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ベタを承知で、照れずに、ラブコメの王道を貫いた『恋はつづくよどこまでも』

碓井広義メディア文化評論家
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

ついに終わっちゃいましたねえ、『恋はつづくよどこまでも』(TBS)。来週からの「恋つづのない火曜日」を、今から怖れているファンも多いのではないでしょうか。

思えば、今期ドラマが放送されてきたここ数カ月、新型コロナウイルスが社会全体に影を落とし、どんよりとした空気が広がってしまいました。1億総マスクのせいなのか、街の中で笑い声を聞くことも少ないような気がします。

そんな中で、小さな救いの一つとなったのが、この『恋つづ』でした。とはいえ、画期的とか斬新とか、そういうドラマじゃありません。

むしろ逆ですね。『恋つづ』が描いたのは、昔からドラマや映画で繰り返されてきた、日本の伝統芸のような「医師と看護師の恋愛」でした。それがなぜ、コロナ禍の日本で、見る人を元気づけたのでしょうか。

まず、ヒロインの新人看護師、佐倉七瀬(上白石萌音)の愛すべきキャラクターがあります。

高校の修学旅行で鹿児島から上京し、偶然出会った医師の天堂(佐藤健)に一目ぼれ。彼の近くに行こうと決意し、勉学にも励み、努力してナースになります。新人看護師として、天堂と同じ日浦総合病院の循環器内科で働き始めました。

5年間の片想い。その「一途(いちず)」な乙女心、恐るべしです。しかも当初は、看護師としても女性としても、天堂から全く相手にされませんでした。それでも七瀬はめげない。

看護師として一人前になること、天堂に振り向いてもらうこと、そのためにはどんな努力も惜しみません。その姿は「健気(けなげ)」という言葉がぴったりで、やがて彼女の天性の明るさと笑顔は、患者さんたちの支えとなっていきました。

そんな七瀬と接するうち、天堂(佐藤さんの魔王、絶品!)にも変化が。

かつて愛した女性を病気で失ってから封印していた、人を愛する心が甦ったのです。あまり自分の感情を表に出さない天堂が、涙ながらに「俺から離れるな」とまで言ってしまう。高い演技力によって、「一途」と「健気」を表現した、上白石さんの勝利です。

七瀬は天堂の心を動かしましたが、一番揺さぶられたのは見る側の感情です。仕事も恋も初心者で、失敗しては落ち込み、泣いてはまた顔を上げる。健気で、一途で、ひたすら一生懸命なヒロインを、多くの人が応援したくなりました。

そして、もう一つの成功要因が、「照れない」ストーリーです。

そもそも天堂と同じ病院に就職したこともすごいですが、同じマンションの隣の部屋に住むとか、「都合良すぎ」と言われそうなのに、堂々と設定していました。

ここぞという場面では天堂が突然現れたり、2人で交通事故に巻き込まれたり、終わり間近で降ってわいたような七瀬の海外留学と帰国があったり、何より本当に結婚まで行っちゃうなど、「ベタな展開」が目白押しでした。

しかも、途中からは、ハグもキスも、てんこ盛り。でも、照れたりしません。相手がくわえた食べ物だって、照れることなく、かじっちゃいます。それでいいんです。

ベタを承知で、照れずに、ラブコメの王道を貫いたこと。その勇気がアッパレでした。そう、七瀬や上白石さん同様、脚本の金子ありささんと制作陣もまた勇者だったのであり、見事勝利を収めたのです。

それにしても、来週から『恋つづ』のない火曜、どうしましょう?

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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