「とんでもございません」は間違った言い方?ビジネスシーンで使うときの注意点も【正しい日本語・敬語】
A「Bさんって仕事が出来るよね」
B「とんでもございません。Aさんのご指導のおかげです」
人から褒められたときなどに謙遜して言う「とんでもございません(とんでもありません)」。上記のように、ビジネスシーンでもよく使われますよね。しかし実はこの表現、間違った日本語だと聞いたことはありませんか?
今回は、「とんでもございません」は間違いなのか?について考えていきます。併せて「とんでもないことでございます」についても解説していくので、ぜひ最後まで読んでくださいね。
「とんでもございません」が間違いではないかといわれる理由
「とんでもない」は、「ない」まで含めて一つの形容詞です。しかし、「とんでもございません」「とんでもありません」という表現は、形容詞「とんでもない」の「ない」の部分だけを丁寧語に変化させた形なので、日本語のルールとしてはおかしいといわれるのです。
それに対して、「とんでもないことでございます」「とんでもないです」「とんでもないことです」は、「とんでもない」という形容詞がそのままの形で残っているため、正しい言い方といえるでしょう。
【結論】「とんでもございません」を使っても問題ない
では「とんでもございません」を使うのは間違いなのか?というと、結論としては使っても問題ありません。この記事では、以下2点を理由としてお伝えします。
理由①「途(と)でもない」が語源という説があるため
「とんでもない」の語源は「途でもない、途方もない」であるという説があります。「途」「途方」とは手段・方法という意味の名詞なので、それらがないことを表す言い方が変化したのだとすると、「とんでもございません」「とんでもありません」と言うこともできます。したがって、必ずしも誤用とは言い切れないようです。
理由②文化庁により現在は使っても問題ないとされているため
平成15年度の文化庁の調査によると、「とんでもございません」という表現について約7割の人が「気にならない」と答えました。さらに、文化庁は平成19年度の「敬語の指針」の中で、謙遜して相手からの褒めや賞賛などを軽く打ち消すときの言い方として「とんでもございません」を使っても問題ないとしています。
したがって、「とんでもございません」という言い方は現在では認められています。日本語として正しいのかという部分にはやや疑問が残るものの、ビジネスシーンで敬語として使っても問題ありません。
「とんでもございません」「とんでもないことでございます」の注意点
文化庁は「敬語の指針」で、「とんでもないことでございます」と「とんでもございません」はイコールではなく若干意味が異なる、と述べています。たとえば上司に「いい仕事をしたね」と褒められたときに謙遜して「とんでもないことでございます」と言ってしまうと、正しい日本語ではあるものの、「あなたの褒めたことはとんでもないことだ」といった間違った意味でとられる可能性がある、というのです。
ほとんどの場合は会話の流れで伝わるかとは思うのですが、褒められたときはむしろ「とんでもございません」「恐縮です」「恐れ入ります」等と言い換えたほうが、謙遜の意味が伝わる場合もあるということですね。「ありがとうございます」「うれしいです」と褒め言葉を素直に受け取ってしまうのもステキですよ。
逆に、あの人のしていることはとんでもないことだ、と表現したい場合には 「あの方のなさっていることはとんでもございませんね」とは言えません。この場合は「あの方のなさっていることは、とんでもないことでございますね」という言い方が正しいので要注意。よくない、不届きなこと・ものに対しては「とんでもない○○」の形のまま使う方がベターと言えるでしょう。
「とんでもない」は、「とんでもないミス」「とんでもないことをしでかした」など、悪い意味でも使われる言葉です。相手に正しく意図が伝わるように使い分けていきましょう。
【おやさいの余談メモ】「とんでもない」で人間関係を円滑に
「とんでもない」には、今まで述べてきた「褒め言葉に対して」「よくない、不届きなこと・ものに対して」といった用途以外にも、相手からの謝罪を打ち消す使い方もありますよね。
「昨日は急に休んですみませんでした」
「とんでもございません。困ったときはお互いさまですよ」
「ミスして申し訳ありません」
「とんでもない。最初はだれでもミスするから大丈夫だよ」
上記のように、やわらかく謝罪を打ち消してもらえたらほっとしませんか?この記事で取り上げた「とんでもない」という言葉には人間関係を円滑にする効果もあるので、ぜひ今日から積極的に、そして正しく使ってみてくださいね。
<参考>
NHKアナウンス室『「サバを読む」の「サバ」の正体―NHK 気になることば―』(新潮社、2014年)