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黄色いベストと極左派ブラックブロックの危険な関係

プラド夏樹パリ在住ライター
黄色いベストデモ18週目。シャンゼリゼ大通りで(写真:ロイター/アフロ)

昨日は黄色いベストデモ22週目だった。ナンシー市、ボルドー市、リール市の他、「壊し屋」ことウルトラ左派ブラックブロック(注)が出現したトゥルーズ市が特に荒れたとニュースで聞いた。そこでこのブラックブロックについて今日は書いてみたい。

注:参加者を指すこともあれば、文脈によっては闘争方法を意味する場合もある。

「また来週くるぜ!」

最近のブラックブロックによる破壊事件で一番大きなものは、3月16日の黄色いベストデモ

だった。

パリのシャンゼリゼ大通りで有名なレストラン、フーケッツが焼かれ、HUGO BOSS、Nike、Bulgari、Longchamp、Cartierといった有名ブティックが襲われ、ウィンドーは粉々、商品が略奪され、壁に「また来週くるぜ!」などと落書きされた。

しかし、映像を見ると、不思議なことになっている。石畳を引っぺがしたりバリケード作りに忙しい戦闘態勢の人々。しかし、その後方では写真を撮ったり、略奪したソファーに座っておしゃべりしてのんびりしている黄色いベストの人々が共存している。

もちろん前面に出て破壊行動を起こしていたのが、snsで連絡を取り合って欧州中から約1500人集まってきたブラックブロックだ。黄色いベスト側の中にも破壊行動に加担している人はいるかもしれないが、ごく少数と考えられている。

ネオナチの対極

私が実際にブラックブロックを見かけたのは、2016年春。全身黒装束で隊列を組み、50人余りでレピュブリック広場の方からやってきたかと思うと、我が家の向かいにあるクレディ・リヨネ銀行のATMを鉄棒で一瞬のうちに破壊し、その後、我が家の一階にある化粧品・香水専門チェーン店SEPHORAのウィンドーを壊した。怖いと思う間もなく、呆気にとられている間ドロンと蒸発してしまった。

もとは1980年代末、ベルリンの不法入居地帯(スクワット)に現れたアナーキストの一派らしい。資本主義、政府、警察、グローバリスムに反対するアンチ・システム派。過激、暴力的という点では、ネオナチと張り合うが、政治的には対極的な立場にある。テレビ局BFMTVのニュースによればそのプロフィールは「ヨーロピアン系、教育程度は高く資格をもった職業人、1/3は女性」ということだ。

コミュニスト、エコロジスト、フェミニストの過激派と混合することもある。G20や世界貿易期間閣僚会議が開かれる街などで、市民デモに寄生する形で出現し、「破壊すること、それは、多国籍企業が民衆から奪った金を取り戻すこと」と書いたビラを配ったり、ハンマーやペンキが入った破裂物など手製の武器を使って、富裕層を象徴する店や銀行を破壊する。

警察の話では、「よく組織されており敏捷で、逃げ足が速い。ジェスチャーで特殊なサインをし合って行動、破壊するや否やあとは跡形なく蒸発するプロ忍者」ということだ。

ここまでしないと政府は国民の言葉に耳を貸さない?

ブラックブロックは、いわば黄色いベストデモを利用する形で破壊活動をしに来るのであるが、黄色いベスト側はいわば右も左もない雑多なオピニオンの集まりであるから、その反応も人それぞれだ。

暴力は絶対ダメという人もいれば、「暴力はいわば必要悪。ここまでしないと政府は国民の言葉に耳を貸さないから」とオフレコで言っている人もいる。また、「自分の手を暴力に染めはしないけれどもブラック・ブロックがやってくれるなら、やらしておけば?」と見て見ぬ振りをする人もいる。3月16日のデモでは、ブラック・ブロックが一部の黄色いベストに拍手で迎えられたのも事実である。

では、一般国民はどのように考えているのだろうか?

統計機関Ifopの「黄色いベストデモに関する国民の意識」(2019年3月21日)をテーマにした調べによると、デモの際の暴力行為を非難しているのは国民の66%のみ。なんかこれって少なすぎるような……。

もちろんデモが始まったばかりの11月頃は、黄色いベストには女性や年金生活者が多く、杖をついて参加する老人たちを目にして、「彼らがここまでするからには、彼らには怒る正当な理由があるんじゃない」と言う同情的な意見もあったかもしれない。

しかし、「個人的には暴力は嫌いだけど、政府も非正規雇用をのさばらせる、中産階級や年金生活者の税金を値上げするとか、社会的暴力をここまで放置したじゃないか」、あるいは、「壊していいとは思わないよ。でも、人の命や人の生活が壊れたわけじゃないからLongchampやらCartierが壊れたって同情はしないね」と、堂々と言う人もいる。

政府と目に見えない暴力

この「なぜフランス人はデモの暴力的行為に対してユルいのか」について、色々な人々と話してみた。やはり日本人である私にはわかりにくい部分があるからだ。

その結果、フランスでは1789年の大革命、1830年の7月革命、1848年の2月革命、1870年のパリ・コミューンと4つの革命を経て、今の民主主義があるという歴史が人々の考え方に大きな影響を与えているように感じた。つまり、お上に楯突く民衆蜂起はいつの時代も違法だが、それが成功した途端に「革命」と呼ばれ、正当な行為になってしまう。だから、より民主的な政治を求めてという条件であるならば、たとえ暴力的であってもデモに対するハードルが、日本より低いのではないだろうか?

ある学生さんが話してくれたエピソードは次のようなものだった。社会主義者ジャン・ジョレスが1906年、暴力的なデモをする鉱山労働者を擁護して、「労働者は目に見える暴力行為で過酷な労働条件に対して抗議している。しかし、経営者側はそんな手間暇かかる暴力に手を染めることなく、非公開の取締役員会で上等ワインでも飲みながら、労働者の正当な賃金値上げ却下を決定し、デモをする労働者の首をバッサリ切る決議をのうのうとしている。これが社会的暴力でなくて何なのか?」という趣旨のことを言ったと。

そして彼は、「目に見えない暴力だってあるでしょう?年金生活者の税金上げたり、住居手当減額したりさ。政府がやってるのはそれだよ」と言い、私には返す言葉がなかった。

しかし、いくらなんでも破壊行為が毎週土曜日に続くことは、長い目で見れば、黄色いベストデモに対する国民のオピニオンを悪いものにしていくことは必至だ。

5ヶ月以上も続いた、より民主的な政治を求めたこの運動がここで終わってしまうことは惜しい。黄色いベストには今後も重要な発言力として活躍してほしいと思うが、それにはまず、ブラックブロックのような極端なグループの暴力ときっぱり距離をとることが、そしてこれまでとは違ったより組織された形で政治参加することが必要だと思う。

2019年4月27日、一部修正しました。

パリ在住ライター

慶応大学文学部卒業後、渡仏。在仏30年。共同通信デジタルEYE、駐日欧州連合代表部公式マガジンEUMAGなどに寄稿。単著に「フランス人の性 なぜ#MeTooへの反対が起きたのか」(光文社新書)、共著に「コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿」(光文社新書)、「夫婦別姓 家族と多様性の各国事情」(ちくま新書)など。仕事依頼はnatsuki.prado@gmail.comへお願いします。

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