、コード進行という最低限の制約のなかでいかに自由なアドリブを展開できるかを競い合っていましたが、半面、その最低限の制約自体がマンネリを招くというジレンマに陥ってしまいます。

これを打開しようとしたマイルス・デイヴィスは、古い教会音楽に使われていたモードという方法論を用いることを思いつき、アルバム『カインド・オブ・ブルー』にまとめました。

そういう経緯を考えれば、マイルスがアイデアを出して、ビル・エヴァンスが実質的に曲を完成させたーーというあたりが、この曲の出生にまつわる真相なのかもしれません。

♪Bill Evans Blue in Green

ビル・エヴァンスは『カインド・オブ・ブルー』と同じ1959年に、リーダー作『ポートレート・イン・ジャズ』を制作し、そこに「ブルー・イン・グリーン」を収録しています。共作というクレジットにマイルスへの配慮を感じますが、そもそもダブってまでこの曲を収録しているところに、「自分こそが作曲者である!」という主張を感じてしまうのですが……。

さて、聴き比べてみて、皆さんはどう感じるでしょうか?

♪Blue In Green : Naruyoshi Kikuchi + Hiroshi Minami

菊地成孔(ソプラノ・サックス)と南博(ピアノ)のデュオ・ヴァージョン。

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『COMPLETE 1950-1954 STUDIO ISSUED REC』
『COMPLETE 1950-1954 STUDIO ISSUED REC』

●今週のヴォーカル〜フォー・フレッシュメン

和声、すなわち和音のつながりによって音楽を作るハーモニーという概念は、ルネサンス期(14〜16世紀)に成立したと言われています。現時点で認識されているほとんどの西洋音楽はこれ以降の和声に基づいて構成されており、ジャズも例外ではありません。

“歌”においては、ハーモニーの一部を構成するメロディのみを担当する独唱のイメージが強いかもしれませんが、合唱のように“歌”でハーモニーを表現する方法も古くから行なわれていたことが知られています。

ジャズのハーモニー理論は独特かつ複雑なので、それを“歌”で表現するには難易度が高いようです。だからこそ、それを達成したシンガーたちは大きな称賛を受け、ジャズを発展させる原動力になったと評価されることになりました。

そんなジャズ・コーラスのシーンで、まず名前を挙げなければならないのがフォー・フレッシュメン。ホワイト・アメリカンのコーラス・ユニットでは最高峰と言われ続け、メンバーを替えながらいまも現役で活動しています。

1948年にインディアナポリスにあるバトラー大学併設の音楽学校で4人の学生が結成したコーラス・ユニットが、そもそものオリジナル。兄弟と従兄弟に友人という構成の彼らは、19世紀後半にすでにアメリカで確立していた“バーバーショップ・スタイル”と呼ばれる男声合唱を踏襲しながら、当時の最先端流行音楽であったジャズの要素を取り入れて、自分たちのスタイルを築いていきます。

この4人組はすぐに人気が出て、全米ツアーのスケジュールが埋まる売れっ子になっていたようです。フレッシュメン=新入生だった彼らは進級することなく、プロに転身。1950年のある日、著名なジャズ楽団リーダーのスタン・ケントンがオハイオ州のデントンという街を仕事で訪れたときに、「ケントン楽団のような最先端のジャズ・サウンドをコーラスでやっているグループがある」という評判を聞きつけて観に行くとビックリ。すぐにレコード会社に連絡をとり、彼らのレコード・デビューをお膳立てします。

以降、フォー・フレッシュメンはポピュラー・コーラス界のトップに君臨し続けます。コーラス・ユニットでダウンビート誌のチャート1位を獲得したり、ミリオン・セラーを連発したりという異例の業績を残したことも、彼らの偉大さの一端にすぎません。

♪Four Freshmen in Japan 1964 Part 1- Day By Day

フォー・フレッシュメンの1964年の初来日時の映像です。これが放映されると、複雑なコーラスだったために理解できる人が少なく、テレビ局には「彼らはヘタクソなんじゃないのか?」という苦情が寄せられたというエピソードが残っています。

