平和条約を求める北朝鮮と冷戦を終わらせたくない米国
フーテン老人世直し録(203)
如月某日
北朝鮮の「ミサイル発射」報道を見ていると、いつものことながら国民の不安を扇動する情報操作がやたら目につく。北朝鮮の軍事的脅威をなくすには冷戦によって分断された南北朝鮮の統一が最善の道であるにもかかわらず、議論は常に目の前の危機だけに集中し問題解決の方向を示さない。
北朝鮮がなぜ核とミサイルの開発を行うかといえば「朝鮮戦争」が終わっていないにもかかわらず冷戦体制が崩壊したからである。北朝鮮は冷戦中は旧ソ連の核の傘に守られていたが、それがなくなった現在、朝鮮戦争を終わらせて米国と平和条約を結ぶには、外交カードとして自前の「核抑止力」を持つ必要があると考えている。
北朝鮮は工業国であるから電力が何よりも重要で、そのため冷戦時代にはソ連から原子力発電の技術を導入した。しかしソ連は北朝鮮に核兵器を持つことは許さなかった。朝鮮戦争を共に戦った中国も核兵器を持つことを許さない。北朝鮮はNPT(核拡散防止条約)に加盟して、金日成は核兵器を持つことに一貫して否定的な発言を繰り返した。
ところが1991年に旧ソ連が崩壊すると、米国は真っ先にソ連に管理されていた核物質や核技術の流出を懸念する。米国議会では連日にわたりいかに核拡散を防止するかが議論され、中東のイラン、イラクと北朝鮮が注目されるようになった。
1993年、北朝鮮が原子力発電所の査察を拒否した事から第一次核疑惑が起こる。クリントン大統領は発電所空爆を決意するが、第二次朝鮮戦争が起きた場合、想定された韓国の被害の大きさに空爆は見送られ、北朝鮮は核を放棄する見返りに各国からエネルギー資源の提供を受けることになった。しかしこの時点で北朝鮮が核兵器を保有していたとは言えず、あくまでも疑惑の段階である。
疑惑が疑惑でなくなるのは、いったん核放棄を宣言した北朝鮮が再び査察を拒否してNPTを脱退した2003年である。その前年にブッシュ大統領はイラン、イラク、北朝鮮を「悪の枢軸」と呼んで大量破壊兵器を保有していると非難し、2003年にはイラクに先制攻撃を仕掛けた。
この記事は有料です。
「田中良紹のフーテン老人世直し録」のバックナンバーをお申し込みください。
「田中良紹のフーテン老人世直し録」のバックナンバー 2016年2月
税込550円(記事6本)
※すでに購入済みの方はログインしてください。