月曜ジャズ通信<テスト版(無料)>2013年12月16日号
もくじ
♪今週のスタンダード~エアジン
♪今週のヴォーカル~ビリー・ホリデイ
♪今週の自画自賛~リニー・ロスネス『リニー・ロスネス&スーパーフレンズ』
♪今週の気になる1枚~クリヤ・マコト『新世紀スタンダード』
♪執筆後記
はじめに
年の瀬も押し詰まっているというのにこのような記事を開いてみるとはアナタも酔狂ですな。いえ、でも、ジャズを嗜むのであれば酔狂でなければいけません。
ということで、酔狂な人に向けてジャズを発信する記事を毎週書いてみようと思い立ちました。思い立ったが吉日、それが月曜日だったので、“月曜ジャズ通信”と名付けました。
マンハッタンにあったスウィート・ベイジルでは、月曜の夜になるとギル・エヴァンスのもとに集まった気鋭のジャズ・ミュージシャンが微々たるギャラで熱い演奏を繰り広げていました。
月曜日はライヴハウスにとって“捨て日”すなわち集客が難しい週初めなので、それならばとミュージシャンに半分開放したかたちだったので続けられたのだそうです。
当通信は、興行界ではそのように避けられている月曜日を狙って、コソッとジャズについての能書きを垂れ逃げしちゃおうという魂胆ですので、どうか気楽にお付き合いください。
ただし、酔狂な人限定ですので、当テスト版以降は有料配信にします。
♪今週のスタンダード~エアジン
コツコツとAからスタンダード・ナンバーを紹介していきます。
まずは「エアジン」。
1954年のスタジオ・セッションで、マイルス・デイヴィスに呼ばれたソニー・ロリンズがもっていったオリジナル曲。このときの演奏はマイルス・デイヴィス『バグス・グルーヴ』に収録されています。
何語? と思ってしまう不思議な語感のタイトルは、ナイジェリア(Nigeria)を逆に綴ったものというのは有名な話なので、間違ってもジャズが流れているようなお店で得意気に披露しないように。
スタンダードとなるほど多くのミュージシャンに愛されたというのに、作ったロリンズ本人は自分のアルバムに収録せず、これ以降封印してしまったといういわくつき。
♪Miles Davis Quintet with Sonny Rollins- Airegin (1954)
これがロリンズのオリジナルにして唯一の音源。いや、もしかして気が変わったらライヴで演奏して、それが発表されるかも。でも絶対に出すなと厳命されていたりして。そこまで彼が拘る理由も聞いてみたい。なんとなくマイルスとスタジオでなにかがあったんじゃないか、などと想像してみるのもジャズを聴く楽しみのひとつなのですよ。
♪Maynard Ferguson-- "Airegin"
ギタリストのウェス・モンゴメリーによる演奏も有名ですが、ネットで探していたらメイナード・ファーガソンの音源が見つかったので、こちらを選んでしまいました。ギターに興味のある人はウェスも検索してみてください。
超速パッセージとハイノート、メイナード・ファーガソンの魅力が全開で楽しめる、ピッタリのナンバーだと言えるんじゃないでしょうか。
♪Manhattan Transfer Airegin
作詞者のジョン・ヘンドリックスは、インストゥルメンタル(器楽曲)に歌詞を付けるヴォーカリーズというスタイルを確立した名ヴォーカリストです。彼のヴァージョンが見当たらなかったので、こちらも名演として知られるマンハッタン・トランスファーによるヴァージョンをチョイス。
初演のトランペットとサックスのアンサンブルがヴォイスによって見事に表現されているところをジックリと聴きたいものです。
♪今週のヴォーカル~ビリー・ホリデイ
ジャズのなかで、ヴォーカルというサブ・ジャンルは特異なポジションを築き上げています。まだまだ奥が深いのでボクも勉強中。ということで、一緒にヴォーカリストを訪ねる旅へと出掛けましょう。
初回は、やっぱりジャズ・ヴォーカルといえば外せないこの人。
1972年には、ダイアナ・ロス主演の自伝に基づいた映画『Lady Sings the Blues / レディ・シングス・ザ・ブルース(邦題『ビリー・ホリディ物語/奇妙な果実』)』が制作されるなど、女性ジャズ・ヴォーカリストのなかでも別格のカリスマ性を有していましたね。
♪Billie Holiday- All of me
1941年録音の音源。バックには彼女が歌唱スタイルの手本にしたと言われているサックスのレスター・ヤングが参加して、ソロで華を添えています。
♪Billie Holiday- Strange Fruit
ビリー・ホリデイを一介のシンガーからジャズ文化を代表するアーティストの地位へ引き上げたのはこの曲を世に送ったからと言っても過言ではありません。
