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THE SPELLBOUND×凛として時雨 狂気と芸術の狭間をたゆたう二組が“大きな愛”を描いた夜

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
Photo/oyaming

猛々しいロックサウンドを鳴らした凛として時雨と、エレクトロの美しさと研ぎ澄まされたビートで陶酔感を生むTHE SPELLBOUND。それぞれのアプローチで全力で“BIG LOVE”というひとつのライヴを作り上げる

THE SPELLBOUNDの主催のライヴイベント『BIG LOVE Vol.4』が6月20日、凛として時雨を迎え、恵比寿LIQUIDROOMで行われた。二組が作りだした熱い響きが大きな愛となって会場を包み込み、とてつもなく大きな感動が生まれた夜――。

この企画は昨年5月にスタートし、初回はBOOM BOOM SATELLITES(以下BBS)の25周年を祝ってTHE SPELLBOUND がBOOM BOOM SATELLITESのライヴを再現したライヴだった。2回目はこの日もTHE SPELLBOUNDを支えていたドラマー・大井一彌が所属するyahyel、3回目はMAN WITH A MISSIONを迎え行われた。そしてこの日は凛として時雨とのツーマンライヴとして実施された。

TK
TK

まずは凛として時雨が登場。オープニングナンバーは「想像のSecurity」。TK(Vo.G)の大きなストロークから繰り出される吠えるようなリフの音色、345(Vo, B)とピエール中野(Dr)のリズム隊が作る太く獰猛なリズムが重なり、会場の空気を揺らし体に突き刺さってくる。続いても初期曲「DISCO FLIGHT」だ。イントロのベースだけで大歓声が沸く。エモーショナルなギター、印象的なフレーズを次々と繰り出すドラム、TKと345のダブルボーカルのエキサイティングな掛け合いに、オーディエンスは熱狂している。

345
345

ピエール中野
ピエール中野

この日の凛として時雨は、TKの「初めまして、凛として時雨です。大きな愛を持って盛り上げに来ました」という短い挨拶と、中盤のピエールの「客席の前の方でBBSのライヴをよく観ていた。だから今日は感無量。最高の一日にしたい」という短い言葉のみで、危険な疾走感を最初から最後まで緩めることがなかった。TKの凄まじいギターのカッティングと歌、ハイトーンのシャウトと激しいライティングとが交差する「laser beamer」、ベースがうなりを上げるミドルテンポ&ダンサブルなナンバーの「a 7days wonder」。ピエールのドラム疾走感と激しい展開が生むスリリングさ、TKと345のハモり、掛け合いが印象的な「abnormalize」。音が生きている、生き生きとしているから、聴き手は感情を激しく揺さぶられる。

“濃い”重低音とハイトーンボーカルの激しいコントラストに包まれ続け、感情が解放されるような感覚に

“濃い”重低音とハイトーンボーカルの激しいコントラストに包まれ続け、感情が解放されるような感覚になるのが、凛として時雨のライヴだ。そして「Telecastic fake show」が投下されると大歓声が上がる。バンドのサディスティックな部分が剥き出しになり、フロアは圧巻の高揚感で満たされる。

そして「感覚UFO」とたたみかける。TKが言葉をマシンガンのように放つ熱狂のボーカルが、エモーショナルなリズムを生み、それが鋭利で強靱なバンドアンサンブルと重なってクライマックスへと突き進み、大団円。

ツインドラム+中野が重厚なリズムを生み、小林の熱量あるボーカルが“希望”を連れてくるTHE SPELLBOUND

中野雅之
中野雅之

凛として時雨の音像の余韻が残る客席。30分程のクールダウンタイム=転換の後、THE SPELLBOUNDが登場。中野雅之(Programming、B)と小林祐介(Vo、G)、サポートドラマー福田洋子と大井一彌(yahyel、DATS)の4人にピンスポットが当たり、一気にTHE SPELLLBOUNDの世界へと引き込まれる。

