ザ・クロマニヨンズ甲本ヒロトインタビュー①「僕が今の世の中に生きる人、そこから出た音楽、それでいい」
17thアルバム『HEY!WONDER』発売
ザ・クロマニヨンズの17枚目のアルバム『HEY!WONDER』が2月7日にリリースされた。昨年12月13日に27枚目のシングルとして発売された「あいのロックンロール」をはじめ全12曲が収録されている。甲本ヒロトがバンド活動を始めて約40年。ずっとロックンロールをかき鳴らし続けているキャリアがあるバンドが、こんなにも瑞々しいロックンロールを聴かせてくれることは奇跡だ。何にも、誰にも囚われず、自分達が楽しいと思うことをとことん楽しむバンドがザ・クロマニヨンズだ。楽しさを追求したその先にあるのが音源でありライヴだ。12月のある日、甲本ヒロトに新作について、そして年齢と創作活動の関係、バンドの将来についてなど、様々のことをたっぷりと聞かせてもらった。
「久々にフルでお客さんを入れてライヴをやった時は、お客さんの中に“待ってました”という感じがあった気がするし、僕らの中にもありました」
――2023年はコロナ禍から少し抜け出すことができて、ライヴもマスクを着けないで観る人が多く“通常”に近づいたと思いますが、ヒロトさんの中で気持ち的な変化はありましたか?。
甲本 まだマスクをしている人もいますけど、ライヴは通常に近くなってきています。コロナ禍で、2020年の「PUNCH」ツアーが途中で中止になったり、ライヴの生配信をやってみたり、2022年はツアーがなかったりしたので、色々なことがずれ込んだんですよね。だからコロナ禍で足りないと思っていた部分を取り返そうと、2023年はアルバムツアーの他に、普段やらないツアーをやったりしました。フルでお客さんを入れてやるのは数年ぶりでブランクもあったので、顔は見えないけどお客さんの中にも待ってました感みたいなものはあった気がするし、僕らの中にもありました。
――仕方がないですけどみんな我慢を強いられて、それをライヴで発散したかったという気持ちもあったと思います。
甲本 コロナ禍での我慢の仕方っていうのは、みんな自分だけじゃないということはわかってるから。世界中の人がみんな我慢してるのがわかってるから、ほとんどの人はちゃんと我慢して文句も言わないし、そしてちゃんと元に戻ってくる。それができる人間ってみんな賢いなと思います。
「僕らはいつも何も考えてなくて、だからどこかに向かってチャレンジした記憶も、意識したことも何もないです」
――アルバム、毎作楽しみにしていますが『HEY! WONDER』もとことん楽しくて、そして心に刺さってきて、グッときました。何か温度が違うというか…でもきっとヒロトさんがいつも言うように「楽しくロックをやっているだけ。それでできたもの」なんですよね。
甲本 僕らはいつも何も考えてなくて、だからどこかに向かってチャレンジもした記憶も、意識したことも何もないです。
――「あいのロックンロール」が先行シングルとしてリリースされました。この曲はできた時からシングルにしようと?
甲本 そういうのはない。僕らはシングル用の曲とかないです。全部同じです。
「やっていること全てが自分にとってはインプット」
――そうおっしゃるのは想像していました。いつも新作発売タイミングでのヒロトさんとのこのインタビューを楽しみにしていますが、毎回レコードや落語等の色々な話で、ただただ楽しい時間を過ごして帰る、という感じなので新作についても少し、と思いながら質問させていただきました。最近、レコード以外に何かのめり込んでいるものはありますか?。
甲本 やっぱり音楽ですけど、でも今年は仲間と何回か昆虫採集に行ったりしました。採集というよりただ見に行ったり。
――レコードはインプット、昆虫採集、観察は息抜きという感じですか?
甲本 やっていること全てが自分にとってはインプットですよね。今こうやって話してるこの瞬間も、何かをいっぱい吸収しているだろうし。でもそれは自分じゃわからないですよね。いつ何を吸収して、それをどうやって処理して作品になって出てくるかということは、そこはもうブラックボックスだと思います。今回のアルバムは、こんなテーマでこれが伝えたいから、こんな曲でっていうことを考えながらやっていれば、こういう質問でも色々な答えが出てきたと思う。でもコンセプトなんかないし、本当にただ日々浮かんでくる曲を書き溜めておいて、12曲ごちゃっと集めてアルバムにするから。だからいつも通りですよっていうのはそいうことなんです。さっき言い忘れたことがひとつありました。
コロナ禍でのツアー中のホテルで楽しんだこと
――はい。
甲本 コロナ禍で細々とツアーやってる時に、みんなで外食する機会が減ったんですよ。ライヴが終わったら、ホテルの部屋でそれぞれ食事をすることが増えて、自ずと部屋で過ごす方法を充実させる方向に何となく向かっていって。時間がいっぱいあって暇なんですよね。家にいたらレコードを聴いたり色々できるけど、ホテルの部屋には自分を楽しませるおもちゃが何もないので。それでPCを持ち込んでNetflixとか動画配信サーズに加入して、映画をいっぱい観ました。今までパソコンで映画を見るという感覚がなかったので、楽しかった。ヒッチコックの作品がこんなに配信されてるんだって驚いたし、ドキュメントも面白いのがあった。
「僕が、今の世の中に生きる人の一人であればいい。そんな人が歌を作ったらこんなのができました、それでいい」
――世界情勢も含めてニュースからは日々、いいワード、悪いワードが飛び交って耳に入ってくると思いますが、それに影響されて、自分の中から出てくるメロディや言葉が変わってきたなって感じたことはありますか?
