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超技巧デュオ、星空の彼方へ。ザ・レゾナンス・プロジェクトが第2弾アルバム『アド・アストラ』を発表

山崎智之音楽ライター
The Resonance Project / P-Vine Records

ザ・レゾナンス・プロジェクトのセカンド・アルバム『アド・アストラ』は、国境もジャンルも超えた超技巧ミュージシャン2人が星空の彼方へと翔び立っていく旅立ちの記録だ。

日本人ギタリスト/ベーシストのYas Nomuraと中国人ドラマーのLang Zhaoが米国ロサンゼルスで結成したこのバンド。前作『ザ・レゾナンス・プロジェクト』(2019)発表時には自らの音楽を「プログレッシヴ・ロックやジャズ、フュージョンにクラシックのオーケストレーションを加えている。最も愛しているスタイルの集大成」と定義した彼らだが、さらにハードな方向に舵を切ったサウンドがスリルと興奮を呼び起こす。

彼らの見据える星空の向こうには何があるのか。Yas Nomura(野村康貴)が解き明かしてくれた。

The Resonance Project『Ad Astra』ジャケット(P-Vine Records / 2023年2月24日発売)
The Resonance Project『Ad Astra』ジャケット(P-Vine Records / 2023年2月24日発売)

<よりモダンでヘヴィなサウンドを志した>

●現在(2023年2月)日本に一時帰国していて、1月27日にはブルームード汐留でYas Nomura Bandとしてのライヴを行ったそうですが、どんな音楽をプレイしたのですか?

ザ・レゾナンス・プロジェクトよりもフュージョン色の濃い音楽をプレイしました。全部で11曲やったけど6曲がオリジナル新曲で、あと前作『ザ・レゾナンス・プロジェクト』から「Reflection」をフュージョン的にアレンジしたり、カヴァーはジェフ・ベック追悼で「哀しみの恋人達」、あとアラン・ホールズワースが大好きなんでトニー・ウィリアムス・ライフタイムの「プロト・コスモス」、それからパット・メセニー「ブライト・サイズ・ライフ」、ウェイン・ショーター「フットプリンツ」というセット・リストでした。ソロとしてのキャリアはこれからも続けていくつもりだし、いつも曲を書いています。

●今年1月10日にジェフ・ベックが亡くなりましたが、彼の音楽とはどのように出会いましたか?

「哀しみの恋人達」を音楽学校の授業で知ったんです。実は最初はそのギターの凄さがあまり判らなかったけど、『ブロウ・バイ・ブロウ』は曲が好きでよく聴いていましたね。でも20歳を過ぎてYouTubeとかで改めて聴いて、やっぱり凄いと感じました。マテウス(アサト)ともこないだ話したんですけど、ギターの歌わせ方の個性が素晴らしいですね。

●2022年10〜11月にザ・レゾナンス・プロジェクトでアーチ・エコーと北米ツアーを行いましたが、どのような経緯で実現したのですか?反応はどんなものでしたか?

アーチ・エコーのアダム・ベントレイがザ・レゾナンス・プロジェクトの前作をミックスしたり、元々Langがドラマーのリッチー・マルティネスと仲が良かったりして、これまでも繋がりがあったんです。『アド・アストラ』をミックスしてもらうにあたってアダムのスタジオがあるナッシュヴィルに行って、3日ぐらい滞在したんだけど、そのときアーチ・エコーのビデオ撮影か何かがあって、リッチーとキーボード奏者のジョーイ・イゾが俺たちがミックスしているところにアダムの家に来たんです。それで「ツアーをやるんだったらオープニング・アクトにしてよ!」と頼んだら、そうなってしまった感じです。ツアーはすごく順調で、俺たちにも声援が飛びました。ライヴ後にも「知らなかったけど、お前ら最高だな!」とか言われたりして楽しかったです。アーチ・エコーのみんなとも親しくなったし、良い経験でしたよ。

●『アド・アストラ』の音楽をどのように説明しますか?

今回はよりモダンでヘヴィなサウンドを志しました。「Void」はメシュガー的な曲だし、「Macrocosm」「End Of Time」などもメタルの要素が強い。前回のアルバムはヘヴィさが足りないと思ったんで、オーケストラなどは入れすぎないように心がけました。クワイアが入っていたり、シネマチックな曲はありますけどね。Langが書いた「Ad Astra」もそんなタイプで、ほぼ出来上がっていたけど映画『デューン/砂の惑星』を見たことで、新たなインスピレーションを得ました。中近東的というのかな?さらに「Gem」はイントロでタッピングを入れたりして、ギタリストが聴いて楽しめる曲ですね。

●アルバムの“モダン”な部分というのはどんなところですか?

