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地中海のハイブリッド低気圧『メディケーン』エジプトに上陸

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
エジプトに上陸したメディケーン・スコットの衛星画像 (出典元: NASA)

ハイブリッドな亜熱帯低気圧

25日東日本を襲った大雨は、洪水や土砂災害を引き起こし、千葉県と福島県で合わせて10名が亡くなるという痛ましい事態を招きました。

この一因となった擾乱が、熱帯低気圧と温帯低気圧の中間の特徴を持つ「亜熱帯低気圧」ではなかったかといわれています。

一方で地中海でも、同じようなハイブリッド的要素を持った低気圧が発生し、26日エジプト東部のシナイ半島に上陸しました。この低気圧は、地中海を表す「メディテラニアン(Mediterranean)」と「ハリケーン(Hurricane)」からの造語で、「メディケーン(Medicane)」と呼ばれています。

エジプトにメディケーン上陸

タイトルの衛星画像は、そのメディケーンをとらえたものです。非公式ながら「スコット」と名付けられています。地中海ストームセンターのデータによると、26日朝に中心気圧1006hPaでエジプト・シナイ半島に上陸し、イスラエルやガザ地区といった周辺地域にも大雨をもたらしたもようです。

メディケーンが中東に達するのは異例中の異例です。メディケーンは地中海に年に平均2個程度発生しますが、その大半は地中海の西部と中部で、今回のように東端に達するのは非常に珍しいのです。

被害

エルサレムポストによると、このメディケーンによりイスラエルのテルアビブ北部で停電が発生、またイスラエル中部では一時間で1,600回も雷が検知されたそうです。

まだ洪水の被害は把握していないのですが、上陸したエジプト・ポートサイードの年間降水量が80ミリであるのに対し、予想降水量が200ミリだったことから鑑みて、とんでもない洪水が発生していてもおかしくない状態だといえます。エジプトでは先週も急な大雨で洪水が発生し、11名が命を落としました。

メディケーンとは…?

「メディケーン」とはどのような嵐なのでしょうか。

ヌーマの衛星画像。目があり、ハリケーンのようにも見える。(出典元: EOSDIS Worldview)
ヌーマの衛星画像。目があり、ハリケーンのようにも見える。(出典元: EOSDIS Worldview)

まだそのメカニズムについて分からないことが多いようですが、中心に暖気核、上空に寒気を伴い、熱帯低気圧と温帯低気圧の双方の要素を持っていることが多いようです。その多くは、ハリケーンや台風よりも規模が小さく、弱く、また寿命も短いですが、中心に目を伴っているものもあって、見た目はちょっとした小型のハリケーンのように見えることもあります。

ときにハリケーン並みに強いものも発生することがあります。例えば2017年のメディケーン(名前ヌーマ)の場合はギリシャに上陸して、記録的大雨と30m/sの暴風をもたらし、20名超の死者を出しました。

強大化するメディケーン

地中海の海面温度は、ここ20年で最大1℃近く上昇したという報告があります。このまま温度上昇が続けば、メディケーンの勢力が強まっていく可能性が指摘されています。

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NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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