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時速194キロ「危険運転」事故、一審有罪でも検察が控訴の訳 #専門家のまとめ

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

2021年に大分市内の一般道で発生した時速194キロの車による死亡事故を巡る刑事裁判で、検察側が一審の有罪判決を不服として控訴しました。危険運転致死罪を認定した上で当時19歳だった元少年に懲役8年を言い渡したもので、過失運転致死罪にとどまると主張していた弁護側も控訴しています。これまでの経緯や検察側が控訴に至った理由を含め、理解の参考となる記事をまとめました。

ココがポイント

「判決は(中略)『進行を制御することが困難な高速度』に該当すると認定」「一方で(中略)『妨害目的の運転』は成立を認めなかった」
出典:大分合同新聞 2024/12/12(木)

「飲酒や猛スピードなどが原因の死亡・重傷事故に対しては、これまで危険運転致死傷罪が適用されない事例も多くありました」
出典:くるまのニュース 2024/11/18(月)

「加速する感覚を楽しんでいた」「170キロから180キロを5回から10回くらいある」
出典:BS大分放送 2024/11/12(火)

「多数の骨折をしながらも、事故から約2時間半あまり、懸命に生きていた」「最後を迎えるまでの時間、どれほど苦しかったことでしょう」
出典:Yahoo!ニュース エキスパート 柳原三佳 2022/10/20(木)

エキスパートの補足・見解

検察側は(1)「制御困難な高速度」に加え、(2)右折車を妨害する目的で危険な速度で接近した「妨害運転」にもあたるとして、二重の意味で危険運転致死罪が成立すると主張し、懲役12年を求刑していました。しかし、地裁は(1)を認めたものの、(2)を否定して懲役8年にとどめました。検察側は(2)を否定した「事実誤認」とそれを前提とした「法令違反」、刑期が軽すぎる「量刑不当」の3本立てで控訴しています。

一審が有罪でも控訴に至ったのは、遺族の懸命な署名活動による後押しに加え、いままさに法務省が危険運転致死傷罪の成立要件を緩和する方向で議論しており、今後の同種事件に対する刑事処分の指針となるような重要な判例になる事案といえるからでしょう。

元少年が書類送検され、在宅起訴にとどまっていた点も控訴に傾きやすい要因でした。もし勾留されているのに検察側が控訴したら、控訴日から控訴審判決前日までの勾留日数分を全て刑期から差し引く決まりとなっているからです。その分だけ実際に刑務所で服役する期間が短くなります。この事件の場合、控訴審判決がどうであれ、その点の心配はないというわけです。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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