特定の曲を指すのでなく、全体的なムードかな。イギリスのプログレッシヴ・ロック界のスーパーグループ、フロスト*から触発されたサウンドを目指したんです。ああいう現代的な音作りがずっと好きで、そういうことをやってみたかった。

●ギター・プレイへのアプローチはどのように変化しましたか?

自分のスタイルが確立されてきましたね。今の自分がやりたい、チョーキングやヴィブラートを多用したよりロック的なアプローチに向かっていきました。まあ、それはマテウスから刺激を受けた部分もあったと思います。彼はInstagramだとメロディックなソロ・ギターのイメージがあるけど、ライヴだとかなりロックしていますしね。「End Of Time」のギターはジョン・ペトルーシを意識しているし、「Gem」はアラン・ホールズワースを意識して弾いています。「Void」はヤバい混沌した感情を詰め込もうとしました。テクニカルなソロでそれを表現出来れば良いですね。前作からの3年で、俺たちのミュージシャンシップはかなり上がっています。ギター・プレイとサウンドは確実に良くなっています。曲は客観視出来ないし、良くなったかどうか判らない部分もあるけれど、アルバムを作っているときは最高にカッコ良いと考えながらやっていましたよ。

●アルバムの制作作業はスムーズに進みましたか?

いや、難航しました。さまざまなパートを作り込みすぎたのも理由のひとつで、一時は2人ともやる気がなくなっちゃったりして(苦笑)。でもそれから必要なパートを取り払ったりして、焦点を絞っていきました。

●『アド・アストラ』は1曲目「Ad Astra」から盛り上がっていって、組曲形式の「Dawn」〜「Lux Aeterna」〜「End Of Time」でクライマックスを迎えるまでひとつのドラマ・流れがありますが、アルバム単位のトータル性はどの程度意識しましたか?

実はそれほど意識しなかったんです。とにかく曲を書いて、途中まで出来たらお互いに聴かせて、2人で完成させていく感じでした。「Dawn」から「End Of Time」までの流れはまずその2曲を別々に書いて、それを繋げる間奏曲として「Lux Aeterna」を書きました。「End Of Time」からのモチーフを用いてね。最初からトータル性を考えたわけでなく、結果としてそうなりました。ただ俺としては全編が繋がったコンセプト・アルバムも作ってみたいんですよね。いずれドリーム・シアターの『シックス・ディグリーズ・オブ・インナー・タービュランス』(2002)みたいなアルバムにも挑戦してみたいです。

Yas Nomura / courtesy P-Vine Records
Yas Nomura / courtesy P-Vine Records

<ザ・レゾナンス・プロジェクトは自分たちが本当にやりたい音楽を制限なくやるバンド>

●アルバムでは数々のフィーチュアリング・ミュージシャンが参加していますが、何人かについて教えて下さい。まず「Macrocosm」でギターを弾いたコリン・クックはどんなプレイヤーですか?

どこかのハウス・パーティーで会って、普通に良い奴で、仲良くなりました。カマシ・ワシントンとかとやっているキャメロン・グレイヴスってピアニストのライヴをよく見に行っていて、そこでコリンがプレイしていたんです。それからジャムをやるようになって、今では一番仲が良い友達の1人ですね。「Macrocosm」は3年ぐらい前、コロナ禍が始まる直前ぐらいに書いた曲で、最初のコード進行を俺が書いてLang、コリンとジャムをしながら仕上げていきました。アルバムで一番古い曲です。

●「Dawn」では前作に続いてマテウス・アサトが参加していますが、彼にはどんなプレイを求めましたか?

マテウスとは友達だし、1曲は頼みたいと思っていたんです。で、ライヴのステージで見せる彼のよりロックな面を引き出そうとしました。これからも彼とは一緒にやりたいですね。

●「Gem」でベースを弾いているアドリアン・フェローはジョン・マクラフリンやリー・リトナーとの活動でもおなじみですが、どのようにして共演に至ったのですか?

