四日市の川で中1男子が溺れた 「隠れため池」の落とし穴
隠れため池。聞いたことがない言葉だと思います。田園地帯を流れる川でなぜか子供の水難事故が続き、それらを調査したら共通項として浮かんできたのが、隠れため池の思わぬ落とし穴でした。
四日市の川で中1男子が溺れた
続報では「深みにはまった」と書いている記事が多い印象です。昨夜、急に飛び込んできたニュースに、週明けの子供たちの安全が気になって仕方がない方々がおられるかと思います。この時期、急に気温が上がると放課後に子供同士で川に遊びに出かけて、そこで水難事故に遭うという機会が増えます。このような事故が多くなると、「何に注意したらいいのかわからない」と家庭も学校もあきらめムードになることもあります。そういう時には、「放課後に川とか池に遊びに行ってはダメ」と毎日口酸っぱく言って聞かせるしかありません。
ただ水難事故には地域性があって、その地域には何となく同じような事故が続く傾向があったりします。それを地域ぐるみで認識することが水難事故を起こさないための実は一番の近道だったりします。
三重県では、過去にも同じような河川で子供が溺れています。
この記事でも、深さが強調されていました。なにが「同じような河川」なのかというと「隠れため池」というキーワードの共通項で事故を理解することが可能だという点で同じような河川と言えるのです。
志登茂川の事故現場の様子を参考図に追記しました。(6月26日18:00)
隠れため池の落とし穴
図1をご覧ください。これは四日市市を流れる海蔵川の様子を上空からとらえた写真です。県道622号の橋が海蔵川にかかっています。
この橋の上流側、つまり左上に堰が見えるかと思います。この堰は可動堰で農繁期になると堰を上げてその上流側に水を貯えるようになっています。この地域ではどうかわかりませんが、多くの可動堰は農閑期に下げて溜まった水を流します。普通の流れの川に変わります。川の顔を持ちながら、夏になると深さのあるため池となる。これを水難学会では「隠れため池」と呼んでいます。
何が落とし穴かと言うと、水を溜めているにもかかわらず、ため池の概念がないということです。現在、わが国の多くのため池では転落防止の柵が設置されたり、万が一の落水に備えて這い上がりのネットを設置したりする動きが出ています。「ため池に落ちると這い上がれない」という危機感が人々の意識の上に上がっています。ところが河川の場合には水を溜めているにもかかわらず、ため池のような概念が意識に上がりにくく、安全対策が遅れる傾向にあります。2020年6月に津市で発生した小学生の水難事故の現場でも、参考図に示すようにやはり下流に可動水門がありました。
繰り返しますが、意識に上がらない、これはまさに落とし穴と言えます。子供にとっては、冬の農閑期に水位が低くて安全に見える川と春から秋にかけての農繁期に水位が高くなっている川の区別がつきません。「見ればわかるじゃないか」と怒られそうですが、子供にしてみれば「川幅が広がった」程度にしか認識できません。なぜなら、川は濁っていて深さがわからないからです。
隠れため池は全国にある
図2は、九州の田園地帯にある隠れため池を撮影したものです。ここに写っている可動堰は図1の上空写真に写っていた可動堰と同じ構造のものです。この可動堰の付近で昨年、小学校の入学式をひかえた女の子が川に落ちて亡くなりました。
堰の下流側の水深がおよそ1 mで、上流側は2 mに達しています。対岸の写真左上の建物がポンプ小屋になっていて、ここで溜めた水をくみ上げて農地に水を送っています。付近の道路から川までは草をはやしていて簡単に近づけないように工夫されています。とは言っても、近年のため池水難事故防止対策のような対策はとれていません。
図2より下流に向かい、堰を左手に見るように撮影された写真が図3です。河川の法面が絶望的なくらいの勾配をもっています。川に落ちたら自力で這いあがることはできません。さらに堤防にあたる取付道路からは直接斜面となっていて、この斜面の草刈り作業時には川に転落する恐れは十分にあります。
さいごに
隠れため池の怖いところは、そこに水を溜めているという認識につながらないところです。どうしても安全対策が後手に回ってしまいます。子供の死亡事故が繰り返されるばかりでなく、草刈りなど法面の整備を行う農家の方の命をも脅かします。
農業水利は作物を育て、ひいては私たちの命となります。大事な水利を守りながら、地域住民の安全、農家の安全を向上することが、今求められているのではないでしょうか。