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卓球五輪「3人目」選考を左右する世界ランキングによる対戦シミュレーションとは

伊藤条太卓球コラムニスト
リオ五輪男子団体銀メダルに輝いた日本チーム(左から水谷隼、丹羽孝希、吉村真晴)(写真:Enrico Calderoni/アフロスポーツ)

 1月6日に控えた卓球・東京五輪の日本代表選手の発表。注目されるのは、すでにシングルスの枠を確保した2名に加え、3人目が誰になるかだ。日本卓球協会発表の「2020 東京オリンピック男女日本代表候補選手選考基準」によれば、3人目は「シングルスの代表候補選手とダブルスが組め、団体戦でシングルス及びダブルスにて活躍が期待できる選手」を強化本部が決定するとなっている。

 選考基準に明示されてはいないが、団体戦でよりよい成績を残すために、できるだけ世界ランキングの高い選手を選んだ方がよいと一般的には言われている。団体戦に出る個々の選手の世界ランキングから、チームとしての世界ランキングが計算され、それにもとづいて団体戦のシードが決まるからだ。

 誰もが知っている通り、卓球界では中国が飛び抜けて強い。その中国と決勝まで当たらないシード権を得ることが、よりよい成績を収めることにつながる。チーム世界ランキングが中国に次ぐ2位を確保できれば、決勝までは中国と当たらないが、3位、4位になるとその保証はない。だから3人目の選手の世界ランキングが取り沙汰されるわけだ。ところが、日本チームの世界ランキングがどのような見込みなのかを詳細に報じた記事は目にしない。そこで今回、それらを独自に調べて見た。

 チーム世界ランキングは、単純に選手の世界ランキングの平均から計算されるわけではない。そのメンバーで五輪の団体戦を戦ったらどうなるかを一定の規則に基づいたオーダーでシミュレーションして、試合結果を全チーム(男子142チーム、女子126チーム)の総当たり戦で計算し、その勝敗で決められる。シミュレーションに使われるオーダーは、どちらのチームも1番強い選手がシングルス2点使いで、2番目と3番目の選手がダブルスを組み、3番目の選手同士が必ず対戦する組み合わせだ。各対戦では世界ランキングが上の選手が必ず勝つことにし、ダブルスはペアの二人の世界ランキングの合計を比較して勝敗を決める。

 このようにして計算されるチーム世界ランキングの行方を、2019年12月発表の世界ランキングを使って考察してみた。

 まずは男子からだ。日本が2位争いをする相手は、韓国とドイツだ。日本の3人目の選手はXとし、括弧内の数字は世界ランキングを表す。

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 ご覧のように、選手Xの世界ランキングによって、韓国、ドイツよりも下になることが有り得る状況だ。韓国には勝っているように見えるが、丹羽と張禹珍は僅差であり、来年7月までに上下関係が入れ替わる可能性があるため確実ではない。よって、3人目の世界ランキングは極めて重要だと言える。

 一方、女子は日本と2位争いになりそうな相手は香港、台北、韓国だ。台北と韓国は、世界ランキング50位以内に二人しかいないため、3人目の世界ランキングを50位より下とした。また、日本の3人目Xはあえて50位と仮定した。この3チームに対するシミュレーション結果が以下の通りだ。

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 以上のように、日本チームの3人目に50位以内なら誰を選んでも、この3チームより世界ランキングが下になることはなく、中国に次ぐ2位を確保できる。よって、3人目を選ぶのに世界ランキングを考える必要はない。

 強化本部は、以上の事実をもとに選考をしていると考えられる。

 ちなみに、このシミュレーションをすると、中国は男女ともに世界ランキング1位から3位まで独占しているため、問答無用ですべての対戦が5-0の完勝で1位となる。バカバカしいほど当然のことだが、あらためて中国に勝つことの絶望的な困難さが浮き彫りとなるシミュレーションだ。

 また、中国代表は中国卓球協会が戦略的に決めるので、ないとは思うが、世界ランキングが低い選手ばかり(それでも当然のように強い)でチームを構成し、あえてチームランキングを下げてきたりしたら、何が何だかわからなくなってしまうことも付け加えておく。

ITTF資料:チーム世界ランキングの算出方法(P10に記載)

ITTF資料:チーム世界ランキングの五輪への適用方法(末尾に記載)

ITTF資料:ランキングとシードの関係(P57の3.6.2に記載)

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卓球コラムニスト

1964年岩手県奥州市生まれ。中学1年から卓球を始め、高校時代に県ベスト8という微妙な戦績を残す。大学時代に卓球ネクラブームの逆風の中「これでもか」というほど卓球に打ち込む。東北大学工学部修士課程修了後、一般企業にて商品設計に従事するも、徐々に卓球への情熱が余り始め、なぜか卓球本の収集を始める。それがきっかけで2004年より専門誌『卓球王国』でコラムの執筆を開始。2018年からフリーとなり、執筆、講演活動に勤しむ。著書『ようこそ卓球地獄へ』『卓球語辞典』他。NHK、日本テレビ、TBS等メディア出演多数。

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