Yahoo!ニュース

学校再開にともなう保護者の責任と役割

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
親子でサクラを楽しむのもいいだろうが、学校再開には心配なことも(写真:アフロ)

 4月から学校が再開される見通しだ(地域によって差は出てくるかもしれない)。休校と春休みが続いているなか、働く保護者等にとっては朗報だろう。一方で、子どもたちの感染が心配だという気持ちをもつ方も多いだろう。

 学校が再開したとき、心配なこと、また文科省の学校再開ガイドラインの問題点については、昨日の記事に書いた。子どもたちを統制したがる、管理強化の教育、授業になってしまうのではないか、というのがひとつ。もうひとつは、部活動などで感染防止をゆるめ過ぎはしないか(ひいては感染拡大につながってしまうのではないか)というリスクだ。

参考:妹尾昌俊「学校再開は学校丸投げ? 現場任せで懸念される、管理強化とゆるみ過ぎ問題」

 この記事に書かなかったが、もうひとつ、ふたつ、とても心配なことがある。

なんで、うちの子がうつったんですか?

 ひとつは、学校で仮に児童生徒が新型コロナウィルスに罹患した場合、学校のせいにする保護者が現れるかもしれないことだ。

●なんで、うちの子がうつったんですか?

●学校側の衛生管理や感染予防はちゃんとしてたんですか?

●安心できると思って子どもを登校させたのに。

 といったクレームが来る可能性は考えられる。

写真素材:photo AC
写真素材:photo AC

 もちろん、学校側に不備がある場合もあるので、そこはしっかり批判なり、検証されるべきであろう。したがって、こうした保護者の声、意見は必ずしも理不尽なクレームとは言い切れない。だが、前回の記事で書いたとおり、学校側も限られた人手と予算で、できることを最大限やっているところがほとんどだ。どこまで丁寧にやっても、感染リスクはゼロにはなりえない。

 重篤化すると命に関わる以上、わが子のことがとても心配というのは親の心情だが(わたしも4人の子の父親なのでわかる)、学校を責めてばかりいても、事態はよくならないし、むしろ悪化する。

 学校が再開して、子どもを登校させる以上は、多少なりとも感染リスク(感染するリスクと感染させるリスクの両方)はある、ということを保護者は承知、承諾のうえで送り出すしかないだろう。今回は、まったく危険が予知できなかった自然災害時とは話が違うのだし。

 「妹尾はなにを当たり前のことを言っているんだ?」と思われた方も多いかもしれないが、0.5%でも、こういうクレームをしていく保護者がいると、学校、教職員はひどく消耗することになる。時間的にも精神的にも。500世帯ある、それほど規模の大きくない小学校等の場合、0.5%でも2~3人からクレームが来る計算になる。1000世帯ある学校なら、5人だ。

子どもたちのいじめが増える可能性がある

 もうひとつ、とても心配なことは、子どもたちのいじめやトラブルが増えるリスクだ。

●新型コロナに罹患した子、あるいは家族に患者がいる子

●風邪や喘息、花粉症などで咳やくしゃみがある子

●マスクを用意できなかった子

●もともと学校再開前から弱いとみなされていた子

 などが標的になる可能性がある。わたしは心理やいじめは専門外なので、断定はできないが、今回、おそらく、子どもの側も、新型コロナにかかるかもしれないという恐怖心や長引いた休みで、ストレスがたまっている可能性もある。

 おそらく、いじめの発生は、全国各地の先生たちが学校再開に伴い、最も気がかりにしていることのひとつだ。もちろん、学校や教育委員会側も迅速で適切な対応をとる必要があることは言うまでもない。過去のいじめ問題で見られたような、学校、教育委員会がいじめを放置する、隠蔽するようなことがあってはならない。

 同時に、保護者側の役割も大きい。いじめ防止対策推進法にはこんな条文がある。

第九条 

保護者は、子の教育について第一義的責任を有するものであって、その保護する児童等がいじめを行うことのないよう、当該児童等に対し、規範意識を養うための指導その他の必要な指導を行うよう努めるものとする。

2 保護者は、その保護する児童等がいじめを受けた場合には、適切に当該児童等をいじめから保護するものとする。

 保護者としては、できるかぎり、子どもたちのサインやSOSには気づくようにしたいし、自分の子が加害者にならないようしたい。

 家庭状況も厳しさを増しているところが多い。仕事がなくなって困窮している家庭もあるし、医療従事者等は日夜奮闘されている。保護者に余裕がないなか、保護者に頑張れと言うだけでもダメだとは思うが、だからといって、学校にだけ頑張れ、でもいけないと思う。

 子どもたち向け、あるいは保護者向けの相談窓口などの周知、充実も必要かと思う。

写真素材:photo AC
写真素材:photo AC

文科省と教育委員会は感染拡大以外のリスクも想定した準備を

 新型コロナ関連では、毎日のように文科省は教育委員会向けに通知を出している。これは指示、指令というよりは助言に近いものだが(地方自治の世界なので、権限は各教育委員会側にあるものも多い)。

 国から、保護者向けにも、少なくとも、上記の2点と、日ごろの児童生徒の健康管理は家庭で行うべきことは、もう少し発信があってもいいかもしれない。あるいは、各学校でも、入学式、始業式などの機会に、保護者向けに注意喚起していくべきだろう。メディア等も、「学校が再開してよかったが、感染は心配」といった保護者の声を伝えるだけでなくて、保護者が認識しておくべきことを取り上げてはどうだろうか?

 また、教育委員会にお願いしたいのは、上記の2点、保護者からの理不尽かもしれないクレームが来る可能性と、いじめなどで児童生徒に丁寧なケアが必要となる可能性を想定して、学校を支援してほしい。今から準備しておいてほしい。

 間違っても、4月に赴任したばかりの新米の教師に、あるいは臨時的に雇用した講師等に、重い責任を負わせて、孤立させないでほしい。これは校長や副校長・教頭にもお伝えしたいことでもある。こんなこと釈迦に説法だと思うが、これまでの新任教諭の自殺や精神疾患の事例を分析していると、新任にあまりにも重い責任を負わせている事例が多い。

 教育委員会も多忙だし、どこも人手不足で大変だが、上記の2点などで困難さを増す学校には、人的な手当ても考えないといけないと思う。校長等にしっかりしてくださいと言うだけ、あるいは消毒液を用意することだけが、教育委員会の仕事ではない。

◎妹尾の記事一覧

https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/

教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

妹尾昌俊の最近の記事