♪The Four Freshmen--Little Girl Blue

2010年のフォー・フレッシュメン。いちばん高い声がメロディを担当するオープン・ハーモニーと、4人それぞれが楽器も演奏するというスタイルは、初代から連綿と受け継がれています。

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ジャズ耳養成マガジン「JAZZ100年」第8巻
ジャズ耳養成マガジン「JAZZ100年」第8巻

●今週の自画自賛〜ジャズ耳養成マガジン「JAZZ100年」第8巻

富澤えいちが記事を担当している「JAZZ100年」の「名演に乾杯」8回目は、付属CD収録の「ふたりでお茶を」の演奏に合わせてスタア・バー・ギンザの世界チャンプ・バーテンダー岸久さんが選んだ“モスコミュール”について。

けっこう有名なカクテルですが、もともとは「お酒じゃないものを飲んでいるように見せるためのカクテル」だったとか。

これにはアメリカの禁酒法が関係しているようで、その背景には宗教的な理由が存在しています。

アメリカの禁酒法といえば、ジャズを発展させるきっかけにもなっていましたっけ。

カムフラージュ・ドリンクとジャズの意外な関係性が見つかるかもしれませんので、調べてみるとしましょうか。

♪Art Tatum's Tea for Two (1933)

アート・テイタム(1909〜1956)はジャズ・ピアノのオリジネーターのひとり。先天性の白内障でほぼ視力がありませんでしたが、1920年代後半からプロとして活動を始めます。その驚異的なテクニックによって後輩たちに多大な影響を与え、ジャズのイメージを創出したと言っても過言ではないでしょう。

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鬼武みゆき『Happiness is..』
鬼武みゆき『Happiness is..』

●今週の気になる1/2枚〜鬼武みゆき『Happiness is..』

ピアニスト&作曲家としてボーダレスな活動を展開する鬼武みゆきの、2013年10月リリースの5作目です。

エンジニアの職を辞してプロに転向した1992年以降、トリオを中心に自己のサウンドを追究してきた彼女は、東日本大震災を機に“音楽との対峙の仕方”を改めて考えるようになり、そのひとつの答えとして出したのが「自分の足で取材した人々を題材に写真と音楽をコラボさせたショート・ムーヴィ・シリーズを作ること」でした。その「1 minite piece "Happiness is …(私の幸せ)」は2012年1月から毎月行なわれています。

また、ジャンルを問わず各界のキーパーソンとも積極的にイヴェントを開催するなど、いちミュージシャンの枠に収まらないアイデアを具現させることも増えています。

そうした彼女のスタンスをとらえようとしたのがこのアルバム『Happiness is..』だと言えます。

メンバーは鳥越啓介と岩瀬立飛のトリオに、“赤鬼”デュオで実績のあるフルートの赤木りえ、演劇的な音楽世界を表現したら右に出るものはいないヴァイオリニストの中西俊博、楽器の伝統を踏襲しながらもアヴァンギャルドからオルタナティヴまで縦横無尽に暴れ回るアコーディオニストの佐藤芳明という面々で、これだけでもこのアルバムが“拡散”をめざしたものであることがうかがえます。

これまで“心象風景”と呼ばれるテーマを扱うミュージシャンは、内省的であり、音楽的にはダウナーな傾向に分類されるものと考えられてきました。しかし近年、欧州ジャズの影響から距離をおいて、日本人ならではの感受性を前面に出したサウンドを追究する傾向が強まるとともに、キリスト教的な内省とは異なる日本ならではの“発見”というニュアンスを濃く滲ませた作品が登場するようになっています。

この鬼武みゆきの『Happiness is..』もまた、そうした傾向の先陣を切るものとして注目されるべき内容であると感じています。

♪『1 minute piece "Happiness is...(私の幸せ)"』 Vol.1

鬼武みゆき自身が取材をして言葉を探し、彼女の音楽と写真家・森日出夫の作品によって綴るネット配信シリーズの第1回です。ゲストはジャーナリスト・鳥越俊太郎。

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Mizuho『ロマンティック・ガーシュイン』
Mizuho『ロマンティック・ガーシュイン』

