ノート(33) 元特捜部長らの逮捕状取得に向け、作成された供述調書とは
~解脱編(5)
勾留8日目
【業界独自の略語】
前日からシステム手帳を示されるようになり、これに沿って詳しく語り始めた。
ただ、胸ポケットに入るコンパクトなサイズのものだったので、毎日の行動や関係者の言動などを記載する際は、法曹関係者、特に検察でよく使われる次のような略語を多用していた。
検 事:P("Prosecutor"から)
副検事:SP("Sub-Prosecutor"から)
部 長:D("Director"から)
副部長:SD("Sub-Director"から)
高検トップ:長("検事長"から)
高検No.2 :高検次席("高検の次席検事"から)
地検トップ:正("検事正"から)
地検No.2 :次席("次席検事"から)
裁判官:J("Judge"から)
弁護士:B(由来は後記)
警察官:K(由来は後記)
検察事務官:G(由来は後記)
被告人:A("Accused"から)
被害者:V("Victim"から)
証 人:W("Witness"から)
証人以外の証拠:E("Evidence"から)
そのうち特に供述調書:S("Statement"から)
尋問や質問:Q("Question"から)
弁護士の"B"は英国の法廷弁護士である"Barrister"に由来すると言われている。しかし、わが国の弁護士は法廷外でも様々な訴訟活動を行っていることから、むしろ"Bengoshi"というローマ字表記の頭文字を取ったと見る方がしっくりとくる。
また、警察官の"K"はドイツ語で「刑事警察」を意味する"Kriminalpolizei"に由来すると言われている。これも、英語の"Police"を略すと"P"となり、検事の"P"とカブって混乱するので、"Keisatsukan"というローマ字表記の頭文字を取ったと見る方が分かりやすい。
これらに対し、英語やドイツ語には検察事務官ないし事務官を意味する"G"を頭文字とした単語などなく、ローマ字表記でも"Jimukan"や"Zimukan"となるはずだ。事務官の「事」の音が"G"に類似している上、検事の"P"に合わせたものだ、と言われている。
このほか、これらの略語を適宜組み合わせた次のような略語も数多く使っていた。
検察官が作成した供述調書:PS
警察官が作成した供述調書:KS
裁判所で行われた証人尋問や被告人質問の調書:JS
被告人質問 :AQ
検察側の証人:PW
検察側の証拠:PE
弁護側の証人:BW
弁護側の証拠:BE
検察庁:P庁
裁判所:J庁(J所ではない)
普段の会話でも
これらの略語は、庁舎内はもちろん、庁舎外でも、検察関係者の間で使っていた。
居酒屋などで仕事の話をすることは基本的にないが、一般のサラリーマンと同様、組織内部の不祥事や人事にまつわるゴシップを酒の肴にすることは多々ある。
しかし、「○○検事は××検事と不倫をしていたが、奥さんに気づかれ、離婚問題に発展しているらしい。しかも、奥さんが××検事を相手に裁判を起こし、かなりもめているとのことだ。先日の人事で2人が干されたのは、それが原因のようだ」といった言い方をすると、店員や他の客の耳に入った時、検察の人間だと気づかれてしまう。
そのため、「○○Pは××Pと…」などと略語を使い、周囲に素性がバレないような配慮をしているわけだ。
ただ、手帳では、その記載が何を意味しているのか、また、具体的にどのようなやり取りがあったのか、僕にしかその詳細が分からないような書き方をしていた。
この日の中村孝検事の取調べは、夕食後、午後5時すぎころから午後10時前ころまでの間、約5時間ほど行われたが、手帳の記載を一つ一つ拾い上げ、その意味するところを時系列に沿って詳しく説明していく、といった作業が進められた。
新たな展開に向けて
他方、検察が独自に強制捜査を進める過程で、上に突き上げるような新たな展開に進む際には、最初に逮捕した被疑者の勾留期限日にタイミングを合わせる場合が多い。
この記事は有料です。
元特捜部主任検事の被疑者ノートのバックナンバーをお申し込みください。
元特捜部主任検事の被疑者ノートのバックナンバー 2016年11月
税込1,100円(記事3本)
2016年11月号の有料記事一覧
※すでに購入済みの方はログインしてください。