ザ・クロマニヨンズ甲本ヒロトインタビュー②「ロックンロールへの憧れがなくなるまでやり続ける」
【前編】から続く
「僕には何もできないような気がしていたけど、鮎川誠さんの『お前ならできるよ』という言葉で、『よし、バンドやろう!』って思った」
――ちょっと話が変わってしまいますが、2023年1月にシーナ&ロケッツの鮎川誠さんが亡くなり、11月に行われた「SHEENA's BIRTHDAY&46th Anniversary LIVE」にヒロトさんがゲスト出演し話題になりましが、あの日のライヴはどんな思いでステージに立ったのでしょうか。
甲本 僕は高校生の時に、鮎川さんに会って本人の言葉をもらったから、直接影響を受けています。当時僕はまだギターも持ってなかったし、バンドの経験もなかったけど、ロックンロールに携わる何かで、一生生きていきたいって漠然と思っていた時に、鮎川さんに会って「鮎川さん、僕がバンドをやったら鮎川さんと一緒に対バンとかできるようになるかな」って言ったら、鮎川さんが「お前ならできるよ」って。それで「よし、バンドやろう!」って思った。これってすごい影響じゃないですか。
「自分にとっての幸福感があれば、見ず知らずの人からの“いいね”なんて要らない」
――鮎川さんの言葉でヒロトさんの人生が変わったんですね。
甲本 変わっちゃった。僕には何もできないような気がしてたけど、できるんだと思った。その時鮎川さんの横にシーナさんもいて「あんたかわいい顔しとるもん」て言われて。ものすごく嬉しかった。鮎川さんに「ギターを買うとしたら、どうやって選ぶといいの。何も知らないんだけど」って聞いたら鮎川さんが「ロックンロールは見た目よ。9割見た目」って教えてくれた。そうか見た目かって。
――かっこいいです。それが結局ギタリスト、ミュージシャンの佇まいにつながるんですよね。
甲本 大事なんだなと思った。昔の話だけどその時のことは今でも鮮明に覚えていて、ずっと忘れない幸せの瞬間っていうのはいくつかあると思うけど、その中のひとつに鮎川さんとの思い出があって。そういう瞬間があれば、他のことはどうでもよくなるっていうか。他人の「いいね」なんか要らないじゃないすか。自分にとっての幸福感があれば、見ず知らずの人から「いいね」なんて要らないです。
「僕はライヴをやっている時が幸せ。自分が楽しむことに精一杯で、みんなのことを気にする余裕がない。僕は全部出す。余計なものまで全部出す。好きなもんだけ食らって欲しい」
――自分だけの幸せ、小さな幸せを積み重ねていけば、色々なことを乗り越えていけますよね。
甲本 僕はライヴやっている時、1ステージ1ステージがそんな感じです。もう至福の時間です。
――ヒロトさんが感じている幸せを、オーディエンスも感じているんでしょうね。
甲本 勝手に感じてください(笑)。僕はみんなのことを気にする余裕がないんです。自分が楽しむことに精一杯で。だからお客さんも自由。客席で寝てもいいんです。僕は全部出す。余計なものまで全部出す。あなたの嫌いなものが出るかもしれない。全部出すから、好きなもんだけ食らってほしいです。それでもう一回食べたいと思ったらまたライヴに来ればいいし。こんなこと、メンバーやスタッフと話したことないけど、もしかしたら「ヒロトがそこまで自由になるために、俺たち大変なんだぜ」って言われるかもしれないけど(笑)。
「体力は年齢とともに多分落ちていきます。だけど僕はスポーツマンではないし、ダンサーでもない。動きやパフォーマンスに基準がないんです」
――2月16日から全国ツアー『ザ・クロマニヨンズツアー HEY!WONDER 2024』が始まりますが、今年も43公演とかなりハードスケジュールですが、ご自身で年齢のことが気になったり、気にする瞬間はありますか?
甲本 自分では考えないし、日々の生活の中で自分の年齢を意識することなんかないでしょう。体力は年齢とともに多分落ちていきます。だけど僕はスポーツマンではないし、ダンサーでもない。動きやパフォーマンスに基準がないんです。だからその日できることをやっているだけで、そのできることが年齢に応じて減っていくだけですよね。
――なるほど。
甲本 そういうことは他人が見て感じることで、例えばその日はこのぐらいしか動けないとしたら、それが自分の精一杯だからそれでいいんです。そんなこと気にしないです。
「いつか曲が出てこなくなる時が来るかもしれないけど、そうなったらそれでおしまい」
――曲作りに関しては、時間がかかるようになったとかそういう部分での変化はありますか?
