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「“第2の世界金融危機”はすでに始まっている」投資家ジム・ロジャーズ氏の警告 米債務過去最大に!

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
米の債務膨張を懸念する世界3大投資家の一人、ジム・ロジャーズ氏。(写真:ロイター/アフロ)

 米国財務省のデータから、米国政府の公的債務残高が初めて22兆ドル(約2400兆円)を超え、過去最大となったことがわかった。

 ことに、債務は、昨年3月からの約11ヶ月で1兆ドル以上も急増。トランプ政権が行った大型減税による税収ダウンと国債発行の増加がその原因だ。

 米議会予算局は、2019年の財政赤字は、100ビリオンドル以上増の900ビリオンドルに達すると予想している。また、GDPに占める財政支出の割合は、20.8%から、2029年には23%に増加すると予測されている。

 懸案の「国境の壁」問題で与野党が合意に達し、政府閉鎖が回避されることへの期待感から、2月12日のニューヨーク株式相場は約2ヶ月ぶりの高値で引けたものの、米国政府が抱える債務は膨らみ続ける一方だ。

 懸念されるのは世界的な景気後退だ。

 ウォーレン・バフェット氏やジョージ・ソロス氏と並び、世界3大投資家の一人として知られるジム・ロジャーズ氏は、筆者のインタビューで、以下のように警鐘を鳴らした。

 「“第2の世界金融危機”は近づいています。おそらく、2019年か2020年には起きるでしょう。いやすでに、始まっているかもしれません。すでにその兆候が見られるからです。ベネズエラのような、これまでは誰も気にとめていなかったような小国で深刻な経済危機が起きています。また、2018年は、ラトビアの銀行が破綻し、アルゼンチンやトルコ、インドの銀行でも問題が起きました。この状況は世界中に広がっていくかもしれません」

 肉を買うのに大量の紙幣を積み上げなければならないほどのハイパー・インフレに襲われているベネズエラの状況は極めて深刻だ。2019年の同国のインフレ率は1000万%に達すると予想されており、もはや同国の経済は崩壊している状況にある。

米国経済は最悪の時期に突入

 金融危機は誰も気にとめていなかった地域から始まるとロジャーズ氏はいう。2008年に起きた世界金融危機がそれを証明しているというのだ。

「2007年にアイスランドで経済危機が起きました。しかし、誰もそのことに注意を払っていなかった。中には気づいている人もいましたが、誰も気にしていなかったのです。同年7月には、投資銀行のベア・スターンズ傘下のヘッジファンドが破綻。同年9月には、イギリスの大銀行ノーザンロックの資金繰りが悪化した。そして、2008年9月に、リーマン・ブラザーズが倒産した。いわゆる“リーマン・ショック”です。リーマン・ショックが起きるまで、様々な兆候は見られていたのに、多くの人々がそれを気にとめず、リーマン・ショックが起きてはじめて何かがおかしいと気づいたのです。このように、景気後退は、誰も気にかけていなかった地域から始まり、後になって、突然、人は大問題が起きていることに気づくものなのです」

 何と言っても、ロジャーズ氏が懸念しているのは米国経済の悪化だ。

これから数年は、私の人生の中でも、米国経済は最悪の時期を迎えます。2008年の金融危機の時、米国は債務を抱えていましたが、その額は、2008年以降、どんどん膨らんでいったからです。同じ状況は米国に限らず、世界中で起きています。だから、次に景気後退が起きた場合、状況は前の世界金融危機よりさらに深刻なものになるのです。私の見立てでは、株価はあと1度は大きく上昇するでしょうが、それを最後に、落ち込んでいくでしょう」

 金融危機が起きると、中央銀行は対策を講じるので、株価はしばらくは上昇するか、あるいは、下降が止まる。しかし、そんなやり方は結局問題の解決にはならないとロジャーズ氏はいう。2008年以降の10年の間に、米国の中央銀行のバランスシートは500%膨張したからだ。

「我々は債務を懸念しなければなりません。中央銀行は解決策を講じますが、間違った解決策なのです。再び金融危機が起きたら、中央銀行は、再び、間違った解決策を講じることでしょう。そうやって、状況はどんどん悪化して行くのです」

中国の債務問題も経済に影響

 世界経済減速の主な原因は米国にあるが、中国の債務が増加していることも影響を与えているとロジャーズ氏は指摘している。

「中国は2008年の金融危機の際はお金を持っていましたが、世界を助けるためにそれを使ったので、米国ほどではないものの、今では多くの債務を抱えています。中国は債務を削減させようとしていますが、これもまた世界経済の減速に影響を与えているのです」

 ロジャーズ氏が現在居住しているシンガポールの人々も、世界経済の減速を肌で感じ始めているという。シンガポールは経済が低迷し始めている中国の影響を大きく受けている国であるし、隣国のマレーシアやインドネシアの株式市場も軟化しているからだ。

 至るところで噴出し始めた“第2の世界金融危機”の芽。ロジャーズ氏は、この状況はノーマルなことだとしながらも、懸念すべきだと警告する。

「歴史を振り返ると、景気後退が起きなかった時代はありません。景気後退が起きることはノーマルなことであり、逆に、定期的に起きなかったとしたら、それはとても異常なことなのです。そして、今が、経済の問題が起きている時。我々はこの状況を非常に懸念しなければなりません」

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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