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瀕死状態の中小プロモーターの救世主へ ボクシング新シリーズ「リングシティ」とは 

杉浦大介スポーツライター
Photo By Tom Hogan/Ring City

11月19日 ロサンジェルス ワイルドカードジム

スーパーフェザー級10回戦

WBC世界スーパーフェザー級シルバー王者

オシャキー・フォスター(アメリカ/27歳/18勝(11KO)2敗)

9回TKO

ミゲール・ローマン(メキシコ/35歳/62勝(47KO)14敗)

まずまずのスタート

 11月19日(現地時間)、米ケーブル局のNBCスポーツ・ネットワークが主催するボクシングの新シリーズが始まった。その名も"リングシティ(Ring City)"。

 現代のボクシング界では、好カードがなかなか実現しないことが問題点の1つと言われて久しい。今シリーズはその最大の要因であるプロモーターの壁を取っ払った50/50のマッチメイクが売り物と喧伝されている。

 マニー・パッキャオ(フィリピン)の本拠地として知られるワイルドカードジムの駐車場で挙行された第1回興行。この日は実際にゴールデンボーイ・プロモーションズ(GBP)、ディベラ・エンターテイメント、プロモシオネス・デル・プエブロ、パコ・プレゼンツといった多くのプロモーションの選手たちが出場した。

 メインではディベラ傘下のWBCスーパーフェザー級シルバー王者フォスターが、ローマンから2度のダウンを奪って9回TKOで快勝。かつて三浦隆司(帝拳)とも激闘を演じた古豪を相手に持ち味を発揮することに成功し、「今後につながる勝ち方」と好評を集めた。

 また、セミファイナルではGBP傘下のライト級無敗プロスペクト、ウィリアム・セペダ(メキシコ、22戦全勝(20KO))が印象的なストップ勝ち。アンダーカードではGBPとプエブロから共同プロモートを受けるスーパーフェザー級世界ランカー、エドゥアルド・ヘルナンデス(メキシコ/30勝(27KO)1敗)もKO勝ちを飾るなど、出場選手たちはそれぞれの形でアピールした。

 前評判よりも各試合がややワンサイドになったのは少し気になるが、それもボクシングではよくあること。パンデミックの最中に敢然とスタートした意欲的な新シリーズは、まずは悪くないスタートを切ったと言って良いだろう。

中小プロモーターの救世主

 今後、年内はあと2興行が予定されるリングシティ。どちらもメインイベントにはなかなか興味深いマッチアップを用意してくれている。

 12月3日

 スーパーウェルター級10回戦

 セルヘイ・ボハチャック(ウクライナ/25歳/18戦全勝(18KO))

 

 ブランドン・アダムス(アメリカ/31歳/21勝(18KO)3敗)

 12月17日

 スーパーウェルター級10回戦

 チャールズ・コンウェル(アメリカ/23歳/13戦全勝(10KO))

 

 マディヤー・アシュキエフ(カザフスタン/32歳/14戦全勝(7KO))

年内の3興行の試合会場はフレディ・ローチのワイルドカードジム。パンデミック中ゆえの苦肉の策だが、なかなか味があって良い。 Photo By Tom Hogan/Ring City
年内の3興行の試合会場はフレディ・ローチのワイルドカードジム。パンデミック中ゆえの苦肉の策だが、なかなか味があって良い。 Photo By Tom Hogan/Ring City

 新型コロナウイルスによるパンデミック以降、アメリカ国内でも巨額TV契約を持つ大手(トップランク、PBC、GBP、マッチルーム・スポーツ)以外の中小プロモーターはほとんど瀕死状態だったといっても大袈裟ではない。

 これまでゲート収入、スポンサー収入に依存していたローカル興行を継続することは極めて困難。所属選手たちも試合枯れに陥り、大手プロモーター契約選手のBサイドとして声がかかるのを待つしかなかった。そんな状況下で、リングシティは救世主的なシリーズとなるのだろうか。

 ボハチャックを抱えるトム・ローフラー(360ボクシング)、コンウェルを傘下に持つルー・ディベラは、無敗プロスペクトたちに強敵相手のテレビファイトを提供できたことで胸を撫で下ろしているに違いない。

 ベテランのアダムスに興味深いサバイバル戦を組むことができたアーサー・ペルーロ(バーナー・プロモーションズ)にしてもそれは同様。その他、キャシー・デュバ(メインイベンツ)、ケン・トンプソン(トンプソンボクシング)、ジョー・デガーディア(スターボクシング)の契約選手もシリーズ中に登場が予定されている。

マニアに愛されたFriday Night Fightsのように

 第1回のファイトマネー総額は8万ドル強という小規模興行であり、ビッグイベント感があるわけではない。それでも、いわゆるクラブファイト(小興行)を打つのが難しくなった中小プロモーターにとって、自前の選手たちのテストマッチを全米中継される興行でお披露目できることの意味は計り知れない。

 こういったプロスペクトシリーズはアメリカでも前例がないわけでない。かつてESPN2で長期にわたって放送されたフライデー・ナイト・ファイツ(Friday Night Fights)はコアなボクシングマニアから人気を博した。また、Showtimeの低予算シリーズ、SHO BOX(パンデミック突入後は1度しか放送されていないが)も若手ボクサー、海外選手にとっては貴重な力試しの場となっている。

 それらと同じように、リングシティもファン・フェイバリット(ファンのお気に入り)として定着していくのか。

 リングシティの軸となるHBO元重役エバン・ルトコウスキー氏によると、年内は前述通り3興行で、2021年は東京五輪開始の時期までに11興行を打つことが決まっているという。この14興行でどれだけ魅力的なカードを組み、どれだけ効果的に売り出していけるかが存続の鍵になる。

 競技の幅を広げるという意味で、リングシティはすべての関係者にとって重要なシリーズになりかねない。まずはその成功を心から願いたいところだ。

 興行前日、ローマンが持ち込んだレイジェス製のグローブの詰め物が両手とも抜けているのをフォスターのトレーナーが発見。このグローブはカリフォルニア州アスレチックコミッション(CSAC)によって没収された。ローマンは他のグローブを着用することで試合は予定通り挙行されている。

 フォスター側はこの件に関して怒り心頭で、ディベラ・プロモーターは徹底した調査を依頼したという情報も。一方、NBCスポーツの放送中には、CSACは「グローブの使用が却下されるのは珍しいことではなく、大事ではない。プロトコルに従って処理された」と述べているというレポートもなされている。

Photo By Tom Hogan/Ring City
Photo By Tom Hogan/Ring City
スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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