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タバコ規制違反は「罰金50万円超」〜五輪にわく韓国

石田雅彦科学ジャーナリスト
写真:筆者撮影:ソウル駅にて

 この2月9日から25日まで、韓国で平昌冬季オリンピック(以下、平昌冬季五輪)が開かれる。日本では2020年の東京オリパラを見すえた受動喫煙防止強化法案の攻防戦が国会で始まっているが、すでに韓国では先んじてほぼIOCの要請どおりのタバコ規制を実施済みだ。

 2012年末に大統領となった朴槿恵前大統領は、大統領選の公約に「4大疾患(がん、心臓疾患、脳血管疾患、難治性疾患)の治療費100%健康保険負担」を盛り込み、その財源軽減のためにタバコ対策強化を打ち出した。以下、かいつまんで平昌冬季五輪と韓国のタバコ規制について解説する。

五輪会場の飲食店は全面禁煙

 平昌冬季五輪について、韓国の行政当局である平昌オリンピック義務部は同国「国民健康増進法」第9条4項を背景に、オリンピック共同区域(マスコミエリア、選手村などを含む)全体を禁煙に指定している。

 オリンピック競技場や関連施設(38カ所)が屋内全面禁煙となり、喫煙専用室などは設置されない。また、江陵コースタルクラスター区域(スケートリンクやホッケー場など)や平昌マウンテンクラスター区域(オリンピックスタジアムやアルペン競技場など)なども敷地内禁煙の規制対象区域だ。

 義務部は会期中、観客や選手、スタッフなどへの受動喫煙防止対策を強化している。韓国では2015年1月1日から、全ての飲食店が全面禁煙に指定されているが、そのため五輪競技場内の全ての飲食店も必然的に全面禁煙だ。 

 競技場の外での喫煙行為に対する規則事項などはないが、禁煙区域には移動式喫煙ブースを設置する。喫煙者は屋外にあるこれらの喫煙ブースでしか吸えないことになる。競技を観戦しに平昌へ行く人は、これでひとまず安心だろう。

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平昌のオリンピック区域内には、このような喫煙ブースが一定間隔で設置される。54カ所に設置する24時間出入りできる半開放コンテナの移動式喫煙ブースで、中にはタバコの煙や臭いを消す機能がついた不燃性素材の灰皿が用意されている。写真とマーク提供:韓国・平昌オリンピック義務部

韓国では最高50万円以上の罰金

 韓国には、タバコ関連の行政が大きく3つある。まず日本の財務省にあたる企画財政部、厚労省にあたる保健福祉部、総務省と地方自治体にあたる行政自治部だ。それぞれ所管の法律が異なり、企画財政部がタバコ事業法と個別消費税法を、保健福祉部が国民健康増進法とタバコ規制の国際条約であるFCTC遵守を、行政自治部が地方税法においてタバコ規制を司る。

 朴前大統領はタバコ対策強化の事前周知を継続しつつ、2015年1月1日から全国の公共施設、飲食店(喫煙室設置可)、宿泊施設を全面的に禁煙し、タバコも値上げした。同時に、全国約1万カ所の医療機関で禁煙治療を無料で受けられるなどの禁煙サポートを充実させ、薬剤と心理カウンセリングを併用した施策もほどこしている。

 例えば、禁煙したい喫煙者に対しては、保健福祉部の下部組織である国民健康保険公団を通じて治療費の80%(生活保護者や健保支払料の下位20%までは無料)を補助し、全国の医師会や薬剤師会が治療やサポート支援をしている。また、軍隊では軍医が禁煙支援事業を行っているようだ。

 韓国の禁煙区域は、1995年から段階的に広げられてきた。

 まず、医療機関や交通施設、大型のビルや店舗を含む公共施設から始まり、2003年には若者が集まるゲームセンターや遊戯施設、大型飲食店(150平方メートル以上)、官公庁、保育施設が対象になった。2010年から地方自治体が独自に屋外喫煙区域の規制を始め、2012年からは飲食店の全面禁煙が段階的(2013年まで150平方メートル以上、2014年まで100平方メートル以上、2015年からは全店舗)に進められる。

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外国人観光客の多い明洞(ミョンドン)のカフェなど、規制値を満たした上で喫煙専用室を設置している店舗もあるが、政府行政が施設補助金を出さないため、ほとんどの飲食店で屋内全面禁煙が実施されている。また、タバコ煙の流出を防ぐため、喫煙専用室と禁煙エリアの間にも減煙部分を設けている。こうした設備を自費でできるのは一部のチェーン店しかない。こうした喫煙専用室の中には椅子もなく、もちろん飲食を中ですることはできない。写真:撮影筆者

 2016年には、マンションやアパートなどの共同住宅で1/2以上の世帯が賛成すれば共有部分の全面禁煙が可能になった。さらに2017年末までに、韓国で人気のビリヤード場やスクリーンゴルフ施設での屋内禁煙が実施されている。

 こうした禁煙区域でタバコを吸った場合、罰則規定があり、施設管理者は1回目は170万ウォン(約18万円)、2回目は330万ウォン(約34万円)、3回目には500万ウォン(約51万円)、個人に対しては10万ウォン(約1万円)の罰金が科せられる。これまでの徴収額は、2014年は約34億8000万ウォン(約3億5000万円)、2015年は約32億8000万ウォン(約3億3000万円)、2016年は31億2000万ウォン(約3億1500万円)となっている。

 罰金の徴収方法は、各自治体が取り締まり徴収する。これは税外収入となり各自治体の財源になるので、積極的に取り締まりが行われている。規制施設などへは予告なしに調査に入り、自治体ごとに非定期的に実施しているようだ。また、違反者や違反施設に対する市民からの通報も多く、タクシー内などでの喫煙が発見されると隣で走行中の車からすぐ通報されてしまう。違反施設は、ゲームセンターが最も多く、次いで工場などの各事業所、タクシー内や駅などの交通施設、医療施設といった順になっている。

国民の健康を守る韓国の司法

 受動喫煙に対しては、従来の禁煙規制により受動喫煙による健康被害が大きく軽減されたとその成果を評価し、韓国政府はタバコ規制をさらに進める方針をとっている。公共施設のさらなる禁煙区域の拡大、保育園、小中学校などでは屋外も禁煙にし、これまでほとんど放置されてきた路上喫煙に対しても規制を強めようとしているようだ。

 加熱式タバコ(加熱式電子たばこ)や電子タバコについては、紙巻きタバコと同じ分類にして規制している。また、日本に先んじて韓国では加熱式タバコに対する課税額が引き上げられた

 もちろん、こうした規制強化に対しては韓国でもゲーム業者や飲食店主などから反対意見が相次いだ。韓国には日本にはない憲法裁判所があるが、2013年にはネットカフェ業者らが訴えた違憲訴訟が、2016年には飲食店業者らによる違憲訴訟に対し、禁煙措置が合憲という裁定がなされている。韓国の司法は、国民の健康権のほうが喫煙の自由よりも優先されるという、きわめてまっとうで当然の判断をしているというわけだ。

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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