森友事件で読売新聞はなぜ「財務省 不起訴へ」を2度書いたか?
24日読売新聞が出した「佐川元長官や財務省幹部ら、再び不起訴へ…大阪地検が捜査終結」の記事。森友事件で検察審査会の「不起訴不当」の議決を受け、再捜査をしていた大阪地検特捜部が、再び財務官僚らを不起訴にする方針を固めたという内容だ。捜査当局が捜索や逮捕など節目の判断に踏み切るときに直前に出すこういう記事を「前打ち」と呼ぶ。すぐに結果がわかることを一刻一秒を争って出すことに何の意味があるのか、という批判もあるが、私自身、NHKの記者としてこの種の前打ち記事にも力を尽くしてきた。これが担当記者の純粋な取材努力によるものならば、そして内容が真実ならば、事実を先駆けて伝えたということで賞賛したいと思う。だが、これはそういう「記者の努力」によるものなのだろうか?
読売新聞が2度「財務省不起訴へ」を前打ちした意味
皆さん、覚えておられるだろうか?去年5月、大阪地検特捜部が森友事件で告発されていた佐川氏をはじめとする財務官僚ら全員を最初に不起訴処分にした時。あの時も、読売新聞が2週間ほど前に「不起訴へ」という前打ち記事を書いたことを。これは記者の努力なのか?
読売大阪社会部はかつて検察取材に強かった。伝説になっているくらいだ。だが今は違う。私は当時NHK大阪放送局の司法担当記者だったが、検察取材に関して読売を怖いと感じたことはなかった。産経は警戒していたが。
実際、読売はその前打ち記事の直前に「籠池被告 詐取認める方針」というトンデモ記事を書いている。もちろん籠池氏は一貫して起訴事実を認めていない。検察幹部もあきれかえる大誤報だ。それくらい取材ができていない新聞社が、この前打ち記事だけ取材できるということがあるだろうか?
とするとこの記事も去年の記事も、いずれもいわゆる権力側の「リーク」ではないのかという疑念が生じる。権力側が世論の地ならしのために特定のマスコミを使って行う「リーク」。しかも参院選が終わった直後というこのタイミング。そうではないと言うなら、ぜひこの記事を書いた読売の記者に聞いてみたい。
森友事件の火付け役が黙っちゃいない!
この読売新聞の不起訴報道に鋭く反応したのが、大阪・豊中市の木村真市議だ。森友学園への国有地売却金額を近畿財務省が開示しないのはおかしいと裁判を起こし、森友事件に火を付けた当人だ。木村さんはさっそく24日、大阪地検前で仲間たちとともに街頭宣伝活動を行った。
「国有地の安値売却は誰がどう見ても背任でしょう。これ以上ないって言っていいほどの背任でしょう。それをなぜ起訴できないんですか?そして公文書改ざん。これがどうして犯罪じゃないんですか?市民は誰も納得しませんよ。これを不起訴にしたら検察の信頼は地に落ちますよ。検事の皆さん、検事になった時の志を思い出して下さい」
この後、木村さんは検察庁の庁舎に入って担当の事務官と面談した。木村さんたちの「読売の記事は本当なのか?」という問いかけに、担当者は「その件は何も言えません」という答えに終始したという。だが、大阪地検トップの検事正に自分たちの声を伝えてほしいという要請には「わかりました。伝えます」と答えたという。
大阪地検の検事正は公務員の背任立件経験者
大阪地検の検事正は北川健太郎氏。大阪地検特捜部の経験者だ。北川検事正は10年以上前、高知地検ナンバー2の次席検事だった。その時、高知地検は高知県の副知事を背任罪で起訴している。ところが北川氏が大阪地検特捜部に戻った後に、一審で無罪判決が出る。北川氏は長期応援の形で高知地検に戻り、控訴趣意書を書いた。その後、この副知事は二審で有罪となっている。
私は、公務員の背任を立件した経験のある北川検事正なら、財務官僚らの背任事件もやってくれるのではないかと密かに期待していた。それが1度ならず2度も不起訴の決裁をすることになるのか?皆さんも注目してほしい。
そして、読売新聞が2度にわたって「不起訴へ」を前打ちした意味を考えてほしい。私たちはそういう時代、そういう世の中に生きているということを深く注意する必要があるだろう。
【執筆・相澤冬樹】