特撮ヒーローから飛躍中の伊藤あさひ 『4分間のマリーゴールド』でリアルな若者の葛藤に挑む
松坂桃李、千葉雄大、志尊淳、横浜流星らを輩出し、人気俳優の登竜門と言われる特撮の戦隊シリーズ。今年2月まで放送の『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』で主演を務めた伊藤あさひは、現在ドラマ『4分間のマリーゴールド』に出演中。まさにステップアップの最中にある彼が、ヒーロー役を経て見据えているものを聞いた。
戦隊の撮影と違って素の自分のまま現場へ
178cmの長身で整った顔立ち。まだ19歳で少年っぽさも残る伊藤あさひ。『ルパンレンジャーVSパトレンジャー』で演じた夜野魁利=ルパンレッドは金髪で一見チャラく、それまでの戦隊のレッドのイメージを覆すキャラクターだった。その後、『高嶺と花』ではイタリア人で有名ブランドの御曹司、『俺のスカート、どこ行った?』では別れた彼女の家に入り浸る東大卒のエリートと、風変わりなノリの役が続いた。
「戦隊での経験はすごく役立ってますけど、他の作品との演技の違いは多少感じました。1年間ヒーローを演じて染み付いたものを変えていくところはあります。ただ、僕の場合、『ルパパト』が終わってもスッ飛んでいいキャラクターが続いたので(笑)、思い切ったお芝居はできました」
一転、『4分間のマリーゴールド』で演じている新人救急救命士の上田祐樹は、先輩で主人公の花巻みこと(福士蒼汰)に「僕は3年も続けられるかな」と漏らしたり、何やら仕事に悩んでいる様子で、どんよりしている。
「リアルなイマドキの若者という感じで、僕には新しい試みですね。それまでのクセの強い役はテンションを上げて挑みましたけど、今回はむしろ普段とテンションを変えず、素の自分のままで現場に入ってます。僕自身もどちらかというと、そんなに高ぶるほうではないかもしれません」
上田が何に悩んでいるのか、救命士の仕事で何かあったのか、序盤では描かれなかった。
「僕も何も知りませんでした(笑)。上田は原作にないキャラクターで情報がなくて、自分なりに考えたり、現場で監督と相談しながら決まっていくことが多いです。上田も迷いながら救命士をやっているので、『わからないところも味として出ればいいな』という気持ちでやっています」
1年かけて役を高めて度胸や自信も付きました
伊藤は高校時代、サロンモデルをしていて現在の事務所のスタッフの目に留まり、スカウトされた。
「高校生の頃、将来やりたいことは特にありませんでした。ただ、小さい頃から人と違うことをしたい気持ちはあって、パイロットとか弁護士とか特殊な仕事ができたらいいなと。でも、芸能界は自分とかけ離れた世界だと思っていて、スカウトされるまで全然考えませんでした」
学園ドラマの生徒役などを経て、18歳で『ルパパト』にレッドとして出演すると、身の周りが一変する。
「当時は金髪だったこともあって、街で子どもたちやお母さんに声を掛けていただくことが多くなりました。あと、イベントをたくさんやらせていただいたので、人前に立つ度胸や自信はかなり付きました」
放送終了後も、“登竜門”と呼ばれるプラス面は実際あっただろうか?
「プラスしかないですね。業界の中でも、テレビ局とかの女性の方に『子どもと観てました』とよく言われて、お仕事でご一緒できると『繋がった』と嬉しくなります。あと、戦隊の先輩たちと縦の繋がりがあります。今回の『4分間のマリーゴールド』だと、(『烈車戦隊トッキュウジャー』に出演していた)横浜流星さんと現場や番宣でお会いして、いろいろ話しました。初対面でも、同じスタッフさんから代々の戦隊の話を聞いていたので」
1年間に渡り同じ役を演じたことも、役者として大きな糧になっている。
「お芝居の経験がほとんどないまま撮影に入って、最初はわからないことだらけ。自分がメインの映像を想像できないまま、無我夢中で撮って、放送が始まると現場でのイメージとのギャップに悩みました。でも、いろいろ教わりながら役を高めていって、1年も演じるとなると、自分の役のことは自分が一番わかる感覚になるんです。それでだんだん、やりたいことに欲が出てきて、実際にやっていけたのは楽しかったです」
卑屈だけど憎めない役になるようにしてます
『4分間のマリーゴールド』でも、上田のキャラクターに情報が少ない分、「人物を作っている実感は湧いています」という。
「上田は何だカンだ言って、構ってほしいんだと思います(笑)。やさしいみことにすぐ相談しちゃうところがかわいい。だから、『イマドキっぽいイヤな奴にはならないようにしよう』と監督と話してます。卑屈だけど憎めない、愛されるところも残しておきたい。あとは、周りの自分に対する評価が気になるタイプかな」
そして11月15日放送の第6話では、そんな上田にスポットが当たる。非番の日のデート中に子どもを助けて、心境に変化が起きるようだ。
「4話で彼女がいたことにもビックリしましたけど(笑)、上田がなぜ救急救命士になったのかとか、やっと背景がわかりました。みことともシフトの引き継ぎくらいでしか話してなかったのが、深いシーンがあります。それで上田が一歩前進して、ちょっと変わるのが見どころだと思います」
救急救命士でなくても、社会人1年生が自分の就いた仕事について「これで良かったのか?」と悩むことは多い。広く共感を呼びそうだが、自身は俳優業について「続けられるか?」などと悩んだことはなかっただろうか?
