先の見えない今の暗さにぴったり!映画『サイレント・ナイト』
映画には今、見た方が良いタイミング、というのがある。『サイレント・ナイト』は“不幸なことに”今年のクリスマスにぴったりである。
昨年(2020年)はサン・セバスティアン映画祭の『ニュー・オーダー』がそうだった。
夜間外出禁止令が敷かれていたスペインと、あの作品が描いていたもの、そこに漂う空気感がぴったり合っていた。
世の中なんてあっという間に変わる。コロナによって日常生活は思いもよらぬ方へ舵を切っていた。民主主義を愛するはずの左翼政権が非民主的な戒厳令を出さねばならない。
なぜなら、戦争状態だから。
我われが信奉していた「自由」とか「平等」とかは、平和時にのみ通用する非常に脆い概念だったことが身に沁みたのが2020年だった。
『ニュー・オーダー』については以下に書いた。
コロナ禍に見るべき映画『ニュー・オーダー』。“世界新秩序”と“新しい生活様式”
■イノセントな去年と不透明な今年
で、今年2021年は『サイレント・ナイト』がぴったりだ。ちょうどクリスマスだし、今見ないでどうするの?って感じだ。
念のために言うと、『ニュー・オーダー』にも『サイレント・ナイト』にも伝染病なんてものは一切出て来ない。両作品の内容にもテーマにも共通点はない。
実際『サイレント・ナイト』はコロナ禍の前に撮られているのだが、カミラ・グリフィン監督のもとへは「コロナ禍がヒントになったのか?」という質問がいくつも届いたそうである。
『サイレント・ナイト』が残す後味が、暗い先の見えない今そのもので、このまま何年かすると作品が描いているものが現実になるかもしれない、と悲観してしまう。
『ニュー・オーダー』が残した後味は、民主主義へのイノセントな失望であり、それはコロナ禍1年目に相応しいものだった。が、コロナ禍2年目には『サイレント・ナイト』こそが相応しい。
■脚本賞と観客が選ぶ最高の一本
想えば、去年のクリスマスには希望があった。
新年の大きな波にさらされる直前ではあったものの、ワクチンのニュースも届いていた。“ワクチンを打てば日常が帰って来る”という期待も大きく膨らんでいたのだ。
が、あれから1年。
私の住むスペイン南部アンダルシア州では今日(12月20日)からカフェやレストランでワクチンパスポートが必要となり、仕事のサッカーでは再び無観客に戻るのでは、という噂。私には遅かれ早かれ3本目接種の連絡が届くのだろう。
依然として日本へ一時帰国できるような状態にはないが、安心して帰れるようになるのはいつなのか? まったく見通しが立たない――。
そういう空気感を『サイレント・ナイト』はきっちり回収してくれる。
今年のシッチェス映画祭では最優秀脚本賞と、観客が選ぶ最高の一本に選ばれた。私のランキングでも同映画祭のナンバー1かナンバー2か、といったところで、抜群に面白く、後味が長く引く。
日本では今年は公開されないようだが、いつか公開された時には、むしろ“今の空気に全然合わないな”という世の中になっていてほしい。
※写真提供はシッチェス映画祭。