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主な新興国/米国経済ニュース(7月16日)

増谷栄一The US-Euro Economic File代表

ロシア中銀、リファイナンス金利を据え置き―インフレ懸念後退する中

ロシア中銀は先週末の理事会で、主要政策金利であるリファイナンス金利を現行の8.25%のまま据え置いた。据え置きは10カ月連続。また、それ以外の資金吸収や資金供給のための各種の公開市場操作(オペ)金利も現行のまま据え置いた。

今回の金融政策決定会合は、エリビラ・ナビウリナ新総裁が主催する最初の会合となったが、市場では景気刺激のため、利下げに踏み切るとの見方がある一方で、最初の会合では新総裁は大胆な政策変更は行わないとの見方もあったが、結局、新総裁は金融政策の現状維持を選択している。

同中銀は政策決定会合後に発表した声明文で、インフレリスクについて、同中銀は声明文で、「6月と7月初めのインフレ率は依然、物価目標(5-6%上昇)を上回っており、7月8日時点のインフレ率は推定6.6%上昇となっている。また、6月のコアインフレ率は5.8%上昇だった。これは食料品などの物価上昇によるもの」としたが、「現在の金融政策のスタンスが維持され、インフレ期待も安定し、食料品物価に急激な変化も起きないことを前提条件として、インフレ率は今年下期(7‐12月)に物価目標に戻ると予想している」と述べ、インフレの先行きに楽観的な見方を示した。この文言は前回会合時からは変わっていない。

前回6月会合時との違いは、「長期にわたって物価目標を上回ればインフレ期待に影響を及ぼしインフレリスクになる」との文言が削除されている点で、インフレ懸念が後退している。

一方、景気リスクについては、声明文では、「経済成長は依然として減速している。ただ、消費や雇用、金融が内需を下支えしている。今後は投資活動が弱いことや世界経済の回復力が弱いことを考えると、依然としてロシア経済の成長が一段と鈍化するリスクがある」とし、前回会合時と同じ文言を使い、景気の先行きに懸念を示している。

その上で、中銀は、「インフレリスクと景気後退リスクを引き続き注視し、金融政策決定はインフレ目標と経済成長見通しの両面で判断して行われる」と、前回会合時と同じ文言を使っている。

モスクワ・タイムズの12日付け電子版によると、ロシア2位の投資銀行VTBキャピタルのアナリストは顧客向けリポートで、市場では現在、中銀が今後12カ月以内に0.25-0.5%ポイントの利下げを織り込んでいることを明らかにした。また、仏金融大手BNPパリバのアナリスト、ユリア・ツァプリャイエバ氏も「タカ派(インフレ重視の強硬派)として知られていたセルゲイ・イグナチェフ総裁とアレクセイ・ウリュカエフ第1副総裁がすでに中銀を去ったことで、今の中銀の政策決定会合のメンバーが金融緩和に傾く可能性が一段と高まった。インフレの伸びが鈍化したことで短めの金利の引き下げの道が開けた。中銀は金融政策を緩和しなければならなくなる」と指摘している。

中銀は次回の金融政策会合の開催時期については、8月9日に開かれるとしている。

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8-12日のロシアRTS指数、1348.81―大反発=BRICs市況

前週(8-12日)のロシア株式市場は大反発となった。RTS指数(ドル建て)の12日終値は、週後半のベン・バーナンキ米FRB(連邦準備制度理事会)議長の発言でFRBの第3弾の量的金融緩和(QE3)の早期縮小懸念が後退し、世界の主要株式市場が反発した流れを受けて、前週比6.3%高の1348.81と、5月24日の1388.52以来の高水準となった。

また、RTS指数が1300台に回復したのは6月7日で終わった週以来5週ぶり。RTS指数は6月が4.2%安となったあと、7月相場に入っても冴えず、年初来でも19%安と低迷が続いていた。ただ、今回の大反発でも依然、年初来で14%安となっている。

週初8日のRTS指数は、米信用格付け大手ムーディーズ・インベスターズ・サービスが国営金融大手VTB(対外貿易銀行)や連邦貯蓄銀行(ズベルバンク)などの主要行の格付けを引き下げたものの、米シティバンクがロシア株への投資判断を引き上げたことなどで、0.7%高と、株価は反発して始まった。

2日続伸のあと、10日は小幅反落したものの、週後半の11日は、前夜にバーナンキFRB議長のQE3の当面継続の必要性を示唆する発言が伝わったことや米国の経済データ(週間新規失業保険申請件数の増加)が悪化したこともQE3の早期縮小懸念の後退につながり、アジアや欧州の株式市場が上昇し、RTS指数も3.7%高と急騰。週末12日のRTS指数も原油高も手伝って2%高となり、2日続伸した。

個別銘柄では、12日の取引で長距離電話最大手ロステレコムが5.1%高、欧州の天然ガス不足を手掛かり材料に国営天然ガス大手ガスプロムも3.9%高、ズベルバンクも米国の大手証券JPモルガンなど金融セクターの四半期決算が好調だったことで3.2%高となっている。

今週(15-19日)のロシア市場は、前週の株価の大反発で西側の投資家の新興国市場へのリスク投資が戻ることが予想される。また、今週の主な統計発表は、米国は6月小売売上高(15日)や6月住宅着工件数(17日)、6月景気先行指数(18日)、アジアでは、中国の4‐6月期GDP(国内総生産)伸び率(15日)、日本の5月全産業活動指数(19日)、欧州では7月ZEW景況感調査(16日)やユーロ圏6月消費者物価指数(16日)、ユーロ圏5月経常収支(18日)などが予定されている。

