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【都知事選】小池知事は27の公約をいくつ実行したか〈下〉総集編

楊井人文弁護士
小池都政の公約27項目実行状況の評定結果(InFactまとめ)

 再選を目指す小池百合子知事は4年間の任期中に公約をどれだけ実行したかー。東京都知事選挙を前に、調査報道とファクトチェックのメディア、インファクト(InFact)の検証チームがこのほど、小池氏が「セーフ・シティ」「ダイバー・シティ」「スマート・シティ」とうたって掲げた27個の公約をどれだけ実行してきたかを検証した。

 弁護士、ジャーナリスト、地方行政専門家ら5名のチームで、公約を一つずつ点検。6段階で評定したところ、 「優」または「良」(目標を達成したか、課題解決に寄与)が12個(44%)、「可」(取組みはしたが不十分)が10個(37%)「不可」(取組みをしていないか、以前より悪化)は3個(11%)となった。

小池知事は27の公約をいくつ実行したか〈上〉

小池知事は27の公約をいくつ実行したか〈中〉

公約ごとの検証記事一覧

27個の公約を点検してみてわかったこと

 東京は「日本の縮図」と言われ、課題が山積している。財政状況は非常に良く、予算規模はスウェーデン並みと言われ、膨大な都職員もいる。知事は、この東京都のもつ資源をどれだけ有効に課題解決、都民の福祉向上のために使ってきたか、が問われる。

 27個の公約がどれだけ実行されてきたのか。短期間での難しい検証作業だったが、次のようなことがわかった。

 第一に、公約の多くは抽象度が高く、中には4年間にわたって内容不明のままだったものもある、ということだ。

 例えば「多摩格差ゼロへ」という公約。何をもって「多摩格差」というのか、これだけではわからない。そこで、抽象度が高い公約については、小池氏が就任後の都議会の所信表明で、具体的に定義づけを行い、問題の所在を明示しているかどうか、を調べた。あるいは4年間の政策目標・計画をとりまとめた「「都民ファーストでつくる『新しい東京』~2020年に向けた実行プラン~」を確認した。「多摩格差」に関しては、明示されることはなかった。多摩地域と23区の格差はいくつかの指標により確認できるが、それが改善することもなかった。そのため「不可」と評定した。他に「老朽廃棄物処理場の集約」とか「島嶼での命と安全を守る」も不明瞭だった。

 どの候補者にも共通していることであるが、かなり抽象度が高い公約は、それを任期中に具体的な政策に落とし込めないまま終わることもある。

 第二に、成果を評価するための指標や報告書が公表されていないものがある、ということだ。

 例えば、「商店街の維持発展」という公約。色々な支援事業に取り組んでいることはわかったのだが、3年おきに発表されていた商店街の実態調査報告書が未公表で、いずれ公表されればそれを元に評価することもできるが、現時点では評価できないというケース。これは評定「保留」となった。

 第三に、なじみのないカタカナの公約は、政策化が難航する場合がある、ということだ。

 例えば、「ソーシャルファームの推進」。これはそもそも馴染みの薄い概念で、定義が難航し、任期4年目でソーシャルファームに関する条例が制定されたものの、都議会で反対論も出て紛糾したようだ。新規の概念や政策手法を否定するものではないが、本当に課題解決のために必要なのかどうか、的確な政策なのかどうか見極める必要があるが、これは簡単なことではない。条例を作れば「実績」に見えてしまうため、評価も難しい。

 公約には、実現可能性が高いものと、実現可能性が低いものが混ざっている。実現可能性が高い公約は、成果も出やすく評価が高くなりやすい。極端な話、目標を低く設定すれば、公約は達成しやすくなる。実現可能性が低いとその逆になる。では、実現可能性が低い可能性は意味がないのかというと、必ずしもそうではない。

 東京都の現実と課題をきちんと捉え、具体的な目標をもって、課題解決、都民の福祉向上にリーダーシップを発揮できるかどうか。今回の選挙公約を見極める際に、現職知事の4年前の公約点検も参考になれば幸いだ。

 これまでのシリーズで、「セーフ・シティ」(安全・安心)、「ダイバー・シティ」(老若男女の活躍)として掲げられた17項目を概観してきた。

 今回は「スマート・シティ」(環境・金融先進都市)として掲げられた公約10個の結果は簡単に紹介しておく(評定基準はこちら)。詳細は、インファクトの検証記事を参照されたい。

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(2016年都知事選の小池百合子氏の公約集より)

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◎「東京をアジアナンバーワン1の国際金融市場として復活。国際金融特区や税優遇を活用し、世界から企業や高度人材を呼び込む。英語による諸手続きが可能な環境を整備。」→<優>

◎「中堅・中小企業の事業継承等を支援し、新規事業者の参入を支えるため、都内の事業再生・ベンチャーファンドの育成。」→<優>

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○「街灯や公共施設のLED化。LED導入促進施策の実施。」→<良>

○「東京の森林を守り、若者等の就業の場とする。」→<良>

○「フィンテックの活用を含め、東京版グラミン金融(小口無担保融資)を推進する。」→<良>

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'「エコハウス・スマートハウスへの補助を強化する。」→<可>

△「都内のガソリンスタンドをエネルギーステーション化し、EV・バイオエネルギー・水素ステーションの充電・充填設備を大幅に増設。」→<可>

△「ヒートアイランド対策の強化と、都市農業の維持、発展。」→<可>

△「東京ブランドを確立し、観光・インバウンド客をさらに増大させる。」→<可>

×「老朽廃棄物処理場の集約。」→<不可>

インファクトの公約検証記事一覧<スマート・シティ編>

小池都政 公約検証(1) エコハウス・スマートハウスの補助は強化されたか?

小池都政 公約検証(2) 「水素ステーション大幅に増設」は実行されたか?

小池都政 公約検証(3) LED化は促進したか?

小池都政 公約検証(4) 老朽廃棄物処理場の集約には取り組んだか?

小池都政 公約検証(5) ヒートアイランド、都市農業問題の対策は効果的だったか?

小池都政 公約検証(6) 林業は若者の就労の場になったか?

小池都政 公約検証(7) アジアNo.1の国際金融市場として復活したか?

小池都政 公約検証(8) 東京版グラミン金融の推進に取り組んだか?

小池都政 公約検証(9) ベンチャーファンドの育成に取り組んだか?

小池都政 公約検証(10) 観光客は増大し「東京ブランド」は高まったか?

弁護士

慶應義塾大学卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHoo運営(2019年解散)。2017年からファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年『ファクトチェックとは何か』出版(共著、尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。2022年、衆議院憲法審査会に参考人として出席。2023年、Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット賞受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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