40年ぶりの民法改正で一部が今月施行、「相続」でもめるのが心配な人は要チェック
◆1月13日から「自筆証書遺言」の方式が緩和された
昨年7月に法案が可決し、1980年(昭和55年)以来、約40年ぶりに民法が大幅に見直されることが話題になっています。40年も経てば時代に合わなくなって当然。遅すぎるくらいかもしれません。
なかでも「相続」にかかわる内容は、改正点に関心を持っておくといいでしょう。相続は「争族」と表現されることがあるように、遺産の多寡にかかわらずどの家庭にも降りかかる可能性がある問題です。事前にもめるのを防げるなら、それに越したことはありません。
すでにこの13日、改正法の一部が施行されています。「遺言制度」の見直しに関する内容です。
「遺言」は自分の財産を誰に、どのように遺したいかの意思表示をできる制度で、相続人の間でもめるのを防げる有効な手段。
「遺言」の種類のうち、公証人役場で作成し保管してもらう「公正証書遺言」は確実に遺言内容が実行される安心感がありますが、費用がかかる、証人が2人必要などでややハードルが高く感じられるかもしれません。
その点、人に内容を知られずいつでも自分で作成できる「自筆証書遺言」は手軽ですが、発見されなかったり、内容に不満を持つ相続人により隠蔽されたりで、実行されない危険性があります。
また、相続発生した際には、家庭裁判所による「検認」が必要。検認されたところ、文字が不明瞭だったり財産が具体的に特定できないなどの不備により、無効になってしまうこともかなりあるようです。
そこで今回の改正です。これまで全文を手書きしなければならなかった「自筆証書遺言」が、「財産目録」についてはパソコンによる作成、銀行通帳のコピーや不動産の登記事項証明書等の添付でOKとなりました。偽造を防ぐため、目録にもすべて署名・捺印する必要があります。
さらに、紛失・偽造を防げる法務局での「自筆証書遺言の保管制度」が新たに創設されることになりました。スタートは2020年7月10日ですから、こちらは1年以上先。手数料などの詳細がわかるのはこれからですが、「自筆証書遺言」の作成を検討している人は利用したい制度です。
保管制度を利用した場合には、家庭裁判所による検認は必要なくなります。
◆介護に貢献した親族に「特別寄与料」の請求権
夫の親の介護をしているというお嫁さんが見逃せないのは、今年の7月1日に施行される「特別寄与料請求権」。新設された民法第1050条に定められているのですが、相続の権利がない親族が介護に貢献をしている場合、相続人への「特別寄与料」の請求を認めるという内容です。
子どもがいる夫婦という家族構成のケースで、夫が死亡した場合に相続の権利がある「法定相続人」は、「妻と子ども」となります。子どもの結婚相手は親族にはなりますが、法定相続人ではありません。
そのため、同居している夫の親の介護を長年行っているという長男の嫁の場合、夫の親が亡くなったとしても財産は全く貰えません。それに対し、別居しており介護にはノータッチだったとしても、夫のきょうだいには夫と同じ割合で財産を相続する権利があります。
長男の嫁の立場に立てば、不公平と感じるのは無理ないでしょう。
そこで民法第1050条では、無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人(この例の場合夫の親)の財産の維持・増加について特別の寄与をした被相続人の親族(「特別寄与者」という、この例の場合長男の嫁)は、相続の開始後、相続人に対し寄与に応じた額の金銭(「特別寄与料」という)の支払いを請求できると定められました。
要するに、相続財産を受け取った夫のきょうだいに、長男の嫁は、介護に貢献した対価として一部を支払うよう請求できるということです。
こういった立場のお嫁さんが財産をもらうには、被相続人がお嫁さんにも財産を分けるよう遺言を作成する、被相続人と養子縁組みする(法定相続人になれる)などの方法がありますが、何も対策していなくても特別寄与料の請求が認められるのは、一歩前進かもしれません。
しかし、相続人が納得して請求どおり応じてくれるかどうかは何とも言えず、もめるケースが少なくないだろうと予想されます。
