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ノルウェー秘境に世界中からサウナ好きが大集合している理由

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
撮影:Farris Bad/Aufguss WM

北欧で「サウナ」といえば「フィンランド」である。しかし、先日は「ノルウェー」の片隅にある街に世界中の有名「アウフグースマスター」達が集結していた。首都オスロから電車で1時間40分離れた街ラルヴィクには、「Farris Bad」というサウナ好きの間では有名なスパがあるのだ。9月2~4日、アウフグースの技を競う世界大会の予選がここで開催されていた。

海沿いにあるスパ「Farris Bad」 撮影:Farris Bad/Aufguss WM
海沿いにあるスパ「Farris Bad」 撮影:Farris Bad/Aufguss WM

アウフグースとは、熱したサウナストーンにアロマ水などをかけて、サウナストーンから立ちのぼる蒸気をタオルなどであおぐパフォーマンスのことである。

アウフグースを行う演者のことをアウフグースマスターといい、アウフグースマスターはサウナ室の中でお客様に、美しいタオルさばきで心地よい風を送ることが必要とされる

Aufguss Japan公式HP

ドイツの「SATAMA Sauna Resort & Spa」で開催予定の世界大会に進む最後の出場者枠を決めるために、今回のノルウェーでの「AufgussWM Playoffs2023」には日本人選手も含め、16か国から39選手が参加した。

団体戦では五塔熱子選手、箸休めサトシ選手、オカミチオ選手の3人による「百花繚乱」チームが見事優勝し世界大会への切符を獲得。個人戦では日本代表選手としてりゅーきイケダ選手が参加し、世界大会への切符は逃したが、どちらも会場を熱狂させた。

世界大会への切符を手にして歓喜する「百花繚乱」チーム 撮影:Farris Bad/Aufguss WM
世界大会への切符を手にして歓喜する「百花繚乱」チーム 撮影:Farris Bad/Aufguss WM

個人戦で奮闘したりゅーきイケダ選手 撮影:Farris Bad/Aufguss WM
個人戦で奮闘したりゅーきイケダ選手 撮影:Farris Bad/Aufguss WM

ラッセ・エリクセンさん(Lasse Eriksen)は、サウナ界の重鎮であり、日本とノルウェーのサウナ界をつなげる橋渡し役も担う、「知る人ぞ知る人」だ。Farris Badの開発マネージャーであり、国際サウナ協会の取締役会メンバー、ノルウェーのサウナ協会代表、アウフグース世界大会の副代表と、数々の肩書を持つ。今回のノルウェーでの大会を開催し、「選手のレベルが非常に高くなっている」と驚いていた。

ノルウェーでのサウナ事情 今、何が起きているの?

「世界全体でアウフグースのレベルが上がっており、参加する選手も選手の練習量も増えています」と話すエリクセンさん 撮影:Farris Bad/Aufguss WM
「世界全体でアウフグースのレベルが上がっており、参加する選手も選手の練習量も増えています」と話すエリクセンさん 撮影:Farris Bad/Aufguss WM

「サウナといえばフィンランド」だが、エリクセンさんはノルウェーでも「サウナブーム」が起きていると話す。

「特にオスロ、ベルゲン、スタヴァンゲル、トロンハイムといった大都市でサウナブームが起きています。各地で小さな『サウナ村』ができており、首都オスロのフィヨルド付近では現在25のフローティング・サウナ(水面に浮かぶサウナ)ができていますしね。ますます多くの市民が『スウェット・カルチャー』(汗の文化)に関心を示しているんです」

「ノルウェーには山やフィヨルドが多いので、自然・建物・デザインが融合するという独自性があります。自然とのトータル・デザインがとても重要視されるんです」

ノルウェー現地でよりも日本で有名なスパ

サウナで温まった後はそのまま海に入る 撮影:Farris Bad/Aufguss WM
サウナで温まった後はそのまま海に入る 撮影:Farris Bad/Aufguss WM

実はノルウェー現地の人は、一部のサウナ好きを除いて、自国のサウナ文化のポテンシャルには気が付いておらず、他国からの「サウナ観光者」が密かに増加中であることを知らない。ノルウェーの「Farris Bad」もサウナ・スポットとして他国のほうが高く評価している印象がある。

今回大会に参加した日本人の選手や日本からわざわざ応援に駆け付けたサウナーの皆さんは、「飛行機に乗ってまでサウナ体験をしに来る価値が、ノルウェーには十分にある!」と口を揃えた。

世界大会への出場が決まった「百花繚乱」チームの箸休めサトシ選手は、「ここにあるような、男女共有で大人数で入れる規模のサウナ室は日本にほとんどないんです。しかも、海という水風呂が広がっていて最高ですね。シラカバのもくずが海に浮かんでいて、まさに天然の水風呂です」と、日本のサウナ好きにとっては非常に贅沢な場所だと語る。

怒りや競争心を置いて、サウナ室に入ろう

大会会場となったサウナ室 撮影:Farris Bad/Aufguss WM
大会会場となったサウナ室 撮影:Farris Bad/Aufguss WM

最後に、エリクセンさんはサウナ室に入る前に「持ち込んだほうがいいもの」と「サウナ室の外に置いてきたほうがいいもの」があると教えてくれた。

「サウナに入室する前に、あなたが持っている怒り・心配事・悪いもの・審査しようとする心は外に置いてきましょう。私たちはサウナ室の外の世界で毎日の苦労をため込んでいます。身体の中にそういうものがあるなら、水風呂に入って、吹き飛ばしてしまいましょう。サウナとはポジティブな意味での精神的で、スピリチュアルであり、社会的な体験なのです。サウナ室では自分の魂・心・身体とつながり、浄化し、ポジティブな感覚と感情を外の世界に持ち出すことができます」

ノルウェー現地の人より、日本の人のほうがノルウェーのサウナ文化を評価していることに筆者は驚きもした。サウナブームや温泉文化がある日本と、フィヨルドという広大な水風呂とサウナ文化が育ちつつあるノルウェーで、これから交流がどのように発展していくかも気になるところだ。

世界大会のこれからの結果が気になる人はX/Twitterで「Aufguss Championship Japan【公式】」をフォロー

Farris Bad(英語)

Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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