[高校野球]2022年の私的回顧(6) 本家・アメリカにもない継続試合。実現はいつ?
2021年の第103回全国高校野球選手権大会は、雨による順延が史上最多の6度もあったが、今年の夏は順当に日程が消化された。
雨に泣かされた21年で思い出されるのは、8月17日第2試合、大阪桐蔭と東海大菅生(西東京)の一戦だ。桐蔭が先行した試合は、雨が激しくなってきた7回、菅生が2点を返すが、その裏の桐蔭は2点を奪って突き放す。さらに8回表、菅生が1死一、二塁としたところで、グラウンドが田んぼのような状態になり、7対3のコールドゲームとなった。選手権での降雨コールドは、1998年以来のことだった。
「7回表、追いつけなかった時点で"これはもうダメだな"と思いました。そのくらいの雨でしたから」
とは、菅生の若林弘泰監督だ。当時の高校野球特別規則では、7回終了時点で正式試合が成立する。この試合では7回表を終わって桐蔭がリードしていたから、裏の攻撃がなくても試合は成立する。だが、その時点でコールドはなく試合は続行。できるところまでは試合を続けさせたい気持ちもわかるが、なにしろグラウンドは、ゴロの打球が止まるほどのぬかるみだ。さらに、雨で滑る手からバットがすっぽ抜けてはとても続行は不可能で、8回表、菅生の追撃機で無情のコールドゲームとなった。
強豪同士の対戦だっただけに、この結末は世間を騒がせる。曰く「もっといい状態でやらせてやりたい」「早めにノーゲームを決断すべきだった」「サスペンデッドにすればいいじゃないか」……。日本高野連が、2022年から「継続試合」を導入したのは、おそらくそういう声を反映したものだ。これは、降雨などの理由で試合が続行できなくなった場合、翌日以降に中断された場面から再開する、というもの。日本高野連のHP・高校野球特別規則として詳しく説明してあるが、これにより、甲子園ではノーゲームやコールドゲームはなくなったわけだ。
いわば当事者の1人ともいえる大阪桐蔭・西谷浩一監督は、
「あの菅生さんとの試合は、野球にならない状態でしたから、勝っても負けても最後まできちんと試合をしたいな、というのがホンネでした。ただ継続試合となると、やったことがないので正直、再試合とどちらがいいのかわかりません」
残り1イニングでも継続試合となる
これは私見だが、20年度から実施している投球数制限(投手1人あたり1週間500球以内)も、継続試合の導入を後押ししたのではないか。たとえば高校野球では、7回の表裏を終わらなければノーゲームだが、このときの投球数も制限内にカウントされる。となると、再試合を勝ち上がったチームの投手は、さらに球数が加算され、次対戦相手との不公平が生じかねない。これが継続試合ならば、その不公平は極力避けられるし、投手の負担も減るだろう。
これまでの運用なら、コールドゲーム=試合成立だから、先の桐蔭と菅生の一戦は桐蔭の勝利だが、継続試合なら8回表1死一、二塁から、そのままの打撃順、出場選手で菅生の攻撃から再開することになる。最後まで決着をつけるのは、勝敗はともかく選手も納得できるだろう。
この継続試合、いまのところルールとして採用しているのは春夏の甲子園のみで、国体や神宮大会は大会規定による。ただほかの大会も、大会前に参加校に周知すれば採用でき、たとえばこの夏は、49の各地方大会のうち、35大会で採用されたという。
そのうち熊本大会の準々決勝では、九州学院が5対3と専大玉名をリードし、9回裏まで進みながら雨で中断。翌々日に再開すると、専大玉名は三者凡退でその回を終えたが、玉名ナインは「継続試合がなければ降雨コールド負けだった。どんな形であれ、最後までできてよかった」と話している。ただ……。
甲子園ではまだ実施例がないが、かりにこのケースのように、残り1イニングで継続試合となったら、両軍の応援団は悩ましいところだ。1泊したものの、最後の1イニングが10分前後で終わることだってあるのだ。あるいは、その場合の入場券の扱いはどうなる? 残りイニングだけとはいえ、かりに2日連戦となれば、選手の負担もかさむ。まあそれは、主催者が考えてくれること。外野の勝手な声ながら、来年の春夏の甲子園で、一度は体験してみたいものです。