Yahoo!ニュース

「トランプ氏は日本とのケンカを終わらせよ」米紙が提言 平成最後の日米首脳会談

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
安倍首相とトランプ大統領。“ブロマンス”を続かせるために、両者は譲歩するのか?(写真:ロイター/アフロ)

 平成最後の日米首脳会談が終わった。

 アメリカのメディアの安倍首相に対する見方は、変わらず、皮肉に満ちている。

「日本の首相は、アメリカの気まぐれで、国粋主義者で、徹底交渉を好む大統領と個人的友情を育むことで、他のどの世界の指導者よりも、国益を増進させようとしてきた」(アトランティック誌)

 しかし、こんな見方をされても仕方がないかもしれない。

 安倍首相は、他のどの国の指導者よりも早く大統領就任のお祝いを述べにトランプタワーに馳せ参じ、トランプ氏来日の際は「同盟をより偉大に」という野球帽をプレゼントし、トランプ氏曰く「ノーベル平和賞に推薦する美しい手紙を書いた」からだ。

 アメリカの人々の目には、安倍首相がトランプ氏に“求愛”しているようにしか見えないだろう。

 今回も安倍首相は、アメリカの第一四半期の3.2%の経済成長と雇用創出に祝辞を送ることを忘れなかった。

“求愛”は奏功?

 しかし、安倍首相の“求愛”努力が、果たして、現実的に奏功しているかは疑問だ。トランプ氏からいくら「いい友達だ」と言われても、安倍首相は結果を得ているどころか、苦しめられているとABCニュースは以下のように見ている。

「安倍氏は大統領からめったにないほどの個人的な対応(大統領は安倍氏を“いい友達だ”と呼んでいる)をもらっているが、日本が親しい関係から何を得ているかは不明だ。それどころか、アメリカの長きに渡る同盟国(日本のこと)はアメリカの関税に直面しており、貿易交渉に追い込まれた」

 確かに、安倍首相はトランプ氏との“ブロマンス”から何かを得ているというよりも、苦しめられているのかもしれない。トランプ氏は就任早々TPPから撤退したし、初の米朝首脳会談も事前に安倍首相に相談することなく決めたし、鉄鋼やアルミニウムに追加関税を課した。また、問題の自動車や農産物を対象した日米貿易交渉については、変わらず、強硬姿勢を保ち、記者会見では「今度訪日した際に署名するかもしれない」というサプライズ発言までして安倍首相の首を傾げさせた。

 また、記者会見で、トランプ氏は、

「日本はアメリカの農産物に関税をかけているが、アメリカは日本車には関税をかけていない」

と“フェイク”を交えて、問題を指摘。

 安倍首相はこの“フェイク”が看過できなかったのか、

「日本は米国車に関税をかけていないが、アメリカは日本車にまだ2.5%の関税をかけている」

と“訂正発言”をした。

 なんでも大げさに言うトランプ氏だ。2.5%関税など、対日貿易赤字の大きさを考えれば、ゼロのようなものなのだと言いたかったのだろう。

 しかし、安倍首相が重ねてきた“求愛”努力は奏功したこともあったようである。トランプ氏は会見の際、5月の訪日の裏話を明かした。それによると、トランプ氏は5月の訪日を決めかねていたのだが、新天皇との会見行事について、安倍首相に「スーパーボウルより100倍ビッグな行事だ」と言われて、訪日を決めたという。背景には、これまでの努力があったからかもしれない。

偉大なる紳士を待たせられない

 トランプ氏もまた安倍首相に“求愛”しているように見えた。

 トランプ氏は、会談当日、全米ライフル協会の集会が行われたインディアナ州から、安倍首相が待つワシントンDCに戻ってきたのだが、帰路、天候がとても悪かったという。そのため、エアフォース1のパイロットから「1時間、着陸できないかもしれない」と言われた。そんなパイロットに、トランプ氏はこう言ったという。

「そうはならないといいな。偉大なる紳士(安倍首相のこと)を待たせることはできないからね」

 また、会見中、トランプ氏は執拗なほどジッと安倍首相を見つめているように見えた。目は口ほどにものを言う。安倍首相を説得して、難航が予想される貿易交渉を成功に導きたいという意志の表れだったのか。

 あるいは、安倍氏にそっぽを向いて欲しくないという気持ちの表れだったのかもしれない。

安倍政権のリスクヘッジ

 トランプ氏による課税という脅威に晒される中、安倍首相は中国との関係を強化する姿勢を見せているからだ。昨年10月、安倍首相は中国を訪問、6月には習近平国家首席が来日することになっている。

 アメリカの識者もそんな日中の動きを注視している。

 先日、UCLAで行われた外交政策セミナーで、ブルッキングス研究所の元中国センター長のジョナサン・ポラック氏が以下のような見解を示した。

「日本は中国やEUとのパートナーシップを強化することでリスクヘッジし、国力を高めようとしている。“一帯一路”でも、インフラ開発の経験と知識をいかして、中国と連携しようとしている。日中の経済的統合が深まっており、安倍政権はそれを頼みにしている」

日本とのケンカを終わらせよ

 また、ワシントン・ポスト紙は、社説で、こんな提言を行なった。

「不要な衝突を避ける方法ははっきりしている。トランプ氏が関税(日本車に対する追加関税)を課さないこと。そして、安倍氏がアメリカの農産物生産者に他の貿易パートナーと同様の市場アクセスを許可すること。この方法では両指導者からの譲歩が必要になる。安倍氏の場合は実体がある経済的な譲歩であり、トランプ氏の場合は思想的で自尊心に関連した譲歩だ。

 安倍氏や日本が現実的利益のために新たな味方を見つける前に、今こそ、トランプ氏が高くつく日本とのケンカを終わらせるべき時であるように思われる

 日米中の首脳の間で、今後、どんな“三角関係”が展開されるのか注目されるところだ。

参考記事:

President Trump Meeting with Japanese Prime Minister

Japan and Russia Muscle Their Way Into the Trump-Kim Dialogue

Japanese Prime Minister Shinzo Abe visits White House ahead of G-20 summit in Osaka

It’s high time for Trump to end his costly spat with Japan

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

飯塚真紀子の最近の記事