特別寄与料の金額が折り合わないときは、家庭裁判所が決定することになります。
いずれにせよ、客観的に妥当な請求額と判断できる資料が必要です。実際に負担した介護にかかわる支出のレシートはもちろん、どう使ったかの記録を残すことが大切です。
「被相続人の財産の維持・増加について特別の寄与をした特別寄与者」と条文にもありますから、介護にかかるお金や生活費などを被相続人が負担していた分は差し引く必要があるでしょう。
◆相続財産から葬儀代の引き出しが可能に
相続が発生すると、被相続人の銀行口座などからのお金は、相続人の間で遺産分割が済むまで引き出せなくなります。病院の支払いや葬儀代などに使いたくても、相続人が準備せざるをえないわけです。
今年の7月1日からは「遺産分割前の払戻し制度」が創設され、一定額については単独での払戻しが認められるようになります。単独で引き出せる金額は、相続開始時の預貯金額×共同相続人の法定相続分の3分の1(ただし、1つの金融機関から引き出せるのは150万円まで)。
たとえば、被相続人の預金が900万円あって法定相続人が3人の子どもの場合、法定相続分どおり分割すると1人当たり300万円ですが、引き出せるのはその3分の1の100万円ということです。
7月1日に施行される遺産分割に関する見直しには、「婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与に関する優遇措置」もあります。
贈与税の特例として、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で居住用不動産(マイホーム)あるいは居住用不動産を取得するための資金の贈与が行われた場合、基礎控除110万円にプラスして最高2000万円までの配偶者控除があります。つまり、2110万円まで非課税で贈与できるわけです。
現行制度では、この居住用不動産の贈与は遺産の先渡しをしたものとして取り扱われ、贈与分も相続財産に含めて遺産分割することになるため、贈与があってもなくても、配偶者が受け取る遺産額は変わらないことになります。それではこの制度の趣旨が活かされません。
そこで今回の改正では、居住用不動産の贈与分はすでに配偶者の財産として取り扱われるようになり、遺産の先渡し分としてカウントされません。結果的に配偶者は多くの遺産を相続できることになります。遺された配偶者の生活への配慮が目的です。
◆「配偶者居住権」の創設でマイホームを失わずに済む
同じく遺された配偶者の生活への配慮として話題になっているのが、2020年4月1日に施行される「配偶者居住権」の創設です。
都市部では、遺産の大部分がマイホームで金融資産はそれほど多くないというケースが少なくありません。夫が亡くなり、妻と子どもが相続することになった場合、法定相続分どおりに分割するとしたらマイホームを売却するしかなくなります。
妻が遺産の大部分を相続し、マイホームに住み続けられるよう協議が整えばハッピーですが、1人でも権利を主張する子どもがいるとそうはいきません。
そこでマイホームにかかわる権利を「所有権」と「配偶者居住権」に分け、所有権を子どもが、配偶者居住権を妻が相続できるように図られました。
たとえば、相続人が妻と子ども2人、遺産がマイホーム2000万円、預貯金1000万円というケースで、マイホームを所有権1000万円、配偶者居住権1000万円と評価した場合、妻が配偶者居住権1000万円と預貯金500万円、子どもが所有権500万円と預貯金250万円ずつといった分け方が可能になります。妻はマイホームに住み続けられ、預貯金も分割して相続することができるわけです。
「配偶者居住権」は妻が亡くなるまで続きますので、所有権があるといえども子どもは勝手に売却したりできません。
住んでいる間は、「居住建物の通常の必要費を負担する」こととされており、修繕費や本来は所有者が負担する固定資産税も、居住する妻が負担することになるようです。
新制度がスタートしても、すぐに現金が欲しい相続人がいたりすると、分割協議の際やはりもめるのではないかと心配されます。
とはいえ、「配偶者居住権」という明確な権利ができることで、マイホームに住み続けてもいいのかの心配から解放される高齢の妻も少なくないと思われます。