元々俺が大ファンで、MIにいた頃か卒業したときに3回ぐらいベースのレッスンを受けたことがあったんです。実は前作にも参加して欲しかったけど実現しなくて、その後「何かあったら連絡してくれ」と言われて、頼んでみました。自分の書いた曲でアドリアンに弾いてもらえるのは最高ですよ。

●アドリアン・フェローのレッスンはどのようなものでしたか?

彼は感覚的なプレイヤーなんで、理論を学ぶよりも、目の前で弾くのを見せてもらって、タッチやアプローチを学んでいくスタイルでした。コードのヴォイシングを見て「そういう発想なのか」とかヒントをもらったり、さまざまなことを学びました。

●「End Of Time」ではトランス・シベリアン・オーケストラやホワイトスネイクとの活動で知られるディノ・ジェルシックがヴォーカルを取っています。前作の「Angels Ladder」では女声スキャットが入っていましたが、今回ザ・レゾナンス・プロジェクトで歌詞のあるヴォーカルを取り入れたのは、どんな考えがあったのですか?

ザ・レゾナンス・プロジェクトは自分たちが本当にやりたい音楽を制限なくやるバンドだし、ヴォーカル入りの曲をやってもいいじゃないかと考えたんです。元々「End Of Time」はインストゥルメンタルとして書いた曲だけど、ずっとヴォーカルのある音楽をやりたかったし、良い機会だと思いました。ディーノはコリン・クックのネット上の知り合いで、リキッド・テンション・エクスペリメントの「パラダイム・シフト」にヴォーカルを乗せた動画をネットで公開していて、紹介してもらったんです。17/8拍子とか途中でポリリズムが入って、誰にでも歌える曲ではないけど、この人だったら行けると信じていました。期待通り素晴らしいヴォーカルで、頼んで本当に良かったですね。

●Yasさんご自身もヴォーカルの練習をしていて、2019年の終わりにSNSにジョン・サイクスの「ホールド・ザ・ライン」の動画を公開していましたが、その後ヴォーカリストとしてのデビューはどうなりましたか?

あー、懐かしいなあ(笑)。それからも練習はしていますよ。ただ歌詞がなかなか書けなくて...でもあれからずいぶん上達したし、近いうちにやらないとな、と思います。

●「Prophecy」でトランペットを吹いているアーロン・ヤニックはレディー・ガガやスヌープ・ドッグともやっているそうですが、どうやって知り合ったのですか?

あ、それは知らなかったです。すごっ(笑)。アーロンもコリンに紹介してもらいました。Langがトランペットを入れたいと言ってきて、当初クリスチャン・スコットに頼むつもりだったけど、連絡がつかなかったんです。アーロンにやってもらって大正解でした。彼はメシュガーとかのメタル好きで、むしろそういうのをやりたいと言っていて、まさにピッタリはまった感じでした。素晴らしい演奏だし、参加してもらえて嬉しいです。

●今後の予定を教えて下さい。

2023年2月27日(月)に東京・ブルームード汐留で、菰口雄矢さんのライヴにゲスト参加します。菰口さんは俺がギターを教わった師匠なんです。ザ・レゾナンス・プロジェクトとしてのライヴはまだ決まっていないけど、いくつかお話はいただいているんで、良い形で出来たらぜひやりたいですね。あと今年はソロ・アルバムを出したいです。曲は揃っていて、あとアレンジを完成させたいものもあるけど、大事なのは資金ですね(苦笑)。レコード会社を通すかクラウドファンディングをやって自分で出すかなど、いろいろ考えています。それ以外にもいろんなことにチャレンジしていきたいですね。

【新譜情報】

ザ・レゾナンス・プロジェクト

『アド・アストラ』

2023年2月24日発売

P-Vine Records PCD-25358

日本レーベル公式サイト

https://p-vine.jp/artists/the-resonance-project

バンド公式Facebook

https://www.facebook.com/theresonanceprojectmusic/

【2019年のインタビュー】

【インタビュー前編】超技巧インストゥルメンタル・デュオ、ザ・レゾナンス・プロジェクトが日本デビュー

https://news.yahoo.co.jp/byline/yamazakitomoyuki/20191015-00146956

【インタビュー後編】超技巧デュオ、ザ・レゾナンス・プロジェクトがデビュー作で実力派プレイヤー達と合体

https://news.yahoo.co.jp/byline/yamazakitomoyuki/20191017-00147238

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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