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「我々を敵として扱うなら敵になろう」――中国が豪州に突きつけた「14の不満」を一つ一つ点検してみた

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
中国側が提示した14項目=シドニー・モーニング・ヘラルドより筆者キャプチャー

 中国政府はこのほど、オーストラリアに対する不満を14項目列挙した文書を公開した。中国側は豪メディアに文書を手渡す際、「中国は怒っている。中国を敵として扱うならば、中国は敵になるだろう」と警告したという。この14項目を詳しく読めば、豪州のみならず、国際社会を相手にしたメッセージという見方もできそうだ。

◇「豪州は真剣に反省せよ」

 14項目の書類は、駐豪中国大使館から今月17日、「ナイン・ニュース」「シドニー・モーニング・ヘラルド」「エイジ」の三つの豪メディアに手渡されたという。シドニー・モーニング・ヘラルドに添付されていた文書を日本語に訳し、補足すれば次のようになる。

 (1)中豪自由貿易協定に反し、「国家安全保障上」という不透明な理由で外国投資の決定が阻止された。2018年以降、10件以上の中国の投資プロジェクトが、曖昧で根拠のない「国家安全保障上の懸念」を理由に、豪州によって却下され、インフラ、農業、畜産などの分野で制限がかけられている。

 (2)根拠のない「国家安全保障上の懸念」を理由に、華為技術(ファーウェイ)と中興通訊(ZTE)の中国通信機器大手2社を次世代通信規格「5G」ネットワークから締め出した。

 (3)外国干渉法は中国を標的とみなしている。だがそれには何ら根拠がない。

 (4)中豪間の通常の交流と協力を政治的に扱い、汚名を着せる。中国人学者のビザ取り消しを含め、障壁を作り、制限を課している。

 (5)新型コロナウイルスに関する国際的な独立調査の呼びかけは、米国の対中攻撃に呼応する政治的操作だった。

 (6)中国の新疆・香港・台湾問題への絶え間ない強引な干渉、特定の多国間会議で対中弾圧の先頭に立っている。

 (7)南シナ海問題に関する国連提出用の声明を作った初めての非沿岸国であること。

 (8)米国の反中キャンペーンに加担し、新型コロナを封じ込めようと努力する中国の周りで、米国から伝えられた故意の誤報を広めている。

 (9)中国を標的にした最新の立法により、外国政府との合意を精査するようにした。これは広域経済圏構想「一帯一路」における豪ビクトリア州の参加を破棄することを狙ったものだ。

 (10)豪政府系シンクタンク「豪戦略政策研究所」に資金を提供し、虚偽の報道を広め、新疆周辺の嘘を売りつけ、中国に対する世論操作を目的とした、いわゆる「中国潜入」を図った。

 (11)中国人ジャーナリストに対する夜明けの家宅捜索や無謀な財産没収には、いかなる罪状があるわけではなく、いかなる説明も伴わなかった。

 (12)サイバー攻撃に関する中国への薄っぺらな疑惑。

 (13)国会議員による中国の政権政党に対するとんでもない非難と、中国人やアジア人に対する人種差別的な攻撃。

 (14)豪メディアが中国に対する非友好的あるいは敵対的な報道をしたことで、2国間関係の雰囲気を害している。

       ◇

 文書が届けられた同じ日の中国外務省の定例記者会見で、趙立堅副報道局長は14項目を念頭に「豪州は国際関係の規範に著しく違反しており、香港、新疆、台湾など中国の核心的利益に関わる問題について誤った言動を繰り返してきた」と述べ、豪州に対する不満を次々に挙げた。そのうえで「豪側はこのことを直視し、責任を転嫁するのではなく、真剣に反省すべきである」と迫った。

 趙氏に豪州の件を質問したのは、共産党機関紙・人民日報系列「環球時報」記者だった。

◇豪州が反発、その後一転、雪解けの兆し

 中国側の主張に対し、モリソン豪首相は、自国は国益に基づいて行動するとし、自由なメディアを持ち、投票で選ばれた国会議員が自分の意見を述べ、人権について発言するなど、政策に変更はない強調した。そのうえで「これが対中関係に緊張をもたらしているとすれば『豪州が豪州であること』が原因のようだ」と皮肉った。

 一方、一時は強く反発していた豪州だが、最近になって一転、対中関係で雪解けの兆しも見え始めた。

 モリソン首相は今週初め、英シンクタンクでのスピーチで、新型コロナの起源についての調査を求めた豪州を中国が「米国の副保安官」と非難したことなどに触れ、「我々の行動は、中国と米国の戦略的競争という視点だけで見られ、誤って解釈されている」との見解を示した。

 さらに次の点を強調してみせた。

「豪州は独立した主権国家として、独自の利益や見解を持っていないかのようだ。これはまさに誤りである」

「中国の経済的繁栄は世界経済にとって良いことだ。豪州にとっても良いことだ。もちろん、中国の人々にとっても良いことだ」

 この米国と豪州を分けて考えるよう促すモリソン首相のこの発言が、中国側を強くひきつけたようだ。

 趙氏は今月24日になって、定例記者会見で「モリソン首相が中国経済の発展が世界に及ぼす影響や、脱貧困に向けた取り組みを肯定的に評価していることに、中国は注目している」と肯定的な発言に変化。「我々は、豪州側が独自に、自らの利益となる客観的・合理的な対中関係を選択するよう期待している」と強調した。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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