リドリー・スコット84歳、イーストウッド91歳。衰え知らずの巨匠の新作、日本で同じ日に公開の喜び
オミクロン株の広がりで、再び社会的な不安が増しているなか、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』をはじめ年明けから見応えのある話題作の公開が続くが、1/14には映画ファンの心をくすぐる2作が同時公開される。リドリー・スコット、そしてクリント・イーストウッド。言わずと知れた映画界のレジェンド。前者は84歳で、後者は91歳。この最新作を観る限り、この巨匠たちの創作意欲とエネルギーは、まったく衰えていないと実感する。
両者のこの新作は、すでにアメリカなど各国では昨年から上映されているが、日本では奇しくも公開日が同じになった。なんとも贅沢な偶然である。
リドリー・スコットの最新作は『ハウス・オブ・グッチ』。世界的に知られるファッションブランド、GUCCIの「お家騒動」を描く。イタリアのミラノを舞台に、GUCCIの創業者の孫であるマウリツィオ・グッチが、妻のパトリツィアの計画によって殺害されたという一大スキャンダルを、マウリツィオとパトリツィアの出会いから20年以上の歳月にわたって再現。内容はとにかくゴージャスで、パトリツィア役レディー・ガガの悪女ぶりや、シーンごとに変わるファッション、グッチ一族の濃厚なキャラ(オスカー俳優がズラリ)、イタリアロケの映像美など、見どころが“幕の内弁当”的な作品。内幕モノということで、いい意味で「下世話」で好奇心をくすぐり、深刻になりすぎない。リドリー・スコット作品とは思えない「軽快さ」も備えたエンタメになっている。
リドリーに直接インタビューした際も「世界がコロナ禍にある中、だいたい20ヶ月で『最後の決闘裁判』と、この『ハウス・オブ・グッチ』という2本の大作を仕上げたのは、自分でもスゴいと感じる。『グッチ』は短い撮影日数で、私の現場でも最高のスピード感だった」と、余裕しゃくしゃくで答えていた。84歳とは思えない、瞬発力のある受け答えで、まだまだ元気で映画を作り続けそうな様子にうれしくなったのである。
一方のクリント・イーストウッドは、最新作『クライ・マッチョ』から、さらに意気軒昂ぶりが伝わる。年齢はもちろん、監督デビュー作の1971年の『恐怖のメロディ』から50年を経て、コンスタントに作品を撮り続け、40本目となる『クライ・マッチョ』では主演も務めているのだから。
40年前に実現しなかった企画である『クライ・マッチョ』は、静かな余生を送るカウボーイが、テキサスからメキシコへ向かい、依頼主の息子を連れ帰ろうとする物語。イーストウッドが演じるマイク・マイロは、かつてロデオ界のスターで、妻に先立たれて孤独に生きている。この「カウボーイ」「孤独」というキーワードは、イーストウッドにうってつけで、俳優としてブレイクしたTVドラマ「ローハイド」や『荒野の用心棒』から、アカデミー賞受賞の『許されざる者』の記憶がよみがえるし、年の離れた少年との絆は『グラン・トリノ』、国境超えは『運び屋』、疑似家族的な関係は『ミリオンダラー・ベイビー』、さらにマイクの思わぬ恋の運命は『マディソン郡の橋』……と、イーストウッドが監督し、自ら演じた作品とリンクする部分のオンパレード。要するに、監督および俳優としての集大成的な作品なのである。
とはいえ、映画全体のムードは、どこか「やさしい」。一見、シリアスな展開のようで、コミカルでほっこりさせる瞬間も多かったりする。イーストウッド作品にズッシリ感を求める人には物足りないかもしれないが、リラックスして観られる感覚がむしろ微笑ましい。さすがにスクリーンの中のイーストウッドは、その歩き方や姿勢に年齢を感じさせるものの、全体としてどこか仙人の境地にでもたどり着いたような……。
このように、リドリー・スコット、クリント・イーストウッドの新作は、ともに「観やすさ」が感じられ、たとえ同日公開でも一気に楽しめるのも事実だ。こうした観やすい作品を送り出すのも、巨匠の熟練の技か。
リドリー・スコットは今後も、「エイリアン」シリーズの最新作や、『ジョーカー』のホアキン・フェニックスがナポレオンを演じる大作など、監督の予定が山積み。クリント・イーストウッドの新作はアナウンスされていないが、まだまだ撮ってくれると期待したい。
『ハウス・オブ・グッチ』
1月14日(金) 全国ロードショー 配給:東宝東和
『クライ・マッチョ』
1月14日(金)新宿ピカデリーほか 全国ロードショー 配給:ワーナー・ブラザース映画