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港湾物流大手の間口グループ、ベトナム・ビンデン省への進出を検討へ

港湾物流大手の間口グループ(本社・大阪)はベトナム中南部ビンデン省の港湾物流・荷役事業に投資する方向で検討している。地元紙サイゴン・タイムズ(電子版)が11日に伝えた。

すでに、同社の川田宏行取締役(国際・海外事業担当)を中心とする代表団が先週、現地入りし、同省の人民委員会の幹部やクイノン港の代表と港湾への投資について意見交換している。同省によると、間口グループは港湾物流・荷役事業にとどまらず、水産加工やベトナム伝統工芸品である陶磁器の生産にも関心を寄せており、同省にある水産加工会社や工場、冷凍施設も見学している。同社は将来的には冷凍水産加工品を日本に輸入することを視野に入れている。

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インドネシア政府、国営ムルパティ・ヌサンタラ航空を身売りへ

インドネシアのダーラン・イスカン国営企業相は、多額の負債を抱えている国営ムルパティ・ヌサンタラ航空の経営を再建するため、戦略的パートナーへの身売りを計画していることを明らかにした。ジャカルタ・ポスト(電子版)が12日に伝えた。

同航空は現在、6兆ルピア(約300億円)の負債を抱えている。国営企業省はムルパティ・ヌサンタラ航空の大口株主の立場から、これまでに資本注入や従業員の削減、本社移転、債務の証券化などの経営再建策を講じてきたが、今後は関心のある投資家からの買収提案を受けていくとしている。

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米物流大手UPS、通期利益見通し引き下げ-4‐6月期1株利益1.13ドル

米物流大手UPSは先週末、第2四半期(4-6月)の最終利益が市場環境の悪化や景気低迷の影響で、1株当たり1.13ドル(希薄化ベース)となる見通しを明らかにした。これは前年同期の1.15ドルや市場予想の1.20ドルをいずれも下回る。

また、同社は通期の1株当たり利益も当初予想の4.80‐5.06ドルから4.65‐4.85ドルに引き下げた。ただ、前年同期比では3‐7%増を維持するとしている。

UPSは声明文で、「世界の航空貨物市場が供給過多の状況にあることや、顧客の低価格志向、さらには米国製造業の低迷で、当社の売上高と利益はともに会社予想を下回った」と述べている。同社の4‐6月期決算は23日に正式に発表される予定。

この同社の株価は先週末、前日比5.8%安の86.12ドルで引けた。

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米金融ウェルズファーゴ、4‐6月期利益19%増-予想上回る

米金融大手ウェルズファーゴが先週末に発表した今年4‐6月期の最終利益は前年比19%増の55億2000万ドル(約5500億円)となり、アナリスト予想の49億7000万ドル(約4900億円)を上回った。1株利益は希薄化ベースで98セントとなり、アナリスト予想の93セントと前年同期実績の82セントを上回った。

しかし、一般企業の売上高に相当する経常収益は、ほぼ横ばい(前年比0.4%増)の213億7800万ドル(約2.1兆円)にとどまった。また、銀行本来の業務を示す資金運用収支の利益率は前年同期の3.91%から3.46%に低下した。

このほか、同行の住宅ローン担保証券のポートフォリオの含み益も最近の住宅ローン金利上昇を反映して、今年3月末時点の112億ドル(約1.1兆円)から6月末時点の51億ドル(約5100億円)に半減した。さらに主力のリファイナンス(借り換え)事業は、借り換え融資の全体の融資に占める比率が1‐3月期の69%から4‐6月期は56%に低下した。住宅ローンの新規組成は1120億ドル(約11.1兆円)と、1‐3月期の1090億ドル(約10.8兆円)を上回ったが、前年同期の1310億ドル(約13兆円)を下回っており、最近の住宅ローン金利の上昇の悪影響が及んできた格好だ。

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ブラジル中銀5月経済活動指数、1.4%低下-連続利上げに赤信号

ブラジル中央銀行(BC)が先週末に発表した5月の経済活動指数(IBC-Br、2002年=100)は季節調整後で、前月比1.4%低下の144.9と、前月(4月)の0.96%上昇から3カ月ぶりに低下に転じた。市場予想のコンセンサス1%低下を下回った。また、今回5月の1.4%低下は2008年10‐12月期のブラジル経済の最悪期以来の大幅低下だ。ちなみに2008年10月は1.5%低下、同年11月は2%低下、同年12月は4.4%低下だった。

オ・エスタド・ジ・サンパウロ紙(電子版)によると、この結果について、エスピリト・サント投資銀行(BESIブラジル)のシニアエコノミスト、フラビオ・セラーノ氏は、「この結果を受けて、ブラジル中銀が今後、利上げキャンペーンを中止する可能性が高まった」と指摘している。

一方、前年同月比は、季節調整前で2.28%上昇の148.13と、これも市場予想のコンセンサスである2.8%上昇を下回った。

また、1‐5月期の伸び率(季節調整前)は前年同期比3.01%上昇となった。5月までの過去12カ月間の月平均(季節調整前)では、4月までの過去12カ月間の月平均に比べ1.74%上昇となっている。

同指数は製造業と非製造業、農業の3部門のデータで構成されており、中銀の政策金利(セリック)である翌日物金利誘導目標を決定する際に、ブラジルの経済活動の動向を評価する上で重要な指標となっている。 (了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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