「僕は今3年目で、作品ごとに演技で悩むことはあっても、俳優の仕事自体についてはないですね。上田は部活も途中で辞めた感じがしますけど(笑)、僕は中学で野球をやって、高校受験に向けて勉強にシフトして頑張って、受かったら高校でバドミントン部に入って、この世界に入るときに辞めました。投げ出すことはせず、ひとつやったら次と、変えていく感じです」
若さを武器にしなくても努力する自信はあります
では、これから俳優として身に付けたいことは?
「まだまだ経験が浅いので、いろいろなことを吸収しないといけない。だから、吸収力ですかね。これからリアルな役を演じることも増えるだろうし、アンテナをたくさん張って幅を広げられたら。今は週2くらいで映画館に行ってます」
どんな映画を観ているのだろう?
「ジャンルを選ばず、何でも観るようにしています。最近は洋画が多いですね。『ジョーカー』に『イエスタデイ』に……。『イエスタデイ』を観て帰ってきたら、ビートルズを聴きまくりました(笑)。『ボヘミアン・ラプソディ』のときのクイーンもそうでしたし、音楽に限らず、映画で観たことが気になっちゃうタイプです。『ワイルド・スピード』を観て、『スーパーカーに乗って飛ばしたら、どうなるんだろう?』と考えたりもしました」
気になる俳優がいたりも?
「そこもひとつ心打たれる作品があると、その俳優さんの他の作品も観たくなります。ちょっと前に、ジム・キャリーさんやトム・ハンクスさんの作品はだいぶ観ました。ジム・キャリーさんは役によって本当に変わりますよね。僕もお芝居で『いろいろな伊藤あさひがいる』と見せたい気持ちはあります」
『ルパパト』に主演した際は“初の2000年代生まれのレッド”と話題になった伊藤だが、年明けの1月には20歳の誕生日を迎える。
「『ルパパト』をやっていたとき、10代と言うと『若いね』とよく言われました。でも、20歳になったら、1歳の差だけで全然違う気がします。もう若さを武器にはできないので、もっとすごいものを身に付けないといけない。プレッシャーは多少ありますね。今までは年上の役ばかりだったのが、どんどん年齢のほうが追い付いていくので、深みみたいなものが出るといいかなと思います」
『4分間のマリーゴールド』に彼の先輩役で主演する福士蒼汰も、特撮の双璧の『仮面ライダー』シリーズ主演がブレイクのきっかけだったが、もはやそれを知らない人も多いほど、その後いっそう活躍している。伊藤あさひも登竜門からどれだけ羽ばたけるか、期待される。
「『ルパパト』から応援してくださるファンの方の期待は裏切れません。だから、ひとつひとつのお仕事と真摯に向き合って、自分にできることは精いっぱい努力していこうと思っています。まだどんな俳優になれるかわかりませんけど、努力する自信はあります」
Profile
2000年1月19日生まれ、東京都出身。2017年にドラマ『緊急取調室』(テレビ朝日系)でデビュー。2018年に『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』(テレビ朝日系)に主演して注目される。主な出演作は『高嶺と花』(フジテレビ/FOD)、『俺のスカート、どこ行った?』(日本テレビ系)、『べしゃり暮らし』(テレビ朝日系)など。『4分間のマリーゴールド』(TBS系)に出演中。
金曜ドラマ『4分間のマリーゴールド』
TBS系/金曜22:00~