小林祐介
小林祐介

まずは「スカイスクレイパー」から。ミドルチューンのロックナンバーは福田と大井が刻む重厚なリズムと共に、小林の熱量あるボーカルがダイレクトに飛んでくる。打ち込みのブレイクビーツを大井が驚異的なテクを駆使し、生で構築するイントロの「名前を呼んで」は、ツインドラムの激しい掛け合いから生まれるスリリングなビートと、上昇気流に乗って登ってくるようなメロディがハイテンションとなって、フロアを沸かせる。中野のベースとツインドラムが作る強烈なリズムと情緒的なメロディの「Nowhere」は、痛快な爽快感が“希望”を運んでくれるような感覚になる。

新曲を2曲披露。「THE SPELLBOUNDは成長中のバンド」

大井一彌
大井一彌

福田洋子
福田洋子

そしてサプライズとして、まだタイトル未定の新曲と、7月10日にリリースされる配信シングル「Unknown」を披露。公演後のSNSで中野が「THE SPELLBOUNDは成長中のバンドです」と呟いているように、最新の音とメッセージ、進化しているバンドの姿をライヴでいち早くオーディエンスに届ける。新曲は中野のベースの“深い音”と疾走感、「Unknown」も歌っているような中野のベースが楽曲の太い骨格になっている。この最新曲達の響きが、これからライヴでどう変化していくのが楽しみだ。

「A DANCER ON THE PAINTED DESERT」も、聴く度に感動の濃度が濃くなっていくラブソングだ。熱を帯びていく4人の演奏と、小林がラップ調の歌の歌詞を、丁寧にかつ圧倒的なスピードで歌うと、感覚が研ぎ澄まされていく。煌めくようなシンセと小林のメロディアスなギター、ツインドラムが生むグルーヴ、伸びやかな歌声、そして客席の大きな手拍子が炸裂した「はじまり」は、刺激が脳と体を直撃してくる。

オルタナティブロックの手触りの「FLOWER」は、愛溢れる美しい歌詞を歌う小林の歌の“爆発力”に、フロアはヒートアップする。そしてBBSの「FOGBOUND」のカバーへ。ドラムが細かくリズムを刻み、駆け上がるようなシンセ、激しいツインドラム、眩い光の演出、刺激的なトリップ感の中で、中野が跳ねながらフロアを煽る。

「凛として時雨と同じにステージ立てて嬉しい。青春一杯のセトリで胸が熱くなりました。みなさんのおかげで素晴らしい一日になりました」と、中野が感慨深そうに思いを語っていた。音楽がつなぐ縁、共に大きな愛を抱えて音を響かせ、ステージ、フロア、そしてスタッフ、そこにいる全ての人が胸を熱くした150分だった。

ラストはBBSのビッグビートチューン「DRESS LIKE AN ANGEL」。激しいビートと小林の鋭利な、かつ色気を感じるボーカルでフロアは再び熱狂。猛々しいロックサウンドを鳴らした凛として時雨とは違う、エレクトロの美しさと研ぎ澄まされたビートで陶酔感を生むTHE SPELLBOUND。それぞれのアプローチで、全力で“BIG LOVE”というひとつのライヴを作り上げていた二組は、どこまでも美しかった。狂気と芸術の狭間をたゆたう二組――余韻が残る会場でそんな言葉がふと浮かんできた。

THE SPELLBOUNDは7月10日にニューシングル「Unknown」を配信リリースし、8月28日には2ndアルバム『Voyager』をリリースする。夏は『FUJI ROCK FESTIVAL’24』に出演し、9月23日の福岡を皮切りに『BIG LOVE TOUR Vol.2 2024- Voyager -』がスタートする。バンドがスタートし3年。“育ち盛り”のバンドの音とライヴが今年も楽しみだ。

THE SPELLBOUNDオフィシャルサイト

凛として時雨オフィシャルサイト

『BIG LOVE TOUR Vol.2 2024- Voyager -』
9/23(月祝)福岡BEAT STATION
9/28(土) 札幌PENNY LANE24
10/6(日) 仙台Rensa
10/27(日)名古屋CLUB QUATTRO
10/31(木)梅田CLUB QUATTRO
11/3(日) 六本木EX THEATER
https://eplus.jp/the-spellbound/

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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