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日本に先がけ韓国で「加熱式タバコ」の増税案が可決

石田雅彦科学ジャーナリスト
韓国ソウルの喫煙所(撮影:筆者)

 筆者はこの7月に韓国のタバコ規制事情を取材してきたが、ソウルの喫煙者は電子タバコ(ニコチン入りリキッドを蒸気にして吸引するタイプ)に対してそろって否定的だった。その理由は、不味い、充電が面倒、高い、といったものだったが、日本と同様、加熱式タバコ(タバコ葉を電気で加熱する「Heat-not-burn」タイプ)は人気があるようだ。

韓国KT&Gも加熱式タバコを発売

 今年(2017年)6月にフィリップ・モリス・インターナショナルが韓国でアイコス(IQOS)を発売し、すぐに完売したことが話題になった。その後、ブリティッシュ・アメリカン・タバコがグロー(glo)を発売し、こちらもよく売れている。

 また、日本のJT(日本たばこ産業)にあたる韓国のKT&G(韓国タバコ人参会社、Korea Tabacco & Ginseng)もグローと同じようなリル(Lil)という加熱式タバコを発売すると発表した。リルの小売り価格は充電器を含むフルセットで9万5000ウォン(約9634円)で、アイコス(12万ウォン、約1万2170円)より安く、グロー(9万ウォン、約9127円)より高い。

 一方、先週11月9日、韓国議会は加熱式タバコの増税案を可決した。投票した239名の議員のうち反対が1名、棄権8名だったらしい。韓国の紙巻きタバコに対する課税額(一般消費税+タバコ消費税+地方教育税+付加価値税+廃棄物処理税)は3323ウォン(20本入り1箱4500ウォン、約337円)で日本(20本入り440円で277.47円)より高い。

 韓国の健康保険公団のアン・ソンヤン(Sun-Yung Ahn)担当弁護士にメールでたずねたところ、今回の増税は加熱式タバコの一般消費税に対するもので、これにより現在、20スティック入り1パックの消費税分126ウォン(約12.75円)が529ウォン(約53.64円)に上がることになる。これに上記の他の税が加わることになるが、アン弁護士によれば、まだ紙巻きタバコへの課税より低く抑えられているようだ。

どれだけ増税されるか

 そのため韓国議会では他の税も上げるよう議論が継続中で、最終的に加熱式タバコにかけられている税がどれだけ上がるかまだ予断を許さない。またアン弁護士は、アイコスやグロー、リルなどが生育途上の韓国の加熱式タバコ市場でしのぎを削っている現状をみれば、増税イコール小売価格の値上げにはすぐに直結しないだろう、と言っている。さらに値上げに便乗した買い占めに対し、政府は厳しい規制を敷いて対応する予定らしい。

 日本のJTは、この7月からプルーム・テック(Ploom Tech)をスイスで売り始めた。電子タバコのリキッドにニコチンを添加することが規制されているスイスは、同じような規制のある日本の市場とよく似ているからだ。

 世界的に加熱式タバコの需要が高まっているのは確かで、先行するアイコスをグロー、プルーム・テックが追い、韓国製のリルがさらにこの競争に加わったという様相だ。それに対し、各国政府のタバコ増税は加熱式タバコにも及んでくるだろう。日本ではまだ議論が始まっていないが、先んじて韓国で加熱式タバコの増税が決まった。

 加熱式タバコからも健康に害のある成分が出ている。韓国のKT&Gはリルの成分について明言を避けているようだが、加熱式タバコが一般的になるにつれ、健康への影響も話題の俎上へ載ってくるだろう。日本ではそれ以前に受動喫煙防止対策について、しっかりした議論が必要なのは言うまでもない。

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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