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Nスペ「 #ママたちが非常事態 2」日本に足りない子育てホルモンを、メディアが循環させる

境治コピーライター/メディアコンサルタント
(写真:アフロ)

Nスペ「ママたちが非常事態2」が示した子育てホルモン

1月31日に、NHKスペシャル「ママたちが非常事態」が放送された。人類にとって子育ては本来、社会で共同で取り組むもので、核家族の時代の母親は孤独な育児に追い込まれている。これを多方面から科学的に訴える番組内容で、とても面白く視聴した。感じたことを、すぐに個人ブログで書いたところ、たくさんの人に読まれて驚いた。

→赤ちゃんはみんなで育てるもの。わかってないのは、日本人だけかもしれない。〜NHKスペシャル「ママたちが非常事態!?」を見た

何より番組そのものが非常に多くの反響を呼んでいた。ほとんどは自分たちの悩みを解明されホッとした母親たちのものだったようだ。ひとりで悩みを抱え込んでいた人ほど、安心しただろう。

ただ、中には期待したからこその不満もあったようで、Twitterやブログを検索すると、納得いかなかった気持ちを書き込んでいる人もけっこういた。とくに父親の話がほとんど出てこなかったことに物足りなさを感じた意見が多かったと思う。

こうした反響に応えて、昨日3月27日に「ママたちが非常事態2」と題して続編が放送された。後半で父親の育児を中心に構成していたのは、制作陣もその点への不満を読み取ったからだろう。視聴者の意見をネット上ですくい取れるのはいい時代だと思う。

番組では、母親が赤ちゃんに非常に敏感になるのに比べると、父親は反応が鈍い様子が描かれる。だが赤ちゃんと接するうちに父親にもオキシトシンというホルモンが放出される。このオキシトシンは愛情ホルモンとも呼ばれ、脳の動きを子育てに反応しやすくするのだという。

私の子どもたちが赤ん坊だったのはもう二十年ほど前のことだが、思い返すと思い当たるものがある。最初は父親という実感がなかなか湧かなかったが、お風呂に入れたりたまにオムツを替えたりするうちに、徐々に親としての感覚が湧いてきた気がする。一方、夜泣きしてもまったく気づかず、朝起きると妻が恨みがましい表情で、なぜ寝ていられるのかとなじられた。それらがホルモンの作用だったと言われると、なんとなく気分でしかなかったことに科学的な根拠を示されたようで納得がいった。自分が徐々に父親になったのには、ちゃんと科学的裏付けがあるんだなあ。

この国には子育てホルモンが圧倒的に不足している

私は前々から、核家族では母親が孤立しがちだということと、それも含めて日本の社会が育児を二の次三の次に押しやってきたから少子化になっているのではと感じており、二年前に「赤ちゃんにきびしい国で、赤ちゃんが増えるはずがない」というブログを書いた。転載されたハフィントンポストでは「17万いいね!」がついて驚いた。その反響に押されて様々の保育を取材し、一度書籍にまとめて先のブログと同じタイトルで出版もした。

その流れで最近も「#保育園落ちたの私だ」を旗印に起こった運動を取材してYahoo!でも記事にした。

育児と日本社会についていろいろ調べたり考えたりしていくと、この国がいかに子育てをないがしろにしてきたか、あらためて思い知らされる。感覚的な言い方になってしまうが、オキシトシンの役割を知ってしまうと、この国に足りないのはそれだ、と思う。日本には、子育てホルモンが圧倒的に欠けているのだ。

赤ちゃんに接しないと、オキシトシンは出てこない。そして、この国の社会の主流である”おじさん”たちは、子どもたちにほとんど接しないでここまで来た。そんなものは母親たちがやるもんだ。そう思い込んで子育てに関わってこなかった”おじさん”たちが、政界でも経済界でも官僚社会でもマスコミ業界でも、どこでも支配的な立場を占めていた。人生の中でオキシトシンを一度も放出してこなかった、人間として問題がある人びとが社会のあらゆる場で中枢を占めてきたのだから、子育てを社会全体がないがしろにしてきたのも当然だ。

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その結果がこのグラフだ。総務省統計局によるこれまでの人口推移とこれからの人口推計を合わせてグラフにしたものだ。簡単に言うと、戦後経済成長をもたらした人口増と同じ分、今後は人口がぐんぐん減少してしまう。このままでは、夢の高度成長のあと、悪夢の経済衰退がやって来るのはまちがいない。本業はメディアの専門家である私が保育について書くのも、いま大学生と高校生の私の子どもたちに、悪夢の未来を迎えさせたくないからだ。

子育てホルモンを循環させる、メディアの使命

このところ、子育てについて社会を目覚めさせるような流れができつつあると思う。考えてみると、「ママたちが非常事態」も最初に1月末に放送され、そのあとで「保育園落ちた」運動が巻き起こり、3月に続編が放送されたのはそうした流れを後押ししている気がする。

子育てに目を向けなかったのは、政治だけではなく、メディアも同じだ。政治だけを責めるのは、"非常事態のママたち"も本意ではないだろう。実際、私の知っているママ記者たちは、これまで上司に保育園のことを取りあげたいと言っても受け流されていたそうだ。メディアは政治を責めるのもいいが、自分たちも同じように保育に目を向けてこなかったことを反省すべきではないか。

そしていまは、ソーシャルメディアがある。一連の動きがそうだったように、これまで社会に循環しなかったオキシトシンを、あなたのブログやTwitter、Facebookで広げることができる。脳の中に毛細血管が張り巡らされ必要な養分を運ぶように、ソーシャルメディアは社会の毛細血管の役割を果たし、子育てホルモンを日本中に行き渡らせることも可能なはずだ。そうすることで、シナプスが連鎖反応を起こし、社会全体が子育てを考えるようになる。

いま、”流れ”ができていると思う。この国の鈍感な脳をたたき起こし、オキシトシンを注入する時が来ている。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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