名古屋名物・ういろう。幻だった「7つの味」が13年ぶりに復活!
“ういろう=名古屋名物”のきっかけは昭和39年の新幹線開通
名古屋名物の定番、ういろう。名古屋ではこれをメインとする和菓子店も多く、土産物売り場でも根強い人気を誇っています。
ういろうは室町時代に中国(当時は元)からの帰化人が考案したとされ、京都、小田原、山口など全国各地にゆかりの地や名産地があります。名古屋名物のイメージが定着したのは1964年の東海道新幹線開通がきっかけ。名古屋の青柳総本家が車内販売を行ったことで、全国の人々が名古屋土産として買い求めるようになりました。現在では、名古屋を中心とする東海地方が全国生産の9割を占めるといわれます。
懐かしのCMソング&7つの味は13年前から“幻”に
名古屋のういろうの代名詞ともいうべき青柳総本家の青柳ういろう。とりわけ地元での親しみやすさを決定づけたのが同社のCMソングです。「ポポポィのポィ♪」のフレーズで始まる「青柳ういろうのうた」は1969年から同社提供のテレビの天気予報で使われるようになり、軽快なテンポと耳に残るフレーズで、この地域の人なら誰もが口ずさめるソウルソングに。ちなみに作曲は「おもちゃのチャチャチャ」などの童謡や『パーマン』『マッハGoGoGo』のアニメ主題歌などを手がけた作曲家・越部信義氏です。
歌詞の中でも印象的なのが「しろ・くろ・まっちゃ・あがり・コーヒー・ゆず・さくら」のフレーズです。そのため地元の人は“青柳ういろう=7つの味”と何の疑いもなく思い込んでいるほどです。(CMソングは同社HPの「CMギャラリー」で視聴可能)
ところが、実はもう40年以上も前から、この“神セブン”はラインナップ解体の危機に見舞われ、ここ13年間は事実上解散状態にありました。そして、これにともない「青柳ういろうのうた」も、2007年を最後に放送されなくなっていました。
その原因は「珈琲」と「ゆず」、2つの味のういろうでした。
「この2種類は味や香りの嗜好性が高く、お客様を選ぶ。決しておいしくないわけではなかったのですが、7つの中では売れ行きが芳しくなく、1977年に珈琲を、1982年にはゆずを製造中止しました。2002年にハーフサイズで復活させたのですが、やはり販売数は伸び悩み、『珈琲』は2007年、『ゆず』は2008年に再びラインナップから外すことになりました」と青柳総本家取締役の後藤稔貴さん。
「珈琲」「ゆず」ういろう復活への道!
かくして姿を消してしまった「珈琲」と「ゆず」のういろう。しかし、時を経て復活へ向けて動き出したのは昨年からのコロナ禍がきっかけだったといいます。
「『えっ、買えないの?』『また食べたい』という声は以前から絶えずありました。『青柳ういろうのうた』を放映していたのは会社にとって一番の成長期でもあり、その中で広く親しまれたCMソングはお客様とのコミュニケーションツールの役割も担っていました。コロナ禍でお土産需要が激減したこの1年、あらためて原点に立ち返ってお客様とのつながりを大切にしたいとの思いが強まった。そこで、そのつながりを象徴するCMソングに欠かせない『珈琲』と『ゆず』を復活させようと考えたのです」(後藤さん)
こうして動き出した2つの味の復活プロジェクト。しかし、その道のりは決して平たんではなかったといいます。
「以前の味のままでは、また一部の方にしか受け入れられない。今のお客様の嗜好に合う、よりおいしい味を新たに開発する必要がありました。とはいえ当時の味を懐かしんでくれるお客様の声もあり、それも参考にする必要がある。しかし、レシピは残っておらず、社内で当時の味を知るのは社長1人だけだったんです」(後藤さん)
「珈琲」は当初スペシャリティコーヒーの粉末を試用してみるも、せっかくの香りが飛んでしまい、食感がざらつくなどの問題点が。そこで、コーヒー業者の助言を受けてコーヒーの種類を変え、苦味よりも香りを重視して味づくりを進めたそう。「ゆず」は以前は主に香料で香りをつけていたところ、洋菓子づくりの経験をもつスタッフのアイデアでピューレを活かすことに。ピューレの含有量は旧作の5倍。これによって香りがしっかり出て、またういろうの中にピューレをちりばめられるため味わいにメリハリが出て食べ飽きない味が出来上がったといいます。
こうして10か月近い開発期間を得て商品化に成功。2021年4月6日に発売の運びとなりました。筆者もひと足先に実食。「珈琲」は口に含んだ瞬間に奥行きのあるコーヒーの香りが鼻から抜け、それでいてういろう本来の米粉の風味も感じられ、絶妙のバランス。「ゆず」は柑橘系のさわやかな香りと酸味が広がり、かすかなほろ苦さがアクセントになっています。「珈琲」「ゆず」ともに、ういろうならではのもっちり感と米粉の風味の包容力が、特徴あるフレーバーを包み込み、個性と親しみやすさが両立しています。
復活した2つの味がSNSでコミュニケーションツールに
「お客様とのつながり」を築くことが今回の商品開発のきっかけだったという通り、「珈琲」「ゆず」の復活発売に合わせてユーザーとのコミュニケーションを図る様々な取り組みも行われています。
Twitterでは3月中旬に「青柳ういろう珈琲・ゆず リニューアル記念キャンペーン #プレゼント企画」を実施。100名に2つの味をプレゼントすると、3000を超すリツイートがあり、多くのファンから復活を期待する声が寄せられました。
またTwitter、Instagramの公式アカウントでは、昨年からういろうのアレンジレシピを積極的に投稿。お土産だけでなく日常のおやつとして楽しみ方、味わい方が広がるユニークな提案をしています。「珈琲」「ゆず」に関してもビスケットやヨーグルトと組み合わせるなど、遊び心あふれるレシピが考案・投稿されています。
「『しろういろう』はトーストすると表面はパリッ、中はとろりとマシュマロのような食感になる。さらにバターを乗せると香ばしさも加わる。長細い棹菓子のういろうは核家族化が進むにつれて“一本を食べ切れない”という声も多くなっていたのですが、“味変”をすることで食べ切りやすくなります」と後藤さん。
さらに懐かしいテレビCMについても「商品のサイズが変更しているので過去のCMをそのまま使うことはできないのですが、アレンジして活用できないかと考えています。お客様のご要望で盛り上げていただければ、実現の可能性も高まります」といいます。
名古屋名物としての知名度・認知度は抜群のういろう。一方でお土産品としてメジャーになりすぎたゆえ、地元では近年少々存在感が薄れがちでもありました。そんな中でのトップブランドによるユーザーとのコミュニケーションを重視した取り組みの数々。地元で愛されていることがお土産品の最大の付加価値となるだけに、伝統銘菓のブランディングのよきモデルケースになるのではないでしょうか。
(写真撮影/筆者 ※CM画像、アレンジういろう画像は青柳総本家提供)