3.26気象観測の歴史が変わる 目視観測自動化へ
冬の寒さが戻っている日本列島。先日、長野県や箱根などで「雨氷」が見られました。雨氷とは、地上気温が0度以下のときに降ってきた雨粒が、樹木や車などに触れて凍り付く現象です。専門用語では「着氷性の雨」といい、電線や架線、航空機などにつくと交通障害の原因になるため「着氷注意報」として注意を呼びかけられる気象現象でもあります。また、この現象が起こる際は一定の条件があり、雨氷を観測することで上空の大気の様子を推し量ることもできます。
このように「観測」は気温や風など測器によるものだけではなく、視程(見通しのきく距離)や雲の形など、人間の目でしか確認できない気象現象があります。しかし近年は、観測測器の高度化にともなって雪なども気温や湿度等からある程度判定することができるようになりました。そんな技術革新の後押しもあってか、気象庁の観測も急激に自動化が進んでいます。
そして、これまで人間でしか判断できないという気象現象について、とうとう自動観測にとって代わられ、今年3月26日からは東京、大阪以外はすべての地点で目視観測が終了することとなりました。当然、人間でしか判断できない気象現象は「無かった」ということになります。
あられが多いと大雪
図は、金沢の冬期間(前年12月~2月まで)のあられの観測日数です。あられは5ミリ以下の氷の粒で、白濁したものは雪あられと言います。
図をみると、2019年までは年間30日くらいあったものが、2020年は18日と激減し、2021年以降は観測ゼロとなっています。この間に何があったかというと、目視観測の終了です。金沢では2020年2月3日に目視観測が終わり、それ以降はあられを観測することができなくなったというわけです。
別にあられの有無などどっちでもいいとお考えの方がいるかもしれませんが、実は気象現象というのは観測を継続しないと仮説が検証できない、ということがよくあります。たとえばグラフでみて、2006年は突出して日数が多くなっていますが、この年は日本海側で記録的な大雪がふりました。また2012年や2018年も寒冬でしたから、あられの多い少ないと大雪は関係あるのではということも考えられます。
黄砂の観測も無くなる
春になると中国の砂漠地帯から飛んでくる黄砂。近年では環境問題として知られ、重要な大気汚染などの指標にもなっています。この観測も測器では行われるものの、1967年から約60年間統計が残っている目視観測は、東京、大阪を除いて無くなります。
たしかに黄砂の観測は測器の方が相性も良いように思えますが、視程など周囲の状況と総合的に判断することができなくなりますし、「黄砂が観測された日」として残らなくなってしまいます。
雲の形が分からなくなる
雲の形は、現在十種類ほどに分類されていますが、これも現時点では人間の目より正確には判断できないでしょう。写真などで撮ったものを判定するアプリなどもありますが、これも正確度は人間に劣ると思います。
そもそも雲は何種類も同時に空に浮かぶので、この複雑さを瞬時に正確にとらえる技術はすぐにはできないでしょう。
1990年代にはおよそ150か所で目視観測が行われていましたが、ついに東京、大阪を残してすべて終えることとなりました。
繰り返しますが、気象観測というのは、継続して初めて意味をなすものです。継続が途絶えるということは、これまでの知見が継承されないということを意味します。
今後、東京と大阪のみ人による目視観測が継続とのことですが、せめて雲の識別や黄砂判定などの人的スキルが失われないよう、切に望むばかりです。
参考
令和6年2月9日気象庁発表「気象官署の目視観測通報の自動化について」
同日発表 札幌、仙台、新潟、名古屋、広島、高松、福岡、鹿児島、沖縄各気象台資料
2020年8月31日掲載「日本の最高気温の記録は46.3度である」
2020年11月10日掲載「気象庁に問いたい。動物季節観測の完全廃止は、気象業務法の精神に反するのではないだろうか」