冨田問題、5つの疑問
虚言なのか、真実なのか。仁川アジア大会水泳会場でカメラを盗んだとして略式起訴された日本代表競泳男子の冨田尚也選手の弁明会見を受け、日本オリンピック委員会(JOC)も日本水泳連盟も対応に苦慮している。同選手の言動、行動には5つの疑問がある。
まずは事実関係を整理する。冨田選手は9月25日にプールサイドで韓国メディアのカメラを持ち去った疑いで、26日、警察から事情聴衆を受けた。JOCスタッフが監視カメラの映像を確認し、同選手を特定した。手にしたカメラをバッグに入れる場面も映っているとされている。
事情聴取では、冨田選手のほか、JOCスタッフ、通訳が同席、警察の質問に盗みを認め、同選手は調書にサインした。27日、JOCは規律違反があったとして、同選手を日本選手団から追放処分とした。29日、仁川地検が、同選手を窃盗罪で罰金100万ウォン(約10万円)の略式起訴処分とした。
冨田選手は被害者に直接謝罪し、両者の間で示談が成立した。10月1日、同選手が帰国し、7日、所属のデサントから解雇された。30日、水連が16年3月31日まで選手登録停止とする同選手への処分を決定。同選手から処分への不服申し立てはなかった。
こういった事実を受け、11月6日の弁明会見となった。冨田選手は「僕はカメラを盗んでいません」と言った。だが説明は一貫性がなく、合理的な根拠に欠ける印象を受けた。
(1)なぜ見知らぬ第三者の男にプールサイドで何かをかばんに入れられたのか。こんなことがあり得るのか。(2)なぜカメラを確認せずに選手村まで持っていき、部屋に保持していたのか。会見では「ゴミと勘違い」したとし、質問を重ねられると、贈り物と勘違いしたと説明が変わっている。
だいたい冨田選手はJOCスタッフらに対し、警察でスマートフォンの画像を見る前に盗みを認めていた。なのに、(3)なぜ警察で盗んだ瞬間の監視カメラの映像をスマホで見せられた際、映像が悪く、「盗む瞬間は映っていなかった」とし、無実を主張しているのか。
関係者によると、JOCスタッフらが見た監視カメラの映像には冨田選手の盗むところが映っているという。会見で、盗んだ瞬間の映像があるのなら、それは「ねつ造」ではないかと言うのはどうなのだろう。韓国警察がそんなことをする理由はなかろう。
(4)なぜ水連の処分に対し、不服申し立てをしなかったのか。無実であると主張するのであれば、処分を不当とし、手続きに則って、不服申し立てをすればよかった。水連と戦うことで指導者に迷惑をかけたくない、というのは、よく意味がわからない。
(5)なぜ正式な裁判を申し立てることを迷っているのか。冨田選手は事情聴取で罪を認め、調書にサインしている。これを覆すためには、略式裁判の判決が届いたあと、7日以内に正式裁判を請求するしかあるまい。無実を証明するためには、何といっても監視カメラの映像を確認することが不可欠である。
たしかに高額な裁判の着手金がネックとなりそうだが、無実を勝ちとりたいのなら、それは二の次だろう。冨田選手側の狙いはどこにあるのか。ただ同選手の主張を世間に訴えたいだけなのか、あるいは無実を立証して名誉回復を図りたいのか。
もはや法的手続きに則って、粛々と対応していくしかなかろう。事実や手続きのみにこだわるのである。
こういった問題が起こるのも、時代なのだろう。JOCや競技団体側にとっては、どうやって選手の尊厳を守るのか、あるいはトラブルのリスク管理を強化していくのか。財政的に余裕のある競技団体は顧問弁護士がいようが、おおくの団体はまだ、ちゃんとしたカタチになっていない。
この際、スポーツ界も、JOCなどの統括団体に、顧問の法律事務所だけでなく、法規の専門家や交渉、対応の専門家のチームを編成して、不測の事態に対応できる仕組みが必要なのではないか。