甲本 それはないです。もうどんなニュース見ようが何が起こっていようが、それを曲にしようとかまず思わないし、自分の活動に反映させるつもりは全くないし、だけど出てくるものなんです。そこはもう任せるしかない。
――逆にそこを押さえつけたりはしない。
甲本 しないです。自由にやる。今の世の中に生きる人であればいいんですよ、僕が。みんなそうじゃないですか。僕もその一人です。そんな人が歌を作ったら、こんなのができました、それでいいんです。楽しいことがやりたいだけなんです。
――今回のアルバムの中のマーシー(真島昌利)さんが書いた「くだらねえ」は、最初から最後まで<くだらねえ>という言葉だけしか出てきませんが、そのひと言ひと言にマーシーさんの思いや、歌うヒロトさんの思い、メッセージを勝手に感じたりしました。
甲本 マーシーが「こんな曲できたんだ」って弾き始めた時に、これは終わりまで<くだらねえ>っていう言葉しか出てこないんだろうなって感じてたよ。よくあの歌に込めたメッセージは?とか歌詞の意味は?って聞かれるけど、でもそれは僕らが発信したものではなくて、最初から聴いてくれる人の中にあったもので、気づくきっかけとして僕らの歌が採用されただけなんです。何かを伝えるつもりで作ったわけではないんです。僕はそんなつもりで歌ったんじゃないけど、聴いた人の中でそう受け取ってくれたのであれば、それが大正解です。がっかりさせるかもしれないけど、そうなんです。
「結末を見据えて歌を作るのはではなく、ひと言目がふた言目を連れてきて、それから三言目を連れてきて、そうやってできていく」
――ヒロトさんの作品「ハイウェイ61」という曲についても、ヒロトさんが影響を受けたブルース誕生の地をタイトルにしているので、そこから色々想像したり、メッセージを探ったりしながら聴きました。
甲本 ただつらつらと出てくる歌詞がそれだっただけのことで、ひとつの言葉が次の言葉を呼んでくるんですよね。そうすると何か整合性の取れたものに聴こえてくる。それが面白いんです。最初から結末を見据えて歌を作るのはではなく、ひと言目がふた言目を連れてきて、それから三言目を連れてきて、そうやってできていく。僕も今まで聴いたロックンロールから受け取ってきたメッセージも、全部そのアーティストがそれを発信してるとは思ってないんです。だから本人に会いたくない(笑)。本人に会って、こういう話をした時「知らねえよ」って言われても当たり前だと思う。
「(音楽を聴いて)何かが伝わったと思えば、それは全て正解で、世に出した瞬間、もう主導権はお客さんにあります」
――確かにそうですよね。僕も含めてリスナーは言いたくなってしまいます。
甲本 僕もリスナーだから本人には絶対会いたくない。「お前のために歌ったことは一度もねえ」って言われると思うんだ。でもそれでいいんです。
――だから歌詞について本人に聞くのは野暮なんですよね。
甲本 もっといえば「この曲で何を伝えたいんですか」って聞かれるということは、何も伝わってないってことなんですよ。だから何かが伝わったと思えば、それは全て正解で、世に出した瞬間、もう主導権はお客さんにあります。その曲はみんなのものです。今このインタビュー読んでくれているあなたの曲なんです。だから自分が思った通りに解釈して、それが宝物になるなら宝物にして欲しいし、いらないと思えば捨てちゃってもいいんです。
「どうやって聴いてくれてもいい。自分達の音楽がとにかく世の中の楽しいことのひとつとして機能すればいい」
――そうですよね。それが音楽のいいところでもありますよね。
甲本 どうやって聴いてくれてもいいし、替え歌にしても、おもちゃにしてもいいし、とにかく世の中の楽しいことのひとつとして機能すればいいんです。
【後編】に続く