甲本 感じないし、元々出てくるものを拾うという感覚だから、曲作りをしたという記憶が僕の中にはない。もちろんそれまで書き溜めた曲を、バンドで演奏できる形に整えたりする作業はあります。鼻歌のときはすごくよかったのに、バンドでやるの難しいなとか、そこを直したりそういう作業はあります。でも曲に関しては、いつか曲が出てこなくなる時が来るかもしれないけど、そうなったらそれでおしまい。
「お客さんにこう見えて欲しい、歌がこう聴こえて欲しいというのもないから、その日出る声を出して、その日動ける動きをする」
――なぜ年齢の質問をしたかというと、先日落語家の三遊亭兼好師匠にインタビューをした際、年齢による変化が著しいという話になって。今まではワンフレーズ息継ぎなしでいけていたところが、だんだんどこかでブレス入れないといけなくなっている、と。
甲本 なるほど。
――そうすると、笑いのポイントが変わってくるんだけど、でも今まで予期してないところで笑いが起きたりとか、何かそういう発見もあるそうです。だからその体力に応じて噺を変えた方がいいのか、それとも体を鍛えて噺を全うするべきか、今がターニングポイントとおっしゃっていました。
甲本 それはすごく面白い。やっぱりそれは意識的に伝えたい、理想とするそのビジョンがあるからなんですよ。僕はないんだもん。自分がお客さんにこう見えて欲しいとか、歌がこう聴こえて欲しいというのもないから、その日出る声を出して、その日動ける動きをする。こうして話をしていると、世間をなめているようで、なんか申し訳ないって気持ちになる。
「本当にまだ物心がついていない気がする」
――決してなめてはないと思います。唯一無二の才能だし、超人だと思います。
甲本 いや、なんだろう、無責任なだけなんです。どうでもいいとずっと思ってる。
――それでもザ・クロマニヨンズの音楽を聴く人、ライヴを観たい人がどんどん増えています。
甲本 それはもうみんなのおかげだよ。申し訳ないよね。でも10代、中学生ぐらいからもうずっとどうでもいいということが、意識として言語としてあるんです。今でもそうなんです。
――逆にそう思っている方が、生きていく上では楽なのかもしれないです。
甲本 楽な部分もある。そのおかげで人に迷惑をかけることもあろだろうし、自分が困ることもある。でもそれも含めて、なんかどうでもいいんですよ。本当にまだ物心がついてない気がする。
「ロックンロールをやっている人のピークは、例えばギタリストのピークは、初めてギターを買った日だと思う。それを超えることはなかなかできない。その時これ以上はない輝きを放っていたと思うから」
――バンドはいくつまでできると思いますか?
甲本 いまローリング・ストーンズがひとつの指針になってると思いますが、彼らだけでは測れないですよね。ロックバンドが80歳ぐらいまでやるのが当たり前ってなった時にまた傾向が見えてくると思うけど、そういう意味では僕はまだ経験としてないし、自分のことじゃないので一般論として言います。ロックンロールをやっている人のピークは、例えばギタリストのピークは、初めてギターを買った日だと思う。それを超えることはなかなかできない。その時これ以上はない輝きを放っていたと思うから。
――初期衝動の輝きですね。
甲本 それは例えば、人生は色々なところを歩くし、走る。山を登るかもしれないし、坂を下るかもしれないけど、でも生まれて初めて歩いた一歩には敵わないんだよ。ロックンロールってそういう瑞々しさが最高なんだなと思うときがある。枯れてシブがるものではないと思います。
「ロックンロールは若気の至り」
――音楽を始めた頃の情熱、瑞々しさを追いかけるシーンは、年齢を重ねると何度もやってきます。
甲本 そういうのは追いかけるものじゃないような気がする。今も、なんかいきがってるんですよね。根拠のない自信があったり。恐れ知らずの若気の至りがそこに凝縮されるんですよ。これは一般論だし、自分のことはわからないけど、ロックンロールは若気の至りだと思います。自分のことではないけれど、ローリング・ストーンズの新譜を聴いた時、「うわーまだこんなことやってる」と思いました。もちろんすごいんだけど、いわゆる大御所的な大物感がないというか。テクニックなんかでいうと、ストーンズより上手いバンドはたくさんいます。でもきっとそういうことじゃないんですよね。ミック・ジャガーは80歳だけどくそガキみたいだし、いい意味でそのバカさ加減には恐れ入ります。
「元々バンドを長くやろうとは思ってなかったし、今日やりたいからやるだけ。ロックンロールに憧れてるうちはやる」
――年を重ねていって、ミック・ジャガーのようになりたいという憧れのようなものはありますか
甲本 それはない。もう誰かのようにとか、何かになるんじゃないんですよ。自分になるっていうのもそれもおかしいし。ただただやるだけです。憧れてるのはロックンロールに、です。憧れてるうちはやります。元々バンドを長くやろうとは思ってなかったし、今日やりたいからやるだけです。ロックンロールに憧れてるから。
「僕んちカッコいいロックンロールのレコードいっぱいあるけど、それを聴きたいって思わなくなったら、多分バンドもやってないと思う」
――憧れがずっと憧れのままであるというのが原動力になっているところが、やっぱり骨の髄までロックンローラーだと思います。
甲本 もういきがってさ。怖いもの知らずでやっている感じだけど、それより憧れがなくなったときは、もうやれないよ。どんなに体が元気でも。僕んちカッコいいロックンロールのレコードいっぱいあるけど、それを聴きたいって思わなくなったら多分バンドもやってないと思う。
――レコード屋さん巡りは変わらずやっていますか?。
甲本 もちろん。特にライヴで地方に行った時はレコード屋を見つけたら入る。渋谷にも行きますよ。やっぱり聴いたことがないブルースマンのレコードとか見つけたら、もう聴きたくて聴きたくて仕方なくなる。ああ、こいつに呼ばれたのかあと思って迷わず買ってしまいます。