●今週の気になる2/2枚〜Mizuho『ロマンティック・ガーシュイン』

2006年にファースト・アルバム『In a Sentimental Mood』をリリースして以降、2年ごとにアルバム制作を積み重ねて成長を続けるヴォーカリストのMizuhoによる、5枚目にしてメジャー・デビューとなった作品。

彼女のアルバムは2作目からタイガー大越がプロデュースを担当している点が特徴で、今回はさらにヴィブラフォンの“巨匠”ゲイリー・バートンをゲストに迎えるという豪華な内容。

タイガー大越は1970年代からアメリカのジャズ・シーンで注目を集め、母校であるバークリー音楽大学では教授として幾多のプロを送り出しているという、現代のジャズ・シーンにおける最重要キーパーソンのひとり。

Mizuhoの声質は“ベルベット・ヴォイス”と表現するのがふさわしいと思うのですが、柔らかくしなやかで、しかし芯が崩れないという印象を受けることによって、ポピュラー・シンガーとは一線を画しています。

本作では20世紀を代表するアメリカの作曲家、ジョージ・ガーシュインのナンバーを取り上げていますが、そうした“名曲”をカヴァーというスタンスではなく、いかに再構築できるかというスタンスで歌おうとしているところに、彼女の非凡さが表われていると感じます。

これはつまり、彼女の歌い方が一本調子でないことを意味しています。歌を自分に引き寄せるのではなく、歌の世界へ入っていこうとするーー言葉にすれば簡単なように思えますが、大作曲家の作品を前にどこへどう飛び込むのかは、想像以上にアイデアと勇気を必要とするはず。

タイガー先生の協力ももちろんあるのでしょうが、Mizuho自身の感性が現代的な解釈で曲の表情を立体化させる部分も多く、そこがこのアルバムの大きな聴きどころになっています。

加えて特筆したいのが、ゲイリー・バートンの怜悧な音質に負けない歌い方。これもまた、一本調子ではないからこその、懐の深さによるものと言えます。

♪Xmas JAZZ NIGHT 2011

安斎亨(ピアノ)、飯田雅春(ベース)による2011年のパフォーマンスでも、彼女の実力を垣間見ることができると思います。

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富澤えいち『頑張らないジャズの聴き方』
富澤えいち『頑張らないジャズの聴き方』

●執筆後記

7月14日はフランス革命記念日、パリ祭です。

これをどうジャズにこじつけるか、いろいろ調べてはみたのですが、なかなかピンッとくるものがない……。

Wikipediaの「フランスのジャズ・ミュージシャン」というカテゴリー・インデックスには、7人の名前がありました。ジョルジュ・アルヴァニタス、バルネ・ウィラン、ミシェル・サルダビー、ミシェル・ペトルチアーニ、ミシェル・ポルタル、ジョゼフ・ラインハルト、ミシェル・ルグランというラインナップ。いずれもジャズ界では偉大な功績を残したと認められている“巨人”ばかりですね。

このなかでおもしろそうだと思ったのが、ミシェル・サルダビー(1935〜)。1990年に来日したときには、日本でも“サルダビー・ブーム”が(ほんの一部にではありますが)起こったことを記憶している人もいるでしょうか。

彼はフランス領マルティニーク生まれなので“フランス人”なのですが、マルティニークはカリブ海に浮かぶ西インド諸島のなかのウィンドワード諸島の島だから、フランス本土のジャズ・ミュージシャンとは異なるバックボーンをもっていると考えたほうがよさそうです。

奴隷制度とともに歩んだ感の強いマルティニークの歴史を振り返ると心痛むことも多いのですが、だからこそのブルース・フィーリングがマルティニーク・ミュージシャンの魅力であることも確か。

♪MICHEL SARDABY- Love, love and dream

富澤えいちのジャズブログ⇒http://jazz.e10330.com/

音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

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