ルイス・アレンの詩に書かれていた“Strange Fruit(奇妙な果実)”とは、リンチを受けたアフリカン・アメリカンが木に吊るされているようすを比喩したもの。黒人公民権運動が激しさを増していく1950年代を先取りするかたちで、ビリー・ホリデイの経歴には“社会派”というレッテルが貼られ、これがよくも悪くも彼女の人生に影響することになります。
♪今週の自画自賛~リニー・ロスネス『リニー・ロスネス&スーパーフレンズ』
いまでこそジャズ・シーンでも女性の活躍が当たり前となっていますが、ほんの30年ほど前には(ヴォーカルを除いて)ジャズ・ミュージシャンという肩書の前に“女性”とつく人はほとんどいないという状態でした。
1985年に華々しく復活の狼煙を上げた老舗ジャズ・レーベル“ブルーノート”の肝いりで行なわれたオーディションにより世に送り出された“アウト・オブ・ザ・ブルー”というバンドの2代目ピアニストとしてシーンに登場したリニー・ロスネスは、まさに砂漠に舞い降りた女神ほどのインパクトをもたらしました。
シーンがそれほど驚いたのは、彼女のピアノが“女子供”のレヴェルではなかったからにほかなりませんが、すでにロック世代に育ちながら伝統的なジャズを吸収して融合させるセンスと才能は、その後の女性ジャズ・ピアニストの輩出を促すきっかけになりました。
『リニー・ロスネス&スーパーフレンズ』は、1988年に制作された彼女のソロ名義の記念すべき第1作。
高音質限定盤で再リリースされるにあたって、ライナーノーツを富澤えいちが担当しました。
「“青天の霹靂”でジャズ・シーンに登場」「ジャイアンツに愛された“ジャズの孫娘”」「ソロ第1作を飾る豪華フレンズの“祝辞”」という3部構成でリニー・ロスネスの魅力に迫ってみましたので、最新盤をチェックしてみてください。
♪Out of the Blue- NAJE 88 interview Renee Rosnes
アウト・オブ・ザ・ブルーの演奏を挟んで、1988年当時のリニー・ロスネスのインタビューが収録されています。彼女の演奏はほとんどわかりませんが、声を聴くことができますよ(笑)。
♪Joe Henderson Quartet- Ya La Quiero- Burghausen 1987
リニー・ロスネスが注目を浴びるきっかけとなったジョー・ヘンダーソンのクァルテットの映像がありました。これは貴重です。当時、ジョー・ヘンは女性トリオを登用してジャズ・シーンに対してなにかを仕掛けようとしていたようです。その急先鋒だったのがリニー。
ゴリゴリのジョー・ヘン・サウンドに引けをとらずガツンガツンと弾き続けるその姿、いやぁ~、オトコマエですねぇ(笑)。
♪今週の気になる1枚~クリヤ・マコト『新世紀スタンダード』
どこかで紹介しようと思っているうちに、発売から1年が経ってしまいました(汗)。
クリヤ・マコトといえば、アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」のエンディング・テーマを演奏したことがきっかけで、アニソン・ジャズのオーソリティ的な存在になっていますね。
「日本ではカヴァー中心みたいな活動になっちゃってますけれど、海外ではオリジナルじゃないと評価されない。そういうギャップもおもしろいですよね」と本人は言っていましたが、どちらがいい悪いではなく、どちらも評価されちゃうというのが彼のスゴイところ――なわけです。
このアルバムを手にしたとき、収録曲に「創聖のアクエリオン」があったので、楽しみにしていました。はたしてどんなふうにクリヤ・マコトは料理してくれるのだろうかと――。
こういう遊び心がある作品って、なぜか心に残ったりするんですよね。これもボクが日本人だからなのでしょうか(笑)。
♪創聖のアクエリオン/クリヤ・マコト
ときどきチラチラといろいろなベーシストが写り込んでいる動画ですが、クレジットによるとこの曲担当はコモブチキイチロウですので念のため。ヴォーカルは紗理。ベテラン・サックス奏者、中村誠一さんのお嬢さんですね。ライヴで拝見したことがあります。
♪執筆後記
半年ぐらいはトライ&エラーを繰り返しながら固めていきたいと考えています。有料配信は冒険ですが、無料でダラダラ書いているのもモチベーションが下がるんじゃないかと思っての決断。
ジャズに興味がある人の触角がもっと伸びるようにと考えながらの運営をしていきたいと思いますので、引き続きご贔屓いただければ幸いです。
富澤えいちのジャズブログ⇒http://jazz.e10330.com/