千葉県から東北太平洋側に記録的な雨をもたらした亜熱帯低気圧?
前線を伴なわない低気圧と台風21号
一般的に、低気圧は寒気と暖気が接している場所、つまり前線がある場所で発生します。
このため、前線を伴なわない台風と違って、発達している低気圧はほとんど前線を伴なっています。
しかし、令和元年(2019年)10月25日の東日本では、東シナ海で発生した前線を伴なわない低気圧が接近し、大荒れの天気となっています(図1)。
タイトル画像にあるように、東日本周辺には、2つの雲の塊があります。
台風21号の雲の塊は、丸く渦を巻いていますが、低気圧による雲の塊も丸く渦を巻いています。
多くの低気圧の雲は、前線を伴なっているために東西に延びた形をしていますので、ちょっと変わった低気圧です。
記録的短時間大雨情報
災害につながるような稀にしか観測しない雨量を観測・解析したとき、気象庁では「記録的短時間大雨情報」を発表しています。
この数年に一度しか発生しない「記録的短時間大雨情報」を発表するような猛烈な雨が、前線を伴なっていない低気圧によって降っています。
千葉県の千葉市付近と八街市付近では、10月25日の13時30分までの1時間に約100ミリの猛烈な雨がふりました。
そして、強い風も吹きましたが、日本の東海上を北上中の台風21号の直接的な影響ではありません。
台風21号の雲とは離れています(図2)。
ただ、台風21号の北側の東風が低気圧に向かって吹き込んでおり、風が集まって上昇流が強くなったという間接的な影響はあります(台風21号は10月25日21時に温帯低気圧に変わりました)。
千葉県では猛烈な雨により、千葉県南部から北上して市原市で東京湾に流れている養老川が氾濫するなど、河川の氾濫や土砂崩れが相次ぎ、大きな被害が発生しています。
台風15号で大きな被害を受けた千葉県では、台風19号による被害が重なり、そして、今回の低気圧での被害も重なるという、最悪の秋となっています。
この猛烈な雨は、次第に東北地方の太平洋側に広がり、福島県いわき市では夏井川が氾濫するなど、台風19号で大きな被害を受けた地域で、再び低気圧によって大きな被害が発生しています。
10月25日に雨が多かったのは、千葉県から宮城県にかけてで、200ミリを超えています(図3)。
亜熱帯低気圧
低気圧は、大別すると、熱帯で発生する熱帯低気圧(最大風速が17.2メートル以上になると台風)と、温帯で発生する温帯低気圧(単に低気圧と呼ぶことが多い)の2種類があります。
しかし、低気圧の中には、少数派ですが、熱帯低気圧と温帯低気圧の中間の性質を持つものがあります。
それが「亜熱帯低気圧」です。
一般的に、熱帯低気圧は、雲の塊の中心で渦を巻いていますが、「亜熱帯低気圧」は、雲の塊は渦の中心からみて北側または東側にかたよっています。
また、熱帯低気圧は27度以上の暖かい海面水温のところで発生する傾向がありますが、「亜熱帯低気圧」は23度以上の海面水温のところで発生する傾向があるという差もあります。
しかし、暴風を伴ない、大雨をもたらすことがあるという点では熱帯低気圧と一緒です。
個人的には、今回の千葉県から東北北部に大雨をもたらした低気圧は、発生段階の特徴から、「亜熱帯低気圧」ではないかと考えています。
ただ、気象庁では一般に馴染んでいないことなどの理由から、「亜熱帯低気圧」という用語は予報用語にはしていません。
低気圧は、熱帯低気圧と温帯低気圧(低気圧)の2つだけです。
気象庁では、平成19年(2007年)3月29日に、「気象庁予報用語の改正について」という記者発表を行っています。
この中で、「天気予報や解説では用いないことから削除した用語」の表に「亜熱帯低気圧」という用語があります。
「亜熱帯低気圧」を予報用語に
気象庁では、「亜熱帯低気圧」という用語を天気予報や解説では用いないものの、専門家向けの気象指示報や予報解説資料などで使用する用語にしています。
「亜熱帯低気圧」については、これまで、温帯低気圧か台風(熱帯低気圧)として扱われたため、発生数などの統計はないのですが、ごくまれな現象ではなさそうです。
「低気圧の接近で大雨」より、「亜熱帯低気圧の接近で大雨」のほうが、防災効果が高いのではないかと思います。
予報用語にして、その都度、解説を加えてゆけば、一般に馴染んでくるのではないでしょうか。
今のままでは、ますます馴染みない言葉になってしまいます。
タイトル画像、図2、図3の出典:ウェザーマップ提供。
図1の出典:気象庁ホームページ。