久保建英のソシエダ移籍の決断。FW起用の恩恵と見つけた自分の理想の場所。
移籍の決断は、間違っていなかった。久保建英が好調を維持している。
この夏、レアル・マドリーから移籍金600万ユーロ(約8億円)でレアル・ソシエダに移籍した久保だが、開幕からスタメンの座を射止めた。ここまで公式戦11試合に出場して2得点3アシストを記録しており、完全にイマノル・アルグアシル監督の信頼を勝ち取っている。
■ラ・レアルでの序章
始まりは素晴らしいものだった。
開幕節のカディス戦、【4−4−2】のFWで起用された久保は、ミケル・メリーノのパスに反応して、巧みなコントロールから右足を振り抜いた。GKコナン・レデスマの脇を抜くシュートを沈め、移籍後初得点を挙げた。
ゴールという結果は何ものにも代え難かった。だが驚いたのは久保がFW起用されたことだった。これは以降の久保の活躍につながっていく。そのポジションでの適性を見極めたイマノル監督もまた、称えられるべきだろう。
ソシエダは昨季から【4−4−2】のシステムを本格的に導入した。従来の【4−3−3】を諦めざるを得なかったのだが、それには理由がある。ミケル・オジャルサバルの長期離脱だ。
オジャルサバルは3月17日に練習中に左膝の前十字靭帯を断裂。スペイン代表にも選ばれているエースを失い、イマノル監督はその穴を埋めなければいけなかった。そこで思い至ったのが、システムチェンジの可能性だった。
しかし、その時、次のシーズンの2トップが久保とアレクサンダー・スルロットになるとは誰も想像していなかったかもしれない。
■2トップと攻撃力
今季、ソシエダの攻撃を牽引しているのは久保とスルロットの2トップだ。それは疑いのようない事実である。
無論、彼らに依存しているわけではない。ダビド・シルバ、メリーノ、ブライス・メンデス、マルティン・スビメンディという「盤石の中盤」が確と構え、なおかつ最終ラインは統率されている。
ただ、そもそも、久保とスルロットは類稀な決定力を有しているという選手ではなかった。久保はプロになってから、シーズンを通じて2桁得点を記録したことがない。スルロットに関しては、2019−20シーズン(当時トラブゾンスポル所属/33得点)にトルコで大暴れしたが、基本的にはロベルト・レヴァンドフスキやアーリング・ハーランドのようにゴールを量産するタイプではない。
その2人が躍動しているのは、連携力と相互理解、補完関係があるからだ。大雑把にいえば、久保がスペースにランニングして、スルロットがポストプレーをこなす。彼らが2002−03シーズンに大活躍したニハト・カフヴェチとダルコ・コバチェビッチに擬(なぞ)らえられるのも理解できる。
もうひとつ、付け加えるなら、可変の動きである。ソシエダは、度々、久保が左サイドに回り【4−3−3】を形成する。中央にトップ下のD・シルバが出てくる、あるいは大外のレーンをアンドニ・ゴロサベルが取る。複数のパターンがあるが、いずれにせよ久保は瞬間的に左WGになることが多い。
左利きの久保は、これまで右サイドに配置されるのが基本だった。右に置かれた久保が、左足でドリブルしながら、ハーフスペースを攻略していく。それが久保の突破力と周囲との連携力を生かせる形だと思われてきた。
だが、いまの久保は左サイドでも好パフォーマンスを披露している。そこからは久保の進化の一端が垣間見える。チームメートとのコンビネーションの向上、また全体の配置が久保の良いプレーを引き出している。久保が左に流れてクロスを送る形になったとしても、きちんと中央でそのクロスに合わせるための人数が揃っているのだ。
久保は2019年夏にスペインに移籍してから、得点・アシストで2桁を上回った過去がない。
2019−20シーズン(マジョルカ/4得点5アシスト)、2020−21シーズン(ビジャレアルとヘタフェ/2得点4アシスト)、2021−22シーズン(マジョルカ/2得点3アシスト)というのがこれまでの成績だ。
マジョルカ、ビジャレアル、ヘタフェが悪いチームだった訳ではない。それぞれのチームの指揮官が悪かったという話でもない。それらのチーム、または監督が守備的だった、久保の使い方が悪かったと批判するのは簡単だ。しかしながら問題の本質はそこには潜んでいない。
一方で、久保がそういったチームに合わなかった、と言うことはできる。「レアル・ソシエダは自分にとって理想のチームだった」とは久保自身が認めるところだ。理想と現実の狭間でもがいてきた久保の、さらなる進化に期待したい。