『この素晴らしい世界に祝福を!』めぐみんの爆裂魔法は、どれほどの威力なのか?
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。
「異世界もの」系の小説はあまり読まないのだが、友人に薦められて、角川スニーカー文庫の『この素晴らしい世界に祝福を!』を読んだところ、おおっ、オモシロイではないですか。
「冴えない主人公が命を落とし、別の世界に生まれ変わって大活躍」というのはパターンどおり。ただし『このすば』の主人公カズマは、「異世界もの」定番死因の「トラックにはねられる」ではなく、トラクターに轢かれそうになって、心臓麻痺で死亡! かなり冴えないヤツなのだ。
そんなカズマが、女神アクアをつれて異世界に転生し、冒険者として魔王を倒す旅に出る。
ところが、このアクアは使えない女神だった。美女だけど、上から目線で、面倒くさがりで、酒が大好きで、打たれ弱くて、すぐに借金を作る。
冴えない冒険者と、人格に問題のある女神ではどうにもならないと、仲間を募集したところ、やってきたのはアクアに輪をかけて偏った女子2人だった。爆裂魔法しか使えない魔法使いと、防御しかできない騎士……。
結局ダメダメなヒトたちばかりが集ってしまい、これでモンスターに勝てるのか⁉と思ったのだが、このイビツな能力の持ち主たちが予想外に活躍し……というのが『このすば』の面白さだ。
科学的にも興味深いところが多々あるけど、今回は魔法使い・めぐみんが放つ「爆裂魔法」について考察してみたい。
◆直径90mのクレーターを作った
めぐみんは、黒いマント、黒いローブ、トンガリ帽子と、いかにも魔法使いっぽいカッコウの13歳。目も悪くないのに、眼帯で左目を隠しており、つまり中二病に冒されている。
しかし、職業は「アークウィザード(上級の魔法使い)」で、習得が難しい「爆裂魔法」が使えるとアピールして、カズマのパーティーの一員となった。
実際、めぐみんの爆裂魔法の威力はものすごかった。
「我が名はめぐみん! 紅魔族随一の魔法の使い手にして、爆裂魔法を操りし者!」などと中二っぽい詠唱をした後に「我が力、見るがいい! 『エクスプロージョン』――ッ!」と叫ぶと、閃光が走り、巨大な爆発が起こる。
魔王軍の幹部・ベルディアの配下たちにこれを放ったときには、街の広場に巨大なクレーターができ、魔物たちは1匹残らず消し飛ばされた。
このシーン、小説よりもアニメのほうがわかりやすいので、そちらの描写を見てみよう。
すると、爆裂魔法で生じたクレーターの直径は、目測90mほどもある。一般に、クレーターの深さは直径の5分の1程度になるので、その深さを18mとするなら、えぐれた部分にあった岩石は16万tだ。
これを砕いたエネルギーは1200万kcal。爆薬12t分である。
◆爆撃機の爆弾1035発分!
それだけでも充分すごいが、めぐみんが放ったエネルギーはこれだけではない。爆薬12t分というのは「岩石を砕く」エネルギーで、クレーターを形成するには「砕いた岩石を吹き飛ばす」必要もあるからだ。
アニメの描写を見ると、クレーターの周囲に岩石の破片は数えるほどしか落ちてなかったし、近くにいた人々や、街に破片の飛散による被害が出た様子はなかった。ということは、岩石の破片の大半は、かなり遠くまで吹き飛ばされたのだろう。
ここでは、破片が平均2km飛ばされたと考えよう。すると、そのエネルギーは4億200万kcal、爆薬402t分。岩石を砕いたエネルギーよりはるかに大きい。
そして両者を合計すると、4億1400万kcal、爆薬414t分となる。爆撃機が搭載している千ポンド爆弾に換算すると1035発分ものエネルギーだ。ものすごい!
これほどの爆裂魔法が放てるめぐみん。この魔法使いがいれば、カズマのパーティーも盤石では……と思ってしまうが、そう簡単な話ではなかった。
「私は爆裂魔法だけが好きなのです」と言い放つめぐみんは、この爆裂魔法しか使えない。他の魔法を覚える気など、全然ないのだ。
したがって、カエルの魔物を倒すときも、キャベツの魔物に対しても、爆撃機の爆弾1千発以上に相当する爆裂魔法を使うしかない。あまりにもムダがでかい。
こういう仲間と旅をするうちに、冴えなかったカズマが少しずつ立派になっていく……というのも『このすば』の魅力の一つである。興味ある方は、ぜひご一読を。楽しいよ。