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【独自調査(1) 教職員の7割以上が4月中の学校再開に反対】見切り発車な再開でいいのか?

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
(筆者作成)不安の大きいままの学校再開で大丈夫か?

 新型コロナウイルスが猛威をふるうなか、きょうから新学期という学校もある。朝日新聞の調査によると、「道府県庁所在市と政令指定市、東京23区の計74自治体のうち47%にあたる35自治体が、公立小中学校の再開を延期する」一方、約半数は通常通りの予定だ(朝日新聞2020年4月3日)。とはいえ、昨日も、千葉県や岐阜県で方針を撤回して、休校(臨時休業)を延長することを発表するなど(いずれも県立学校)、動きがある(読売新聞2020年4月5日など)。

 連日、感染者数の増加などが報道されるなか、子どもたちや保護者にとっても、とても不安な日々であるが、当の先生たちはどう感じているのだろうか。各学校での感染症対策について、政治家の方や文科省は、威勢よく「万全を期す」などとおっしゃるが、現場の実態はどうなのだろうか。わたしは昨日、緊急調査を実施した。わずか半日で千を超える回答が寄せられた。関心の高さと問題の深刻さがあらわれているのかもしれない。

  • 2020年4月5日(日)に実施。
  • 本稿では、途中集計結果を速報として整理する。回答数は1212で、約85%は教諭、約7%が管理職(校長・教頭等)、約5%が講師、約2%が事務職員。
  • わたしのSNSを通じて協力依頼したので、回答者に一定の偏りがある可能性がある。たとえば、関心の高い人が回答しやすい傾向はあると思う。また、本人確認できないかたちの簡易なネット調査(Googleフォーム)である点でも限界はある(なりすまし防止はできないなど)が、即時に調査・集計できることを優先させた。

■7割以上の教職員は、4月中の学校再開に「反対」

 「今月(4月)中に学校を再開することについて、あなたの個人的な意見として、近いものを選んでください」という質問についての回答結果が、下のもの。実に小中学校教員らの約7割、高校、特別支援学校教員らの約8割が「再開には反対」と述べている。「再開はやむを得ない」という回答でも、不安はあるという人は多い。

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注)中等教育学校は回答数が少ないため、高等学校に含めた(以下も同じ)。

出所・作成)妹尾昌俊「学校再開または休校に関する緊急調査」(以下、断りがないかぎり同様)

 ある教員は今回の調査に「学校も大切だが命より大切ではない」というコメントを寄せてくれた。また、知人のある高校教師は「本音を言えば、授業もしたい。部活もしたい。でも、子どもたちに本人を、家族を、おじいさん、おばあさんを殺してしまうかもしれないウィルス感染のリスクは負わせられない。」とSNSで述べていた。もちろん、地域の感染状況などによっても、ちがってくる話ではあるが、共感される方も多いのではないだろうか。

■マスクだけの問題ではない。消毒液もないまま、スタート?

 大勢の教職員が学校再開に不安を感じるのは、学校の感染症対策(予防)が十分と言うにはほど遠いからだ。

 次のデータは、「学校再開に関連して、あなたの勤務する学校では、次の問題はありますか」と尋ねたもの。マスクがないというのはよく知られているが、学校には消毒液もないところもある。

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 勤務校のある都道府県で、新型コロナウイルスの感染が拡大・増加している地域か、落ち着いている地域か、感染未確認地域かの3区分も聞いているので、クロス集計した(3つ目は回答者が少なかったので表からは省略)。なお、この区分は、政府の専門家会議のものほど厳密なものではなく、飽くまでも回答者の認識による分類である。

 2種類のどちらの地域でも、マスク不足に加えて、消毒液も不足している(とても問題という声は約半数に上る)。

 文科省の学校再開ガイドライン(令和2年4月1日)では「教室やトイレなど児童生徒等が利用する場所のうち,特に多くの児童生徒等が手を触れる箇所(ドアノブ,手すり,スイッチなど)は,適宜,消毒液(消毒用エタノールや次亜塩素酸ナトリウム等)を使用して清掃を行う」ことを定めているが、消毒液が不足する状態ではムリな話であろう。

■教室では「3密」を避けることは限界

 次のデータもご覧いただきたい。「机を離しても十分な距離を取れない」という意見も多く、「とても問題である」割合は特別支援学校を除くと、約7割に上る。

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 特別支援学校、または普通学校の特別支援学級では、少人数で指導・学習しているから、状況は異なるが、小中高の普段の教室は、まさに「3密」が重なりかねない場所である。以前の記事でも書いたが、次の写真は、ある公立中学校の教室での机の間隔。日本の国の制度は、40人学級(小1のみ35人)だし、他の先進国と比べても1クラスあたり児童生徒数は最多である。密接、密集しやすい。

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※知人より提供

 ただし、特別支援学校や支援級では、少人数だが、教員や支援者と児童生徒が密接しやすい。日常的な学校生活で介助を要する子も多いためだ。

 また、どの校種でも、少し熱がある子や具合が悪い子は保健室に行くことになるだろうが、その保健室がクラスターの場になるリスクもある。病院での院内感染が報道されているが、学校のなかでも似た状況になるリスクはある。

 また、データは割愛するが、教室の構造上、換気でも問題があるという意見も多かった。

 上記の表でもうひとつ、注目してほしいのは、「給食中の感染防止には限界がある」について「とても問題である」という回答が小中学校と特別支援学校の7~8割に上ることだ。

 学校生活のなかで、新型コロナウイルスの感染防止が最も難しい場面が「給食」ということを示している。どの学校でも、教職員数は多くはないから、児童生徒が運搬、配膳、片付けなどもやっている。しかも、子どもによっては、手洗いしたあと、あちこち触ったあと配膳等をしたりするので、心配すれば、キリがない。

■部活動も感染リスクが高い

 部活動も心配だ。学校再開に伴って、部活動も通常通りという地域、学校もあるが、学校や活動によっては、大勢の生徒が密集し、あまり換気もよくない場所で、唾が飛ぶくらいの距離で交流する。感染拡大地域では、中高の約8割の教員らが「とても問題である」と回答している。感染増加はないが、発症例はある地域でも、中高の6~7割の教員らが「とても問題である」との認識である。

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■児童生徒だけでなく、教職員の感染も心配

 上記のデータのとおり、「職員室の様子や勤務実態などから、教職員が罹患、感染するリスクが高いと思う」という回答も多い。感染拡大地域の学校では実に8割近くが「とても問題である」と回答している。

 危険なのは、教室や部活動だけではない。職員室も、だ。

 さて、今回の記事について、「心配だ、心配だ」とばかり批判しても事態はよくならない、という反論、ご意見もあるかと思う。気持ちはわかる気もするが、かといって、根拠のない楽観論で進んだり、現場にあれしろ、これしろと無理難題を指示したりするだけでは、もっとダメだろう。

 感染リスクはどこまで対策しても、当面、ゼロにはなりえないだろうが、だからこそ、

●現実の事実、実態を直視したうえで

●どこまでの最大限の対策はできるか、情報共有して

●どこまでのリスクは許容するのか、あるいは避けるのかも、認識をあわせ

●学校再開にしても、休校延長にしても、さまざまなメリット、デメリットがあることを比較考慮して

 学校再開するかどうかなどを決めていく必要があろう。

 次回の記事でも、独自調査の他の分析結果なども交えて、対策を考えたい。

★調査にご協力いただいた教職員の方々にお礼、申し上げます。

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教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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