ステイホームで喘息発作が少なくなった?しかし今こそ、普段の喘息治療を忘れずに…
私は、日中の外来だけでなく夜間の救急外来を担当することが少なからずあり、前線での子どもたちの感染の流行状況を肌で感じることが多いです。そして今年は、例年多いはずの春先の喘息発作での受診が少なかったなあと感じています。
しかし、ここ数週間で急に喘息発作のお子さんが増えてきた印象です。
ちょっと気になることもありますので、喘息と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の関係などをご紹介したいと思います。
喘息発作が一時的に減ったのは、やはり感染症が減ったからだと考えられます
喘息発作のお子さんが減っていたのは、日本だけの現象ではありません。
ロックダウンなどが行われた米国でも、子どもの喘息発作による入院は76%も減ったと報告されています(※1)。
この理由のひとつとして、やはり集団生活が一時的に制限されたため、感染症が減ったからだと考えられています(※2)。
(※1)Kenyon CC, et al. Journal of Allergy and Clinical Immunology: In Practice 2020.
(※2)Gupta A, et al. Lancet Respir Med 2020.
実際に、いつもは今頃には大きく増えていたRSウイルス感染症(小さいお子さんが罹ると、気管支炎になりやすいウイルス感染症)や、咽頭結膜熱(アデノウイルスによる夏かぜ)もほとんど流行してきていません(※3)(※4)。
集団生活の制限や手指衛生などをみなさんが頑張っておられたことに効果があったのだと思います。
咽頭結膜熱の流行状況(赤線が今シーズンの流行状況)
RSウイルスの流行状況(赤線が今シーズンの流行状況)
(※4)RSウイルス感染症の流行状況(東京都感染症情報センター)
喘息発作を起こしやすいウイルスとは?
喘息発作は特に、『ライノウイルス』というウイルスで悪化することが多いとがわかっています(※5)。ライノウイルスは、いわゆる『風邪』の原因となるウイルスではもっとも多く、全体の半数近くを占めています(※6)。
ライノウイルスをはじめとした感染症が減ったために、全体的な喘息発作も減っていたのでしょう。
(※5)Corne JM, et al. Lancet 2002; 359:831-4.
(※6)Heikkinen T, et al. Lancet 2003; 361:51-9.
一方で、医療の制限があったり、受診がしにくくなったりしています
新型コロナウイルスの流行に伴い、さまざまな医療の制限が起こってきています。
たとえば、救急外来などでは、薬剤を霧状にして吸う医療器具である『ネブライザー』の使用制限が行われています(※7)。
そして、流行が大きくなってくると、受診制限が起こってくるケースもでてきます。
たとえば米国でも、喘息診療に関して39%が診察予約を中止し、47%が新規患者の受け入れが中止としていたそうです(※8)。
喘息発作が少なくなり、さらに医療機関の受診がしにくくなると、定期薬が途切れがちになってしまうかもしれません。そうなると、心配事が増えてくるのです。
(※7)新型コロナの影響で喘息発作のときの吸入治療が受けられない?その対策とは
(※8)Papadopoulos NG, et al. J Allergy Clin Immunol Pract 2020.
最近、喘息発作のお子さんが増えてきました
最近1~2週間、夜間に喘息発作があり受診されるお子さんが明らかに増えてきました。
学校や園が再開となることで、感染症が増えてきたことが考えられます。
そしてお話を伺ってみると、多くの方が『調子が良かったので薬を中断していた』と答えられます。
ただでさえ、夜間の受診時の医療に制限がかかりがちな状況でもあり、小児科医としては心配になる点です。
アレルギー性の喘息は、『新型コロナウイルスが重篤化しないように働いている可能性がある』と報告されています
一方で、喘息のお子さんにとっての朗報もあります。
アレルギー性の喘息は、新型コロナウイルス感染症を重症化させないようにする理由になるかもしれないという報告がでてきたのです。
まだ理由は十分わかっているとはいえませんが、こんなメカニズムが考えられています。
新型コロナウイルスは、『ACE2受容体』というゲートを通って体の中に入ってきます。しかし、アレルギー体質があると、そのゲートが狭まる可能性があるようなのですね(※9)。
つまり、アレルギー性喘息は、新型コロナの重篤化を減らす(罹らないという意味ではない)可能性があるということです。
(※9)Matsumoto K, et al. J Allergy Clin Immunol 2020.
では、喘息があると、新型コロナの感染を心配しなくてもいいのでしょうか?
もちろんアレルギー性の喘息は、喘息の治療をしなくていいというわけではありません。
従来のコロナウイルスも含め、ウイルス感染が喘息発作の原因になることは、最初にお話したとおりです。
そして新型コロナウイルスは、一般的な風邪やインフルエンザと比較して、息切れや呼吸困難を起こしやすいとされています(※10)。
(※10)Interim Clinical Guidance for Management of Patients with Confirmed Coronavirus Disease (COVID-19)
そして喘息発作は、新型コロナ感染のあるなしにかかわらず、息切れや呼吸困難を起こします。
つまり、新型コロナに罹って呼吸困難を起こしているのか、喘息が悪化して息切れをしているのかが、『区別がつきにくく』なりますので、よりリスクが高くなるのです。
もうひとつ、心配になるような報告が最近発表されました。
風邪の原因として多いライノウイルスに対する感染を起こすと、新型コロナウイルスの侵入するゲートであるACE受容体が増え、新型コロナに感染した場合の喘息発作を重症化させるかもしれないという報告がなされたのです(※11)。
やはり、普段の喘息の治療をしっかりおこなって、喘息発作が起こらないように心がけておくことが重要だと思われます。
(※11)Chang EH, et al. Am J Respir Crit Care Med 2020.
なお最近、日本小児アレルギー学会からも、吸入ステロイド薬を中止しないように、その安全性も含めて声明がでています(※12)。参考にしてみてくださいね。